朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

文字の大きさ
上 下
14 / 36
アイウス編

五本目『試す者』②

しおりを挟む
「……想像はしてたけど、デカイなぁ~……」

 デクスターがそう呟く。
 ムグラリス家は、白を基調とした大きな屋敷……と言うか城と言っても差し支えない邸宅であり、門は港前のそれと同等かそれ以上はある様に見え、厳つい表情を貼り付けた門番が二人立っていた。

 パジェットはその門番達に近付き、聖天教会の遣わした者であると名乗った。そうすると、門番の一人が邸宅の中へと入って行き、しばらくしてから戻って来た。

「イアン・アンドレ・ムグラリス様との謁見の許可が降りた。通れ」

 そう言うと、重々しく門が開かれ、奥から肩まで伸ばした金髪に碧眼を持つ執事服を着た男性が現れる。

「聖天教会の退魔師様ですね。執事のリンゴ・ヒューワーと申します。どうぞこちらへ」

 そう名乗り、三人をムグラリスの所まで案内する。
 デクスターとパジェットが大人しく着いて行く中、セオドシアは邸内の高価そうな装飾品に集中力を奪われ、終いには甲冑を一つ横に倒してしまう。

「勝手に倒れた!!」
「ノータイムで言い訳する奴がいるかたわけっ!!」
「あ~もう何やってんだよ!? 凹ましたりしてないよね……?」
「ハハッ、お怪我がなさそうで何よりです。心配せずとも、その程度の事で金をせびる様な真似はしませんので……」

 そう言いつつ、執事は応接間と思われる部屋の前に立ち止まった。

「当主様はこちらでお見えになります。どうぞ中へ……」

 そう言って扉を開き、三人を中に招き入れる。応接間は広く、天井も高い。部屋の中央にはテーブルが置かれており、その上には紅茶の入ったポットとティーカップが置かれている。

 そして、一番目立つのは、窓際の席に座る銀縁眼鏡に高価そうな服に身を包む、この家の当主と思わしき人物が座っていた。

「イアン様、紹介にあった退魔師方々です」
「ご苦労……ようこそおいで下さいました。ムグラリス家当主、イアン・アンドレ・ムグラリスと申します。以後、お見知り置きを……」
「あっ、はい! え~っと……た、退魔師のデクスター・コクソンです……!!」
「同じく退魔師のパジェット・シンクレアです。聖天教会の要請を受け、参上しました」

 ムグラリス家当主に向かって二人は頭を下げる……が、セオドシアは頭を下げず、どころか名乗ろうとさえせず、不思議そうに二人を見ていた。

「ん? 何してんの?」
「何してるって……自己紹介してんだよ……!?」
「あぁ~、セオドシア・リーテッドだよ。よろしく」

 コクリと首を少し傾け、淡白な言い方で自己紹介を済ませてしまうセオドシアの不敬さに、二人の身体から一気に嫌な汗が噴き出す。

「やっぱり連れて来るべきではなかったか……」
「セオドシアの馬鹿ッ!! こういう場所くらいしっかりしてよ!?」
「……馬鹿は君達だろ、騙されちゃってさ……彼はだよ」

 呆れた様にそう言うセオドシアに、二人は虚を突かれて困惑する。
 そんな彼女の言葉を偽物と言われた当人も聞いていた様で、至極当然の質問を投げ掛ける。

「何故、私が偽物だと?」
「直感」
「……直感だけで私が偽物だと?」
「おいおい、直感を馬鹿にするなよ、脳の記憶に基づく論理的思考さ。これの的中率は90%と記録されている、後は疑心暗鬼にならなければいい……それに、そこの彼もボロを出してくれたからねぇ?」

 そう言ってセオドシアは扉の前で待機する執事……リンゴの方を見る。

「はて、私が何か?」
「演技してる人間てのはアドリブが出来ないもんさ。私が甲冑を倒した時、君だけ振り返らず、目的地に向かって歩いてた……なぁ、もういいだろ? まだボロを出させなきゃダメかい?」
「……チッ! 正解だぜ、セオドシア・リーテッド! お前面白い奴だなぁ!」

 そう言うと、執事……の振りをしていた男は襟を緩め、笑ってそう言い放つ。

「その通り、俺が本物のイアン・アンドレ・ムグラリスだ。そっちに座ってんのが、執事のリンゴだ……悪かったな、アンタ達が仕事を任せるに相応しいか試したかったんだ……議員の為にも、ボロは出せない」

 そう言ってイアンはリンゴの座っていた椅子に腰掛けた。
 それを見計らった様に、リンゴが人数分の紅茶を配り始める。

「それで……私達は合格って事でいいのかな?」
「ん? あぁ、アンタと……そこの金髪のパジェットの評判なら俺も見聞きしてるレベルだから合格だ……だが……」

 イアンの視線がデクスターに向けられる。
 突然刃物を突き付けられた様な鋭利な視線に、デクスターは身じろぎをする。

「待ってくれ、彼はボクが連れて来た信頼出来る人物だ、実力はボクが保証する」
「わかってる、アンタ程の人が言うんなら本当にそうかもな……けど生憎と俺は慎重派でね、俺の目にはこの面接みたいな状況にビビっちまってる子供にしか見えない……安心したいんだよ、俺は」

 言い合う二人に、セオドシアが口を開く。

「なんかごちゃごちゃ言ってるけど、ようは強いって事を示せないいんでしょ? 外出て弓射ちでもすれば、納得するだろう」

 欠伸をしながら、さっさと終わらせてくれという風に彼女は言った。

「せ、セオドシア……僕……」
「大丈夫、確かに君は子供だが、君程強いちびっ子は居ないさ……それに、君が一緒に仕事してくれないと困る」

 相変わらず人を小馬鹿にした台詞だが、彼女がちゃんと自分を必要としてくれたのは初めての事で。そんな彼女相棒の言葉に背中を押され、デクスターの心に小さな火が点いた。

「……わかった、僕やってみるよ!!」
「やる気になってくれて何よりだ、弓が得意なら、庭に的を用意させる。そこでお前の実力とやらを俺に見せてくれ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

フローズン・シャドウホールの狂気

バナナチップボーイ
ファンタジー
札幌game勝手に振興会のYouTubeの企画「昔小説家になりたかったオッサンが今さらChatGptを利用して面白い小説を書けるかどうか試してみることにした。」において書き上げた小説になります。 世代的にオッサンなので古めかしく重い感じのファンタジー作品となっております。同世代や濃厚なファンタジーが好きな人にはいいかもしれません。 内容:冒険者アリアが仲間二人と共にフローズンシャドウホールというダンジョンの探索を行うという内容です。その場所に秘められた謎とは果たしてなんなのか?? それは作者にも分からない。なぜならば、これはChatGptを駆使して書かれた作品だから。何が飛び出すのかは分からない。最後までご覧あれ。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!

林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。 夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。 そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ? 「モンスターポイント三倍デーって何?」 「4の付く日は薬草デー?」 「お肉の日とお魚の日があるのねー」 神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。 ※他サイトにも投稿してます

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅
ファンタジー
ある日突然、異世界に飛んできてしまったんですが。 しかも、私が神様の子供? いやいや、まさか。そんな馬鹿な。だってほら。 ……あぁ、浮けちゃったね。 ほ、保護者! 保護者の方はどちらにおいででしょうか! 精神安定のために、甘くて美味しいものを所望します! いけめん? びじょ? なにそれ、おいし ――あぁ、いるいる。 優しくて、怒りっぽくて、美味しい食べものをくれて、いつも傍に居てくれる。 そんな大好きな人達が、両手の指じゃ足りないくらい、いーっぱい。 さてさて、保護者達にお菓子ももらえたし、 今日も元気にいってみましょーか。 「ひとーつ、かみしゃまのちからはむやみにつかいません」 「ふたーつ、かってにおでかけしません」 「みーっつ、オヤツはいちにちひとつまで」 「よーっつ、おさけはぜったいにのみません!」 以上、私専用ルールでした。 (なお、基本、幼児は自分の欲に忠実です) 一人じゃ無理だけど、みんなが一緒なら大丈夫。 神様修行、頑張るから、ちゃんとそこで見ていてね。 ※エブリスタ・カクヨム・なろうにも投稿しています(2017.5.1現在)

処理中です...