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旅立ち編
四本目『潜みし牙を持つ者』②
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船内はデクスター達以外にも勿論居て、デクスターはこんなに大勢乗っているのに沈まず、常に高速で海面を駆ける船に目を丸くしていた。パジェットが言うには、『もぉたぁ』だとか『すくりゅう』だとかを使い、高速の移動を可能にしているらしいが、それを聞いてもデクスターにはまるでピンとこなかった。とはいえ、知らなかった知識を獲得し、少し成長出来た気になれたのが、とても喜ばしかった。
「まさか船に乗れる日が来るなんてなぁ~……こんなに大勢の人と一緒の空間にいるのだって初めてだしなんか落ち着かないや……セオドシアは……あれ? いない? どこ行ったんだ?」
横を振り返ると、そこにセオドシアの姿は無く、見渡してみると、船尾の方で何やら棒を振っているのが見えた。
「……何やってるの? セオドシア」
「釣りだよ。見てわからないかい?」
「釣りって……多分だけど、この船そういう事する場所じゃないよね? しかもこんなに速く動いてるのに食い付く魚なんているのかなぁ?」
「チッチッチッ、わかってないなぁ、このスピードで動く釣り餌に掛かる魚だよ? 余程強靭な骨をしているに違いないだろう? 私は常に最高クラスの品質を求めるのだよ」
そういうものだろうか? いや、そういうものじゃないな。
デクスターは世間を知っているわけではなかったが、セオドシアの行動が世間一般常識から逸脱してる事くらいはわかった。
「余った肉は君にくれてやろう!」
そう言って、セオドシアは釣れるのが確定している様な調子で意気揚々と釣りに勤しんでいると、パジェットの言っていた『すくりゅう』の渦に釣竿が巻き込まれてしまう。
「「あっ」」
そのまま引っ張られると釣竿はセオドシアの手を離れ、そのまま『すくりゅう』に吸い込まれる。元々ボロい釣竿だった事もあって、絡まったりとかはせず、バラバラに砕け散るだけに済んだのは不幸中の幸いだった。
「こんな……こんなはずじゃ……畜生ォ持って行かれた…………!!」
「ほら言わんこっちゃない……」
「畜生……返せよ、たった一本の釣竿なんだよ……退魔師の身長だってくれてやる、だから!! 返せよ!! たった一本の釣竿なんだよ!!」
「……なんだか知らないけれど、パジェットさん以外にも凄く敵を作った気がするのだけれど……」
このまま相手にしていても疲れるだけなので、デクスターはパジェットの元へと向かう。彼女はセオドシアと違って、乗客用の椅子に座りながら読書に勤しんでいた。
「……平和だ……」
「……? どうかしたのか? まぁ、大方あの死霊術師絡みだろうが……丁度いい、ここに座りなさい。君には色々と聞きたい事があるんだ」
「僕に? いいけど……」
パジェットに促され、デクスターは彼女の隣に座る。
デクスターは彼女の年齢は知り得ないが、隣に座る彼女の座高は自分よりも少し小さく見えた。
「……すまない、やっぱり一席分空けてくれないかい? 君にそのつもりは無いのは知っているが、何故か小馬鹿にされた気分になるんだ」
「え? あっ……そう? そう言うなら……(気にしてるんだ……背が小さいの……)」
言われた通り席を一席分空け、気を取り直して話をすることになった。
「死霊術師……セオドシア・リーテッドの旅の目的は何だ?」
「目的? 朔の向こう側……本物の太陽の光をもたらすとかなんとか……」
「光を? 何故?」
「何故って言われても……なんかウザいって……」
「馬鹿にしているのか? 隠しても為にならないぞ」
悪事を働いた子供に詰め寄る親のような口調でデクスターにパジェットは詰め寄る。
「ほ、ほんとだよ……セオドシアがそう言ってたんだ」
デクスターがそう言うと、パジェットは尚更怪訝そうな顔をする。
「……たった数日間一緒に過ごしただけの人間の言葉を信じるのか?彼女の過去もよく知らないのにか?」
「え? それは……考えたことなかったな……」
デクスターにとって彼女は自分の命と父の尊厳を守ってくれた恩人であり、確かに性格はいいとは言えない人物ではあるが、悪人ではない……
いや、思いたくないと言うのが正直な所だった。
「僕は……」
デクスターが正直に思う所を言おうとすると、突然獣が角を打ちつけているような底知れない重さがある音が響いた。
「何!? この音!」
「……どうやら質疑応答はまた今度になりそうだ」
パジェットは本を置き、立ち上がり、音のした方へと向かう。
「僕も行く!!」
「いや、君は死霊術師を探せ、役に立つかもしれないからな」
デクスターにそう命令し、音のした船底室の方へと向かうと穴が開いているようで、海水がドンドンと侵入してくる。
パジェットは茨を張り巡らせると、板の様にしてそれを塞いだ。
「よし……取り敢えずの応急処置は済ませて……」
パジェットはそう言いながら自身の背後に向かって後ろ蹴りを喰らわせる。
「グギャアアアッ!!」
そこには船客の一人であろう男性が立っており、パジェットに蹴飛ばされると、その姿を異形に歪ませ、『蹂躙せし者』としての正体をあらわにする。
「お前が穴を開けたのか? ……いや、お前達ホワイプスにそんな脳味噌は無いな……リーダー格はどこだ?」
そう問い掛けた所で、ホワイプスは唸るのみであり、パジェットのトドメの一撃によって強制的に黙らせられる。
すると、奥の方から潜伏していたホワイプス達がぞろぞろと湧いて出てくる。
「一匹見たらなんとやら……か、その魂、主の命により返して貰う」
「まさか船に乗れる日が来るなんてなぁ~……こんなに大勢の人と一緒の空間にいるのだって初めてだしなんか落ち着かないや……セオドシアは……あれ? いない? どこ行ったんだ?」
横を振り返ると、そこにセオドシアの姿は無く、見渡してみると、船尾の方で何やら棒を振っているのが見えた。
「……何やってるの? セオドシア」
「釣りだよ。見てわからないかい?」
「釣りって……多分だけど、この船そういう事する場所じゃないよね? しかもこんなに速く動いてるのに食い付く魚なんているのかなぁ?」
「チッチッチッ、わかってないなぁ、このスピードで動く釣り餌に掛かる魚だよ? 余程強靭な骨をしているに違いないだろう? 私は常に最高クラスの品質を求めるのだよ」
そういうものだろうか? いや、そういうものじゃないな。
デクスターは世間を知っているわけではなかったが、セオドシアの行動が世間一般常識から逸脱してる事くらいはわかった。
「余った肉は君にくれてやろう!」
そう言って、セオドシアは釣れるのが確定している様な調子で意気揚々と釣りに勤しんでいると、パジェットの言っていた『すくりゅう』の渦に釣竿が巻き込まれてしまう。
「「あっ」」
そのまま引っ張られると釣竿はセオドシアの手を離れ、そのまま『すくりゅう』に吸い込まれる。元々ボロい釣竿だった事もあって、絡まったりとかはせず、バラバラに砕け散るだけに済んだのは不幸中の幸いだった。
「こんな……こんなはずじゃ……畜生ォ持って行かれた…………!!」
「ほら言わんこっちゃない……」
「畜生……返せよ、たった一本の釣竿なんだよ……退魔師の身長だってくれてやる、だから!! 返せよ!! たった一本の釣竿なんだよ!!」
「……なんだか知らないけれど、パジェットさん以外にも凄く敵を作った気がするのだけれど……」
このまま相手にしていても疲れるだけなので、デクスターはパジェットの元へと向かう。彼女はセオドシアと違って、乗客用の椅子に座りながら読書に勤しんでいた。
「……平和だ……」
「……? どうかしたのか? まぁ、大方あの死霊術師絡みだろうが……丁度いい、ここに座りなさい。君には色々と聞きたい事があるんだ」
「僕に? いいけど……」
パジェットに促され、デクスターは彼女の隣に座る。
デクスターは彼女の年齢は知り得ないが、隣に座る彼女の座高は自分よりも少し小さく見えた。
「……すまない、やっぱり一席分空けてくれないかい? 君にそのつもりは無いのは知っているが、何故か小馬鹿にされた気分になるんだ」
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言われた通り席を一席分空け、気を取り直して話をすることになった。
「死霊術師……セオドシア・リーテッドの旅の目的は何だ?」
「目的? 朔の向こう側……本物の太陽の光をもたらすとかなんとか……」
「光を? 何故?」
「何故って言われても……なんかウザいって……」
「馬鹿にしているのか? 隠しても為にならないぞ」
悪事を働いた子供に詰め寄る親のような口調でデクスターにパジェットは詰め寄る。
「ほ、ほんとだよ……セオドシアがそう言ってたんだ」
デクスターがそう言うと、パジェットは尚更怪訝そうな顔をする。
「……たった数日間一緒に過ごしただけの人間の言葉を信じるのか?彼女の過去もよく知らないのにか?」
「え? それは……考えたことなかったな……」
デクスターにとって彼女は自分の命と父の尊厳を守ってくれた恩人であり、確かに性格はいいとは言えない人物ではあるが、悪人ではない……
いや、思いたくないと言うのが正直な所だった。
「僕は……」
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