朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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旅立ち編

一本目『出会いし者』④

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「こんなもんでいいかな?」
「いいんじゃないかな? 特に宗教にこだわってないんだろう?」

 父の墓は、穴を掘って遺体を埋めただけの方法をとった。
 土の上には父の名前……『ヘール・コクソン』の名前を木で作った墓標に刻んだ。デクスターは長いこと手を合わせると、セオドシアの方を向く。

「ありがとう……僕だけだったら、金貨も、お父さんの身体も……どっちも手に入れられなかった……」
「……別にぃ~? 私はあの兎泥棒を懲らしめたかっただけだったからねぇ」

 セオドシアは決まりの悪そうに目線を外してそう言った。
 するとデクスターは、しばらく悩む様子を見せた後、意を決した表情で口を開く。

「助けてもらってばっかで……こんなこと言うのは図々しいと思うけどさ……僕も旅に連れ──……」
「いいよん」
「……──て……へ?」

 デクスターは、断られる可能性も承知でした提案をあっさりと受け入れた彼女に驚き、ぽかんと口をあける。

「えっ……え? いいのか!? いや、嬉しいけど……どうして……?」
「どうせ断ったら一人で旅するんだろう? それだったら、弓を射れて、美味しいスープを作れる君と一緒にいたほうが得じゃない?」

 彼女は、実に合理的に、表裏なくそう言ってみせた。
 その発言に、デクスターは寄せていた眉を緩め、吹き出して笑ってしまう。

「ハハッ……うん、そうだね……僕を連れて行ってくれ、お得だから!」
「……ああ、行こうか。朔の向こう側へ……光を求めて!」

 こうして、デクスター・コムソンは唯一の肉親という光を失い、新たな光を求めて世界を彷徨う決意をする。

 この決断が後に、世界に陽光が溢れるきっかけになろうとは。
 まだ、誰も知る由はなかった。
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