『サイコー新聞部』シリーズ

Aoi

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Ⅱ. 革命

第拾陸話 キスをされる男とする女とやはりする女

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「あがりっ」
「むぅ」
 これで3連敗。私は思わず頬を膨らます。コーセーくんが苦笑いした。
「ヒマリ、貴女あなた弱すぎよ。一回も勝ってないじゃない。どうしたらそんなに負けられるのよ」
「知らないよ。っていうか、しれっとコーセーくんが連勝してるのがムカつく。どうしたらそんなに勝てるの?」
「普通にやってるだけなんだけどなぁ」
 コーセーくんは頭をいた。普通にやって勝てるならわけない。普通にやって勝てないから困っているのだ。そんなことを思いながらコーセーくんを睨みつけていると、アカネちゃんが珍しくまともなアドバイスをする。
貴女あなたは攻め過ぎなのよ。コーセーみたいにもっと相手の行動を予測しながらカードを出さないと」
 「相手の行動を予測しながら」か。なるほど、コーセーくんらしい。よし、私もコーセーくんみたいな優男ならぬ優女になろう。お昼には紅茶をすすりながら、お庭を眺め、草花や蝶にまで愛情を注ぐ、そんなお嬢様の如く、おしとやかな女性になろう。
「……ヒマリ。何考えてるか分からないけど、多分無理だと思うわよ」
「ひどい! 私だって頑張ればコーセーくんみたいな人になれるもん。ねっ、コーセーくん?」
「いやー……」
「コーセーくん!?」
 私は手に持ったカードを机上に落とし項垂うなだれた。よく考えれば今もパイプ椅子の上に胡座あぐらをかきながら座っている。おしとやかにはあまりに程遠い。
「もう少し人の目を気にしたほうがいいのかな……」
 悄気しょげている私の代わりにコーセーくんがカードを片付ける。こういう気遣いが私には足りないのだろう。
「でも、最近じゃあ、人の目を気にせざるをえないことも増えてきたんじゃないの?」
「そりゃそうよ。なんたって学校中の注目の的なんだもの。ね、生徒会長?」
 私は大きくため息をついた。夏休みが終わりちょうど一週間が経つが、この一週間は本当に怒涛どとうの日々だった。
 あの大阪旅行の後、私はすぐにお姉ちゃんの自殺の真相を学校に報告した。その結果、遠藤さんとその周辺人物は謹慎処分などの措置を受け、校長や担任はいじめに気づけなかったことを記者会見で謝罪した。校長は辞職し、お姉ちゃんのクラスには新しい担任がやって来た。
 事態はそれだけに収まらなかった。同じクラスにいながらいじめに気づくことが出来なかったことに責任を感じた藤原先輩が、後期生徒会長選挙の出馬を辞退したのだ。代わりに副生徒会長で藤原先輩のいわゆる懐刀である宮田先輩が出馬するかと思われたが、「僕は会長のサポート役だった。会長に問題があるということは僕にも問題があることだ」という殊勝なコメントを残し、彼も出馬を辞退した。結果、繰上げ式で私が生徒会長に立候補することになったのだ。
 先日、遠藤さんのいじめを告発し、姉の敵を討った1年生の女子生徒が、今度は生徒会長に立候補するということで、学校中で大きな話題となった。アカネちゃん曰く、裏では「小さきジャンヌ・ダルク」などと大層な名前で呼ばれていたらしい。選挙の結果、満票一致で私が生徒会長に相成った。1年生の生徒会長は実に50年ぶりらしい。
「こんなに人気者になったんだし、友達の一人ぐらい出来たんじゃないの?」
 アカネちゃんの問いに対し、私は机にあごを乗せながら沈鬱ちんうつな表情で答える。
「それが、生徒会長になったことで、皆がより私を敬遠するようになっちゃって。最近では『島崎さん』じゃなくて『会長さん』って呼ばれることも増えてきて、皆との距離が深まる一方で……」
 私は机に突っ伏した。アカネちゃんが私の頭をで励ます。
「『会長さん』なんて呼ばれちゃ、畏まるのも無理ないわよね。それにしても、人に気を遣いすぎるのも考えものね」
 私は机に突っ伏しながら低くうなった。この調子だと、向こう一年は友達は出来ないだろう。ただでさえ、友達がいなくて困っていたのに。同級生に友達がいないと、体育の授業が地獄なんだよなぁ。何度先生とペアを組まされたことか。
 私はむくりと起き上がった。そして頬をパチンと叩いた。よし、友達は諦めよう。
「もう、いいや。私にはアカネちゃんとコーセーくんがいるし」
 開き直った私を見て、コーセーくんが苦笑くしょうする。
「そんなこと言ってるようだと、ますます友達できないんじゃないか?」
「いいの。二人が卒業するまでぼっちにはならずに済むし。それに二人のこと、大好きだし」
 私が笑ってピースサインを見せると、アカネちゃんがやれやれといった表情で私を見た。
「ほんと、厄介な妹を持ったわね」
「だね」
 アカネちゃんとコーセーくんは見つめ合って笑った。

「ところで、デートはどこ行ったの?」
「福井よ。なかなかいい所だったわ。東尋坊に恐竜博物館、海の幸も美味しかったし」
「アカネは海の幸ばっかり楽しんでたけどね」
「そうだっけ?」
 とぼけるアカネちゃんを見てコーセーくんはクスッと笑った。つられてアカネちゃんも笑う。
「楽しそうだね。いいなぁ。私も彼氏がいたらなぁ」
貴女あなたに彼氏が出来たら、一つだけ何でも言うこと聞いてあげるわ」
「勝算がないからってテキトーなこと言ってるでしょ。ふんだ、彼氏作ってアカネちゃんを恥ずかしい目にあわせてやる」
「案外、来年ぐらいには出来てるかもよ」
 コーセーくんがそう言うと、アカネちゃんが手をヒラヒラと振って否定した。くそー、絶対いつか後悔させてやるんだから。
「……ところでアカネちゃん、キスとかしたの?」
 私が意地悪い顔でたずねると、アカネちゃんは一瞬キョトンとした後、コーセーくんと向き合った。
「忘れてた」
「だね」
 私は呆れた顔で二人を見る。
「裸は見せ合ったのに、どうしてキスは済ませてないの?」
「裸を見せ合うことになったのは誰のせいだ」
「誰のせいよ」
「私のせいだね」
 あれ以来、私の貞操観念はかなり緩くなってしまった。コーセーくんが同じ部屋にいても平気で着替えるし、胡座あぐらをかいてパンツを見られようとも気にしない。雨の日には濡れた制服を窓際に干して、キャミソールにパンツ姿でのんびりしていることもある。この前、コーセーくんが小便中にも関わらず、教室の外にある古い男女共用トイレにつかつかと入っていったときは、さすがに怒られた。
「でも、キスぐらいはした方がいいよ。こういうのはさ、男性側がリードするんじゃないの?」
 私がニヤニヤしながら言うと、コーセーくんは平然と答えた。
「いや、僕はアカネがしたいって言うのを待つよ。どうやらそれが僕のスタイルみたいだから。ね、アカネ?」
「ええ、私がしたいって言ったらいつでもさせてね、彼氏さん」
 私は不満顔を見せた。ちぇ、つまんないの。私が子供みたいに膨れていると、アカネちゃんが「しょうがないなぁ」という顔をして、席から身を乗り出した。
「コーセー、いい?」
 コーセーくんが微笑ほほえみ了承する。二人の顔が近づき、遂に唇が重なった。数秒間、ファーストキスを堪能たんのうした後、アカネちゃんは悪戯いたずらっぽく笑った。
「特別大サービスよ」
 私は口をあんぐりと開け、二人の接吻せっぷんを眺めていた。言葉を失っている私を見て、二人は大笑いした。
「こういうとこは、やっぱりうぶなんだね」
「いつもがマセてるだけよ」
 からかう二人に対抗するように私も身を乗り出す。コーセーくんは困惑したような様子で拒んだ。
「ちょ、ヒマリ!? 何するつもり!?」
「何って、キスだよ。私はマセてるわけじゃないんだから。キスぐらい平気でするもん」
「人の彼氏のセカンドキスを奪わないでくれる……」
「えー。いいじゃん、セカンドキスぐらい」
「よくないわよ」
 仕方ない。これくらいで我慢してやるか。私は人差し指を自分の唇に当てると、今度はコーセーくんの唇に押し付けた。
「私の暫定ファーストキス。責任とって、彼氏ができるまで仲良くしてちょうだいね」
 コーセーくんはアカネちゃんと顔を見合わせ、声を上げて笑った。
「こりゃあ、とんだ妹を持ったもんだなぁ」
「ほんとね」
 夕暮れ迫る教室で、私たちは笑いあった。
 
 
 
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