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一章_出会い
第六話
しおりを挟む「はぁーっ、………疲れた。」
今日の出来事をあらかたノートにまとめ終わった跡、気疲れと思いのほか溜まっていた疲労にベットに飛び込み頭を埋める。
一日だけなのに疲労感が凄い。
(こんなのでやっていけるのだろうか……。)
そう考えながら水を飲む。
今回は花瓶の水ではなくちゃんとしたコップに入った水だ。
しかし、痛みも感じるから夢では無いのは確かだしどうするのか考えていかないといけない。
沢山のやるべき事を前に頭が痛くなりそうだ。
「それにしても一人は心細い……。誰かにこの事を相談したい。話を聞いてもらうだけでいいから__」
この世界は魔法がある。何かでてこないかな、と思い勢いで前に手をかざし叫んでみる。
・ ・ ・ま、何も起こるはず無いよな。
そんな都合の良い事があってたまるか。
そう言いながら大きくため息を吐く。
兎に角、素で話せる者が居ないと俺は寂しくて死んじゃいそうだ……。
既に俺は半泣きで返ってくるはずも無いのにずっと独りで話す。
「誰でもいいから俺の言葉に返事をしてくれよ……。本当に俺が死んでもいいのかぁっ!」
……やはり何も聞こえない。
当たり前か、逆に返事でもされたら気でも狂ってしまいそうだ。もうこんなことはやめよう。
自分が惨めになるだけ。
それに、段々と恥ずかしくなってきたのも事実だ。
そう言い聞かせ、もう一度水をグッと飲む。
水を飲むとまだ幾分かマシになるような気がする。
「ふぅ……風呂にでも入って気持ちをスッキリさせたい。」
メイドとかにお世話されるのはゴメンだが入らないよりは良いだろう。
俺は重い足取りで鏡の前に向かい崩れていた髪を手である程度整える。
こんなボサボサな姿、誰かに見られたらキャラ崩壊どころじゃない。この体の持ち主であるセドリアは常に完璧主義だ。俺も意識しないと。
溜息をつきながらドアノブに手をかけ、扉を開ける。
すると何かにぶつかった感覚がし、下から声が聞こえた。
「わっ! あ、兄上?!」
「………ヴィン、何故君がここに居る。」
少し下に視線を移すと驚いた顔のヴィンセントが居て俺は顔には出ていないものの内心驚いていた。
なにせ主人公の顔がすぐそこにあるんだ。
そう意識すると手がだんだん震えてきた……。
感動で見入っている俺を横目に俺の胸元くらいだろうか。それくらいの位置にある頭を見つめているとヴィンセントが驚きの顔から段々と青ざめていく。
「…す、すみません兄上!兄上に聞きたい事があったのですがまだ認められていないのに流石に浮かれすぎていましたよねっ……本当にすみません!」
そう言いながら涙目で訴えてくるヴィンセント。こんな事言うのは性格が悪いが涙目のヴィンセントめっっちゃ可愛い……っ!
つい意地悪をしてしまいそうだ。
俺は少し垂れていた涙を指で救い頭を撫でる。
ヴィンセントは少しビクッとさせながらも手に頭をもっと、とでも言うかのように擦り付けて来る。
「っ…ヴィン。そんな事で謝らなくていい。君が私に頼ってくるのは悪い気はしない。 」
その言葉を聞くと安心した顔でこちらを向き元気よく答える。
本当に表情豊かで可愛いし見ていて飽きない。流石俺の推しだ。
「はいっ! 兄上はお優しいのですねっ、私も兄上のようなお人になりたいです!」
キラキラとした目で此方を見るヴィンセント。
その言葉に俺は少し心が傷んだ。
今の俺は心は違うが体はセドリアなのだ。
心もセドリアに引っ張られつつある。
いつ小説のようにヴィンセントに危害を加えるのか分からない。
「……私は君が思うよりいい人ではない。私は優しいとは程遠いものだ。」
「な、そんな事ありません! 私から見て兄上は凄くて憧れの存在なのです、まだ会って一日しか経っていませんがその事だけは分かりますっ!」
必死でそう伝えるヴィンセントがとても可愛くて先程までの感情が幾分マシになるのを感じる。
(この子はやはりいい子だ、だから皆から好かれるんだろうな……甘やかしたくなる。)
「……そうか。__君の言っていた聞きたい事なんだが私が風呂から戻って来てからでも?」
「も、勿論です! ……ではお部屋で待っていてもよろしいでしょうか?」
その言葉に俺は驚く。部屋で待つだなんて大胆なものだ。まぁ、隠したいもの等ないから特に気にしないが__
どうせならヴィンセントと仲良くして殺される可能性を出来るだけ低くしたい。
だから俺も大胆な行動に出てみた。
「それは別にいいのだが、君はもう風呂に?」
「?まだですが。」
「そうか。……では一緒にどうだ。」
一緒に……そう呟くヴィンセントは言葉の意味を理解したのかボンッとリンゴの様に顔を赤らめ此方を見てくる。耳まで真っ赤なのを見て笑ってしまった俺は悪くないだろう。
するとまるで漫画のように慌てだし私に勢いよく話しかけてくる。
だが、その勢いが強く躓き後ろへと倒れてしまう。これではヴィンセントに押し倒されている状態だな、と思い顔には出ないものの少し照れてしまった。
しかし、ヴィンセントはそんな事は気にせず風呂の事で頭がいっぱいなのか話してくる。
「な、一緒にってッ! 私は仮にも男なのですよ?! そ、そんな事言ってはなりません!」
「いや、私も男なのだが……。男同士で風呂など普通の事だろう。何故そんなに慌てる。」
「お、男同士でも兄上はお綺麗なのですよっ?……兄上のような綺麗な方、男でも女でも構わず襲ってしまいますよ!?」
男が男に襲うなど有り得るわけないだろ、そう思いながらもその言葉に少し驚きどう返せばいいのか少し戸惑う。
「……そんな事ある筈がないだろう。仮にも私は人並み以上に剣術も魔法も使う事が出来る。特に心配する事はない。」
戸惑ったもののやっと出せたのがこの答えだった。
けれどヴィンセントも引かずに俺の言葉に食いついてくる。ただ俺は風呂に誘っただけなのに何故そんなに必死なのか疑問なのだが__
「で、ですが兄上っ! 兄上に何かあったらと考えると私は気が気ではありません!」
「……はぁ、そんなに心配ならば君が私を守れば良いだろう、それなら君は納得するか。」
「守る……、私に兄上を守る事は出来るでしょうか。剣術も魔法も兄上よりも全然なっていないというのに__」
そう言って俯くヴィンセントに手を伸ばし頬を優しく撫でてあげる。しかし口論になっているのは何故……。
「ヴィン、よく聞きなさい。私と君の間に差があるのは当然だろう。君はまだ9歳で私は12歳。生きている年月が違う。今の君に負けては私は面目が立たない。」
「それは……そうですが__」
「君がここに来て一日。たった一日だけ、剣を扱った君に7年も前からしてきた私が負ける筈ないだろう。本当に、私の事を守りたいと思うならこれから沢山鍛錬をして、私に追いつけるよう頑張りなさい。それとも初めに君に言った期待を裏切るつもりか?」
「い、いいえ! 頑張って兄上の事を守りますっ……守ってみせます!」
「その心意気だ。……してヴィン。」
「なんですか?」
「立ち上がっても良いだろうか。」
その言葉を言った途端さっきまでこの状況に気づいていなかったヴィンセントが今まで以上に顔を赤らめ勢いよく立ち上がり何度も謝罪してくる。
何度見ても可愛い。
そう思いながら謝るヴィンセントに気にしていない、と言い、最初に聞きたかった事の答えを求める。
「ヴィン、話がだいぶズレてしまったが私と一緒に風呂はどうだ。」
「あ、兄上。その兄上がよろしければ……その、お願いします。」
照れながらそう言うヴィンセントにでは行こうか、と声を掛け一緒に風呂へと向かった。
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