朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

十五本目『信じる者』②

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「熱ッ!? 飛び散った灰だけで熱いッ!? セオドシアもっと速く!!」
「言われなくても全速力だよ馬鹿ちんッ!!」

 朔の夜空の下、セオドシアは血液をフル稼働で振り切ろうとするが、積んでいる秘術エンジンが違うせいか、羽ばたき一つでその距離を詰められてしまう。

「大体何だよあのインチキみたいな大きさは!? セオドシアが殴った奴は痛過ぎて何も出来なくなるんじゃなかったのッ!?」
「不死身の体に慣れすぎたせいで、傷口を炎で焼いても平気な顔するマゾだぞ彼は? 痛がらせるので精一杯さ!」
「そんなぁ!?」

 と言うか、アレって見た目だけじゃないのか──と、命を狙われている最中に結構呑気な事を考えてしまっていると、背後から低くうねる音に混ざって、ジェルマの声が聞こえてくる。

『フフフフフフッ!! ただの追っかけっこじゃつまらねぇ、こんなのはどうだ?』

 そう言うと、ジェルマが操るシン・アヴィスは、羽を思いっきり羽撃かせ、二人に何かを撃ち込む。

『夏式奥義『灰時雨シン・プルヴィア』ッ!!』
「何だッ!? 何をしたッ!?」
「アレは───灰で出来た『矢』だッ!? クソッ──!?」

 灰で出来ていると聞けば大したことは無さそうに聞こえるが、その灰はほんの少し風に乗って肌に降り掛かっただけで火傷を負うほどの高熱を帯びる、完全な凶器であった。
 セオドシアは、怨念の炎で壁を作って防ごうとするが大して効果は無く、灰の矢は勢いそのままに炎上し、二人に襲い掛かる。

(同時操作じゃ避けれないッ!? ───やるっきゃないかッ!!)

 セオドシアは、デクスターを抱えるクラヴィスを急降下させ、矢の脅威から逃す。

「なっ、そんなッ!? セオドシアッ!!」
「邪魔だから退いてなッ!!」

 セオドシアはギガゴダの手に包まれながら、珊瑚礁をその身に覆って防御を堅めるが、灰の矢の威力はそれを上回り、彼女の身体を貫いていく。

(不味いッ!? 血液がッ!?)

 ギガゴダやクラヴィスを操る血液が足りなくなり、セオドシアとデクスターは崩れ落ちた骨と共に、そのまま地面に向かって落下していく。

「うわぁああああッ!? 落ちるぅぅぅッ!?」

 そんな叫ぶデクスターの元へ、颯爽と一つの影が、屋根を渡って駆け付け、落ちる彼を寸前でキャッチする。

「うっ!? あっ……パジェットさん!!」
「大丈夫か、怪我は……と、聞いている場合じゃあないな」

 パジェットは、霊力を込めた足で屋根を蹴ると、そこから茨が伸びて、落ちるセオドシアを受け止めようとする。

『おっと、横盗りは罪って奴だぜッ!!』

 しかし、シン・アヴィスはその茨よりも速く、セオドシアをその灰で出来た嘴で啄み、空高く飛翔する。

「しまったッ!?」
「セオドシアッ!?」
「うぐぁあああああッ!?」

 セオドシアは灰に触れた部分が高熱によって焼かれ、服と皮膚が融合してしまっていた。

『フフフッ!! 術を使わずともこの高熱ッ!! このまま丸焼けにして食ってやるかッ!!』
(ダメだ──血が足りない──意識、が───……)

 視界が狭まり、もうダメかと思ったその時──眩い光が差し込んだかと思えば、シン・アヴィスの首を突然、一刀両断にしてみせる。

『何ィッ!?』
「夏式奥義『煌剣フェリジラーマでっちあげバージョン』ッ!!」

 それは、秘術を奪われたイアンが、残りカスで作り上げた炎の剣であり、有り合わせで作ったとしても秘術なのは変わりない。熱や質量はシン・アヴィスのそれを上回り、切り離され、制御を失った灰の頭部と共に落ちるセオドシアを受け止め、助け出す事に成功する。

「大丈夫かッ!? ひでぇ火傷だ……」
「見て……わかるなら、聞くなよ……イテテッ……」

 そんな二人の元へ、屋根を渡ってデクスター達も合流する。

「よかった、無事───じゃないッ!? その火傷はッ!?」
「触れただけでコレだ…………本格的に暴れる前に仕留めたかったんだが……」

 そう言って見上げると、灰が集まり、失った首が容易く修復されてしまう。

「野郎……ピンピンしてやがるな。もう一丁斬るかッ!!」
「フンッ……不死鳥のつもりか、撃ち落としてやるッ!!」

 鋭く、シン・アヴィスに挑もうと睨む二人に向かって、セオドシアは息も絶え絶えに声を掛ける。

「ハァッ……いいぞ、行って来な……勝てないとは……思うけど、時間稼ぎにはなる……」
「「はぁッ!? 言ってろ死にかけッ!!」」

 怒る二人もどこ吹く風に、今度はデクスターに向かって話しかける。

「シスターを連れて来てくれ……血が足りないんだ……」
「そりゃあ勿論呼ぶけど……治しても、あんなのどうすれば……」

 心配そうに伺うデクスターに対し、彼女はまるで問題無いと言う様に──

「大丈夫───私も使えばいいじゃないか──『奥義』を」

 そう言って、不敵に笑うのだった。
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