朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

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アイウス編

六本目『影から移る者』①

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 禿鷹の月住人ムーン=ビースト影から移る者クラヴィス』は、三人を敵として捉え、上空に浮上し、十分な距離を確保すると再び滑空し、その鉄球の様に硬い頭部を衝突させようとする。

「やらせんっ!!」

 パジェットは赤黒い茨を伸ばし、岩を呑み込む波の様にクラヴィスを捕らえようとする。それでもクラヴィスはその速度を緩める事無く、突き進む。
 すると、クラヴィスは螺旋状にその肉体を歪め、その姿を完全に消してしまう。

「何ッ!?」
「馬鹿ッ!! 影から離れろッ!!」

 驚愕するパジェットに対し、セオドシアが警告を出した瞬間、パジェット自身の影からクラヴィスが飛び出す。

「ッ!?」

 セオドシアの警告もあって、パジェットは無理矢理身体を反って衝突を回避する。しかし完全には避け切れなかった様で、額から血が噴き出す。

「くっ!? ……なるほど……『影から移る者』は伊達じゃ無いか……!!」
「影の中を転移する能力さ、一度潜ったら半径五十m以内のどの影からだって出てくるぞ!!」
「ふんっ、害鳥に相応しい意地汚い能力だ……」

 そう言って、パジェットは額の出血を抑える様に右手を当てる。
 するとクラヴィスはまた上空に浮上し、距離を確保する。

「二人共!! また来る……って、あれ?」

 デクスターのそんな警告を他所に、クラヴィスはあらぬ方向へと滑空する。
 一瞬、逃げるつもりなのかと考えたが、クラヴィスが次に取った行動は、今自身に起こっている闘争に勝利する為の一手だった。

「おいおい……おいおいおいおいおい……!?」

 クラヴィスが滑空した方向は家、店、あらゆる建物の壁や柱であり、クラヴィスは次々に突っ込んで行っては、瓦礫の雨を作り出して行く。

「きゃあああっ!!」
「うわぁっ!!」

 倒壊した建物は、逃げ遅れた人達に向かって降り注ぐ。

害鳥風情クソ鳥がッ!!」

 逃げ遅れ、倒壊した建物の下敷きなる所を、パジェットは茨で自身の方向へ引っ張り、寸前で助け出す。しかしそれだけではクラヴィスの破壊行為は終わらず、嵐の様に壊しては去り、壊しては去り……と繰り返す。
 パジェットはホワイプスの群れを退治した時の様に、茨を蜘蛛の巣の様に使って修復していく。

「ぐっ……デクスター!! 奴を狙撃して止めるんだ!!」
「う、うん!! わかった!!」

 防戦一方の態勢を変えるため、デクスターは弓を構えて弦を引き絞り、クラヴィスの破壊活動を止めようとする……その時だった、背後から殺意が船の上で感じた波風の様に胸を吹き抜ける。

「ッ!?」

 振り返ると、先程落下して来た女性の遺体が、精神異常患者の様な尋常じゃない雰囲気を持ちながら、むくりと立ち上がる。

「まさか……今なのか!? もう一体!?」

 見開かれた眼は、石炭の様な艶々とした黒を持ち、ざわざわと音を立てたかと思えば、毛髪が抜け落ち、皮膚が硬質化され、禿鷹の羽毛に生え変わっていく。骨格や筋肉に至るまで、その原型を殆ど失うと、自らの誕生を祝う様に、二体目のクラヴィスは背中に生える巨大な羽根を展開する。

「グォアァァァッ!!」
「うぐッ!? 来るなッ!!」

 デクスターは咄嵯に矢を放つが、クラヴィスはその矢を軽々と羽根で叩き落とし、勢いそのままに、嘴で啄もうとする。

「うわぁぁぁぁっ!?」

 クラヴィスの嘴がデクスターを喰らう……事はなく、セオドシアが自身の腕に喰らい付かせ、勢いを殺す。

「セオドシアッ!?」
「全く……子供は手間が掛かるね……!!」

 そう言うと、彼女はアイスピックの様に細く削り出した骨を取り出し、クラヴィスの右眼に突き刺す。

「グギャアアアアアアーーッ!!」

 苦痛の叫びを上げるクラヴィスは、セオドシアに突進し、彼女ごと螺旋状に畝りながら、影の中へと飛び込んでいく。

「そ、そんなっ!? セオドシアッ!?」
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