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アイウス編
十六本目『自由を愛する者』①
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「奥義って……セオドシアも使えたんだ!? けど、それなら何で今まで使わなかったんだ?」
「普通、奥義ってのはポンポン撃てないのさ……それに、私の奥義は……そんじょそこらの奥義とは……ランクが違っ───……ガクッ」
「あっ、気絶した。そんな火傷でそこまで喋るとは、中々根性あるじゃあねぇか」
「ゴキブリ並にしつこいのはボクも認める所だがな、あとはシスターに任せるとして──目先の問題は、アレだ」
そう言って、見上げる三人の頭上には、イアンに焼き斬り落とされた首を元の形へと修復していく灰と炎の不死鳥──
『灰燼に帰す者』が朔の空を背に浮かんでいた。
「気を付けて! 触れたらセオドシアとおんなじになっちゃうよ!」
「全く……拳を潰す者の次は拳を焼く者か……この戦いが終わった頃に指の形がおかしくなってないといいが……」
「ハハッ、それだけで済むといいなぁ~……っと、そうだデクスター。矢無くなってんだろ? これやるよ」
イアンはそう言いながら、デクスターが背にする矢筒に何かを入れると、ズシリとした重みが伝わる。ジェルマに集中してたせいか、デクスターは思わずその重みで倒れそうになる。
「うわっ!? っとと……一体何を入れたの……?」
矢筒に入ったものを確認すると、矢の様ではある。が、ちかッと青い月の光が刎ねるほどの光沢を持つ、ひんやりと冷たい鉄製の矢であった。
「えっ、ちょっ……こんな重いのじゃ使えないよ!?」
「安心しろ、そりゃあ俺が術式を込めた特別性だ、きっと気にいるぜい!!」
「お喋りはその辺にしとけ───どうやら一休み終えたらしい」
『──ゴォオオオオッ!!』
雄叫びを上げたシン・アヴィスが、灼熱地獄を連れて三人と倒れる一人に飛び掛かる。
「よっしゃ、早速出番だ! かましたれ坊主ッ!!」
「えっ、僕ゥ!? ──ええい、ままよ!!」
デクスターは言われた通りに、渡された矢で射抜こうと構える。
すると、どういうわけか弦を引くのと同時、矢が熱を帯び始める。
(───ッ!?)
驚きはしたが、デクスターの狙いがブレる事はない。振り絞ったその矢を射ると、引き裂く様な音と共に矢は月が追いつけない程に速度を上げる。どれはシン・アヴィスの羽を貫き、別方向に墜落させる。
「矢が加速したッ!? スゲーッ!? ……って、あのままじゃ街に落ちちゃうよ!?」
「いいや、上出来だッ!!」
そう言って、イアンは屋根よりも高く跳び上がると、右手を左脇下まで引き込むことで勢いを作り、奥義を発動させる。
「夏式奥義『転輪せし煌剣』ッ!!」
声高らかにそう叫ぶと、イアンの手から、あらゆる不浄を浄化してみせる日輪の熱線が顕れ、真横に薙ぎ払われたそれは、シン・アヴィスを容易く吹き飛ばし、中で覆われていたジェルマの姿を露わにさせる。
「やれやれ……残りカスでこれとは手厳しいって奴だぜ」
「ジェルマァ……テメェは今日限りでクビだぜコノヤロウ……!!」
睨み合う二人の間に、一つの黒い影が、回転しながら割って入る。
「あっ、おいッ!? 横盗り───」
「──ウラァッ!!」
その影の正体はパジェットであり、灰による防御を失ったジェルマの頭部に思い切りかかと落としを喰らわせる。
「ぐっ!?」
回転によって生まれた速度は、そのまま重さとなってジェルマの頭蓋を粉砕───地面を叩き割る勢いで衝突させる。
「──ぃぃぃぃ……すんなって事は無いけれどもねぇ~……街壊さないでねぇ~……」
「案心しろ、そんな素人真似はせん……にしても、なんだあの男……防御をしたわけでも、特別硬いわけでもないというのに……」
パジェットの言葉が示す通り、地に落ち、潰れたトマトの様になったジェルマの頭は、立ち上がる頃にはすっかりと元通りになっていた。
「やれやれ、酷いことしやがるって奴だ。しかし、余りものでも秘術だな……折角集めたのにこれじゃ──……」
ジェルマは、自分の頭が潰されたことなど気にしていないのか、呑気に考え事をしている。と、その時だった、
突然、鉄の矢が飛来し、彼の肩を貫通させる。
「うおッ!?」
余りにも速く貫通していったそれは、数秒遅れてジェルマに痛みを感じさせ、肩からは焼け焦げた肉と骨の匂いが、煙として立ち上っていた。
「この矢は……アイツか……!!」
「クソ! 胸を狙ったのに……!!」
見ると、おおよそ百五十から二百は離れた距離から、弓を構えるデクスターの姿があった。
「(セオドシアさんの金魚のフン……本当にただのガキか? 秘術込みだとしてもこの弓の腕は何だ……? 一番この場に居る意味がわからない)……が、いいぞ……いい素材だ」
ジェルマは、デクスターを死霊術で駒とする所を想像する。そして恍惚とした表情で、ニンマリと笑う。
「何をニヤついてやがるッ!!」
「おっと、すっかり忘れてた」
そんなジェルマに対し、イアンとパジェットは茨と炎による同時攻撃を仕掛けていく。彼はそれを避ける事もせず、全て受け止め、負傷を瞬時に治していく。
「聖術じゃない……貴様不死身かッ!?」
「フフフ! それが死霊術って奴だ、勉強になったろ? そんじゃあ次は──……」
そう言ってジェルマが拳を構えると。
──ブゥゥゥン
っと奇妙な音と共に、熱と光が灯り始める。
「こいつも覚えてけッ!!」
「なっ──避けろパジェットォォォッ!!」
「ッ!?」
イアンはその光を見た途端、顔から血の気が引き、即座にパジェットに体当たりをしてジェルマの前から退かす。
「───は?」
遠くで見ていたデクスターも、一瞬何が起きたのか分からなかった。
ちょうど雷のように、光と音がほんの少し違和感をなしてずれたような感じだった。イアンが居た場所を含めたジェルマの一直線上がピカッと眩い光が包んだかと思えば、急に熱と衝撃波が空気を震わし、鈍い音と共に原型の留めない何かがスローモーションで闇に降り注いだのだ。
ほんの少し数秒後に、人々の阿鼻叫喚の声が響き渡り、そこにはパジェットの呻き声も混ざっていた。
「普通、奥義ってのはポンポン撃てないのさ……それに、私の奥義は……そんじょそこらの奥義とは……ランクが違っ───……ガクッ」
「あっ、気絶した。そんな火傷でそこまで喋るとは、中々根性あるじゃあねぇか」
「ゴキブリ並にしつこいのはボクも認める所だがな、あとはシスターに任せるとして──目先の問題は、アレだ」
そう言って、見上げる三人の頭上には、イアンに焼き斬り落とされた首を元の形へと修復していく灰と炎の不死鳥──
『灰燼に帰す者』が朔の空を背に浮かんでいた。
「気を付けて! 触れたらセオドシアとおんなじになっちゃうよ!」
「全く……拳を潰す者の次は拳を焼く者か……この戦いが終わった頃に指の形がおかしくなってないといいが……」
「ハハッ、それだけで済むといいなぁ~……っと、そうだデクスター。矢無くなってんだろ? これやるよ」
イアンはそう言いながら、デクスターが背にする矢筒に何かを入れると、ズシリとした重みが伝わる。ジェルマに集中してたせいか、デクスターは思わずその重みで倒れそうになる。
「うわっ!? っとと……一体何を入れたの……?」
矢筒に入ったものを確認すると、矢の様ではある。が、ちかッと青い月の光が刎ねるほどの光沢を持つ、ひんやりと冷たい鉄製の矢であった。
「えっ、ちょっ……こんな重いのじゃ使えないよ!?」
「安心しろ、そりゃあ俺が術式を込めた特別性だ、きっと気にいるぜい!!」
「お喋りはその辺にしとけ───どうやら一休み終えたらしい」
『──ゴォオオオオッ!!』
雄叫びを上げたシン・アヴィスが、灼熱地獄を連れて三人と倒れる一人に飛び掛かる。
「よっしゃ、早速出番だ! かましたれ坊主ッ!!」
「えっ、僕ゥ!? ──ええい、ままよ!!」
デクスターは言われた通りに、渡された矢で射抜こうと構える。
すると、どういうわけか弦を引くのと同時、矢が熱を帯び始める。
(───ッ!?)
驚きはしたが、デクスターの狙いがブレる事はない。振り絞ったその矢を射ると、引き裂く様な音と共に矢は月が追いつけない程に速度を上げる。どれはシン・アヴィスの羽を貫き、別方向に墜落させる。
「矢が加速したッ!? スゲーッ!? ……って、あのままじゃ街に落ちちゃうよ!?」
「いいや、上出来だッ!!」
そう言って、イアンは屋根よりも高く跳び上がると、右手を左脇下まで引き込むことで勢いを作り、奥義を発動させる。
「夏式奥義『転輪せし煌剣』ッ!!」
声高らかにそう叫ぶと、イアンの手から、あらゆる不浄を浄化してみせる日輪の熱線が顕れ、真横に薙ぎ払われたそれは、シン・アヴィスを容易く吹き飛ばし、中で覆われていたジェルマの姿を露わにさせる。
「やれやれ……残りカスでこれとは手厳しいって奴だぜ」
「ジェルマァ……テメェは今日限りでクビだぜコノヤロウ……!!」
睨み合う二人の間に、一つの黒い影が、回転しながら割って入る。
「あっ、おいッ!? 横盗り───」
「──ウラァッ!!」
その影の正体はパジェットであり、灰による防御を失ったジェルマの頭部に思い切りかかと落としを喰らわせる。
「ぐっ!?」
回転によって生まれた速度は、そのまま重さとなってジェルマの頭蓋を粉砕───地面を叩き割る勢いで衝突させる。
「──ぃぃぃぃ……すんなって事は無いけれどもねぇ~……街壊さないでねぇ~……」
「案心しろ、そんな素人真似はせん……にしても、なんだあの男……防御をしたわけでも、特別硬いわけでもないというのに……」
パジェットの言葉が示す通り、地に落ち、潰れたトマトの様になったジェルマの頭は、立ち上がる頃にはすっかりと元通りになっていた。
「やれやれ、酷いことしやがるって奴だ。しかし、余りものでも秘術だな……折角集めたのにこれじゃ──……」
ジェルマは、自分の頭が潰されたことなど気にしていないのか、呑気に考え事をしている。と、その時だった、
突然、鉄の矢が飛来し、彼の肩を貫通させる。
「うおッ!?」
余りにも速く貫通していったそれは、数秒遅れてジェルマに痛みを感じさせ、肩からは焼け焦げた肉と骨の匂いが、煙として立ち上っていた。
「この矢は……アイツか……!!」
「クソ! 胸を狙ったのに……!!」
見ると、おおよそ百五十から二百は離れた距離から、弓を構えるデクスターの姿があった。
「(セオドシアさんの金魚のフン……本当にただのガキか? 秘術込みだとしてもこの弓の腕は何だ……? 一番この場に居る意味がわからない)……が、いいぞ……いい素材だ」
ジェルマは、デクスターを死霊術で駒とする所を想像する。そして恍惚とした表情で、ニンマリと笑う。
「何をニヤついてやがるッ!!」
「おっと、すっかり忘れてた」
そんなジェルマに対し、イアンとパジェットは茨と炎による同時攻撃を仕掛けていく。彼はそれを避ける事もせず、全て受け止め、負傷を瞬時に治していく。
「聖術じゃない……貴様不死身かッ!?」
「フフフ! それが死霊術って奴だ、勉強になったろ? そんじゃあ次は──……」
そう言ってジェルマが拳を構えると。
──ブゥゥゥン
っと奇妙な音と共に、熱と光が灯り始める。
「こいつも覚えてけッ!!」
「なっ──避けろパジェットォォォッ!!」
「ッ!?」
イアンはその光を見た途端、顔から血の気が引き、即座にパジェットに体当たりをしてジェルマの前から退かす。
「───は?」
遠くで見ていたデクスターも、一瞬何が起きたのか分からなかった。
ちょうど雷のように、光と音がほんの少し違和感をなしてずれたような感じだった。イアンが居た場所を含めたジェルマの一直線上がピカッと眩い光が包んだかと思えば、急に熱と衝撃波が空気を震わし、鈍い音と共に原型の留めない何かがスローモーションで闇に降り注いだのだ。
ほんの少し数秒後に、人々の阿鼻叫喚の声が響き渡り、そこにはパジェットの呻き声も混ざっていた。
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