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一章_出会い

十話_ヴィンセント視点

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「失礼します。」


「兄上、お食事をお持ちしました。」


そう言いながらドアを開け周りを見渡す。
が、兄上の姿は見当たらず奥の方に進むとベットで寝ている兄上が視界に入った。


俺は無意識に持っていた食事を近くの机に置き、寝ている兄上に近づくとベットに座る。
自分でも何故ベットに座ったのか分からない。ただ、体がそうしたいとでも言うかのように動き出した。


「……兄上。」


そう言いながら、目の前にいる兄上の髪を手ですくう。

一体どうしてしまったのだろうか。
昨日初めて出会ったあの時から兄上の事が頭から離れない。

(初めはただ…綺麗な人だと、そう思った。)

けれど一緒に居る時間が長くなればなるほど、段々と胸が痛む。


「兄上……教えてください。この気持ちは一体なんなのですか、貴方のその長く綺麗な髪も緑色の瞳も。全て触れてしまいたいとさえ思う。 私はおかしくなったのですか……?」  

俺は兄上の頬へと手を動かし、目を瞑り顔を近づける。

「兄上……。」



「……ヴィン?」


「あ、兄上ッ? 」


その言葉と共に近づけていた顔を急いで遠ざける。それよりも俺は今、何しようとしていた?兄上がもう少し遅く起きていたら俺は確実に……、

俺は段々と自分のしようとしていた事の重大さに顔が青ざめていく。もし兄上に知られていたら…。俺が顔を近づける前に起きていたのなら……そう考えると震えが止まらない。
俺は視線を下に向けながら恐る恐る聞く。



「兄上は……いつから起きて?」



まだ寝起きで頭が回っていないのか、兄上が話すまで少しだけ間が空いた。
本当に少しだけだったのだがその間がとても長いように感じた。



「ついさっき、君が私に何かを呟いた時だ。」

 

「っ……聞こえていましたか?」



「いや、声は聞こえたが内容自体は聞こえていない。何か追い詰めたような顔をしていたが大事な話だったのか。」



「い、いえそれだったら良いんです、気にしないでください! ご飯をお持ちしたので一緒に食べましょう!」



「一緒に?」



「はい、一緒です!もしかして嫌だったでしょうか……?」



「いや、嫌では無い。」


「良かったです、では取りに行ってきますね!」



そう言いながら早足で食事を取りに行く。
しかし、ほんっっとうに良かった。もし兄上に……その。き、キスをしようとしていた事がバレていたらもう、このように共に居ることも出来なくなるだろう。

俺は食事を持つと、立ち上がった兄上が座っている前の机に食事を置き自分も向かいの席に座る。



「さ、兄上。食べましょうか。」



「あぁ、ありがとう。ヴィン」



「い、いえ! 全然お礼される事なんてないです……! さっきあんな事しようとしてたし、、」



「あんな事とは?」



「なんでもありませんッ!」



「そうか。」



俺は一気に目の前にある食事を口に突っ込んだが、全然味がしなかった。
そして、それを見て兄上が不思議なような顔をしながらこちらを凝視してくる。
それがとてもいたたまれなくなり、誤魔化すように話を変える。


「そういえば、兄上は髪が長いのですね」


「あぁ、いつもは結んでいるのだが……なにせ先程まで寝ていたのでな。」


そう言いながら髪を触る兄上。
顔こそ変化していないものの耳を真っ赤にしていて少し可愛いとさえ思ってしまった。
そんな顔をされると意地悪したくなってしまうのは悪くないだろう。
俺はわざと兄上が困るような事を言ってみる。

「へぇ、だからここに寝癖がついているのですね。」


そう言いながら俺は寝癖の場所に指を指す。
すると兄上は首を傾げながら答える。


「……ここか?」

「いいえ? もう少し右ですよ。」

「ふむ。…どうだ、直ったか?」

「ふふっ、全然直ってません。少し触りますね?」

「あぁ、頼む。」


そう言うと俺は立ち上がり兄上の前に移動する。


(しかし本当に綺麗だ。同じ黒髪でもここまで違うものなのか、)


「羨ましい…。」


「ヴィン?」

その声に俺はハッとした。
俺は今、羨ましいと……。
なんて事言ってしまったんだッ!
恥ずかしい、死にたいッ!!
俺は急いで訂正する。


「なんでもないですッ! 忘れてください…! 寝癖もう直りましたよ!」

「あぁ、ありがとう。」


穴があるなら入りたい……そう思いながら頭を抱えていると、兄上が立ち上がり俺の前に来る。


「あの……兄上?なにを」

「しーっ、少し待ちなさい。」


そう言う兄上は口に指を当てる。
その姿が綺麗で俺は兄上の顔が見れず、恥ずかしくなり窓を見つめる。

それから数分経った頃だろうか。兄上が優しく微笑み小さな声で出来た、とだけ言うと1歩下がり鏡の前に手招きする。


「ヴィン、こっちにおいで。」

「? なんです?」


そう言いながらも俺は鏡を見る。
そして、そこに写る自分自身に驚いた。


「兄上、これは。」

「あぁ、私とお揃いだ。」


兄上は自分の三つ編みに指を指し、次に俺のにも指を指す。


「少しヴィンとは場所は違うが君のふわっとしている髪にはよく三つ編みが映える。 似合っているぞ。」


「兄上っ、とっっても嬉しいです!ありがとうございますっっ! ふふ、兄上とお揃いだ。」

「……喜んでもらえて良かった。」


そう言う兄上は今までに見た中で一番美しかった。




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