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二章_本編
十話
しおりを挟む「ヴィン、もう気分は大丈夫なのか。」
そう聞きながら水を顔にかけるヴィンセントの背を撫でる。
初めて見たのだから仕方がないが……、、真っ青な顔をしているな。
少し…というか大分心配だ。
そう思った俺は此方を見つめ、口ごもっているヴィンセントの返事を聞かずにまた言葉を発する。
「…ヴィン。もし気分が悪いのであれば私と一緒に屋敷に戻ろう。」
そう言って手を差し伸べる。
するとヴィンセントは俺の手を取って立ち上がったと思えば下を向いて答えた。
「…いいえ、兄上。もう…大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」
申し訳なさそうにそういうヴィンセント。
俺はその言葉に気にするな、とだけ返すと先程噛まれた人差し指を水で洗う。
そして立ち尽くすヴィンセントを横目に少しでも気を逸らせるように話しかけた。
「…ヴィン、来てみなさい。とても綺麗な水だ。」
「っ…! 、、そうですね、兄上。ここは静かでとてもいい場所だ。」
そう言いながら辺りを見渡すと何種類か動物がおり、鳥も元気よく鳴いている。
それを見て可愛らしく微笑むヴィンセント。
(…こう見ると俺がこの可愛らしいヴィンセントに殺されるなんて考えられないな。)
湖に映る自分の顔をみて薄れつつある前世の記憶が本当は嘘だったんじゃないか、と思える程に。
そう考えながら自傷気味に笑い、水で冷たくなった指を引こうとした。
「兄上ッ!」
「…っ!」
途端、噛まれた指を掴まれ痛みで顔を顰める。
舌を噛み切ろうとしたその力で噛まれたのだ。
中々に見た目がグロい…、、。
その場所を強く握られたと想像すればどのくらい痛かったのか分かるだろう。
強い力で握られたその指からは水で流れ、止まったはずの血がまた溢れてくる。
それを見ても尚、強く握り続けるヴィンセントに俺は不安と恐怖を感じた。
何か気に障ることでもしたのか…。そんな事を考えていると声を発することも出来ないかった。
(ヴィンセントのこんな顔、初めてみた。…俺は何も分からずまま破滅の道を辿るのか。)
頬に冷や汗が伝う。
そして暫くの間沈黙の時間が流れ、痺れを切らし話しかけようとした俺より先にヴィンセントが動き出したが、その行動は余りに予想外なものだった。
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