朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

五本目『試す者』②

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「……想像はしてたけど、デカイなぁ~……」

 デクスターがそう呟く。
 ムグラリス家は、白を基調とした大きな屋敷……と言うか城と言っても差し支えない邸宅であり、門は港前のそれと同等かそれ以上はある様に見え、厳つい表情を貼り付けた門番が二人立っていた。

 パジェットはその門番達に近付き、聖天教会の遣わした者であると名乗った。そうすると、門番の一人が邸宅の中へと入って行き、しばらくしてから戻って来た。

「イアン・アンドレ・ムグラリス様との謁見の許可が降りた。通れ」

 そう言うと、重々しく門が開かれ、奥から肩まで伸ばした金髪に碧眼を持つ執事服を着た男性が現れる。

「聖天教会の退魔師様ですね。執事のリンゴ・ヒューワーと申します。どうぞこちらへ」

 そう名乗り、三人をムグラリスの所まで案内する。
 デクスターとパジェットが大人しく着いて行く中、セオドシアは邸内の高価そうな装飾品に集中力を奪われ、終いには甲冑を一つ横に倒してしまう。

「勝手に倒れた!!」
「ノータイムで言い訳する奴がいるかたわけっ!!」
「あ~もう何やってんだよ!? 凹ましたりしてないよね……?」
「ハハッ、お怪我がなさそうで何よりです。心配せずとも、その程度の事で金をせびる様な真似はしませんので……」

 そう言いつつ、執事は応接間と思われる部屋の前に立ち止まった。

「当主様はこちらでお見えになります。どうぞ中へ……」

 そう言って扉を開き、三人を中に招き入れる。応接間は広く、天井も高い。部屋の中央にはテーブルが置かれており、その上には紅茶の入ったポットとティーカップが置かれている。

 そして、一番目立つのは、窓際の席に座る銀縁眼鏡に高価そうな服に身を包む、この家の当主と思わしき人物が座っていた。

「イアン様、紹介にあった退魔師方々です」
「ご苦労……ようこそおいで下さいました。ムグラリス家当主、イアン・アンドレ・ムグラリスと申します。以後、お見知り置きを……」
「あっ、はい! え~っと……た、退魔師のデクスター・コクソンです……!!」
「同じく退魔師のパジェット・シンクレアです。聖天教会の要請を受け、参上しました」

 ムグラリス家当主に向かって二人は頭を下げる……が、セオドシアは頭を下げず、どころか名乗ろうとさえせず、不思議そうに二人を見ていた。

「ん? 何してんの?」
「何してるって……自己紹介してんだよ……!?」
「あぁ~、セオドシア・リーテッドだよ。よろしく」

 コクリと首を少し傾け、淡白な言い方で自己紹介を済ませてしまうセオドシアの不敬さに、二人の身体から一気に嫌な汗が噴き出す。

「やっぱり連れて来るべきではなかったか……」
「セオドシアの馬鹿ッ!! こういう場所くらいしっかりしてよ!?」
「……馬鹿は君達だろ、騙されちゃってさ……彼はだよ」

 呆れた様にそう言うセオドシアに、二人は虚を突かれて困惑する。
 そんな彼女の言葉を偽物と言われた当人も聞いていた様で、至極当然の質問を投げ掛ける。

「何故、私が偽物だと?」
「直感」
「……直感だけで私が偽物だと?」
「おいおい、直感を馬鹿にするなよ、脳の記憶に基づく論理的思考さ。これの的中率は90%と記録されている、後は疑心暗鬼にならなければいい……それに、そこの彼もボロを出してくれたからねぇ?」

 そう言ってセオドシアは扉の前で待機する執事……リンゴの方を見る。

「はて、私が何か?」
「演技してる人間てのはアドリブが出来ないもんさ。私が甲冑を倒した時、君だけ振り返らず、目的地に向かって歩いてた……なぁ、もういいだろ? まだボロを出させなきゃダメかい?」
「……チッ! 正解だぜ、セオドシア・リーテッド! お前面白い奴だなぁ!」

 そう言うと、執事……の振りをしていた男は襟を緩め、笑ってそう言い放つ。

「その通り、俺が本物のイアン・アンドレ・ムグラリスだ。そっちに座ってんのが、執事のリンゴだ……悪かったな、アンタ達が仕事を任せるに相応しいか試したかったんだ……議員の為にも、ボロは出せない」

 そう言ってイアンはリンゴの座っていた椅子に腰掛けた。
 それを見計らった様に、リンゴが人数分の紅茶を配り始める。

「それで……私達は合格って事でいいのかな?」
「ん? あぁ、アンタと……そこの金髪のパジェットの評判なら俺も見聞きしてるレベルだから合格だ……だが……」

 イアンの視線がデクスターに向けられる。
 突然刃物を突き付けられた様な鋭利な視線に、デクスターは身じろぎをする。

「待ってくれ、彼はボクが連れて来た信頼出来る人物だ、実力はボクが保証する」
「わかってる、アンタ程の人が言うんなら本当にそうかもな……けど生憎と俺は慎重派でね、俺の目にはこの面接みたいな状況にビビっちまってる子供にしか見えない……安心したいんだよ、俺は」

 言い合う二人に、セオドシアが口を開く。

「なんかごちゃごちゃ言ってるけど、ようは強いって事を示せないいんでしょ? 外出て弓射ちでもすれば、納得するだろう」

 欠伸をしながら、さっさと終わらせてくれという風に彼女は言った。

「せ、セオドシア……僕……」
「大丈夫、確かに君は子供だが、君程強いちびっ子は居ないさ……それに、君が一緒に仕事してくれないと困る」

 相変わらず人を小馬鹿にした台詞だが、彼女がちゃんと自分を必要としてくれたのは初めての事で。そんな彼女相棒の言葉に背中を押され、デクスターの心に小さな火が点いた。

「……わかった、僕やってみるよ!!」
「やる気になってくれて何よりだ、弓が得意なら、庭に的を用意させる。そこでお前の実力とやらを俺に見せてくれ」
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