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番外編
5.
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「おっと」
「はぁっ……ゆりくん……」
余韻にぼうっとしていると、柊がずるっと床に倒れ込んでしまった。慌ててくたりと力の抜けた身体を支える。
全身を淡く染めて、潤む瞳は琥珀色。肌からは湯気が立ち上りホカホカとろとろの柊は、さながらできたてのごちそうだ。
柊は抱く度に綺麗になってゆく気がする。こんなの無理。エロすぎて、また下半身に血が集まりはじめてしまう。早くここを片してベッドに行かないと……いや、ワンチャンここでもう一回……?
「っくしゅ!」
「うわー!ごめんなさいっ冷えましたね!?」
柊のくしゃみに煩悩が吹き飛ばされた。
罪悪感にまみれながら、浴室用の椅子に座らせる。熱いシャワーで身体を温めつつ汗や汚れを洗い流す。大丈夫だ眠いだけだと言い募る柊は、本当にただ眠そうにも見えるものの。
今週の柊はいつもより残業が多かった。きっと疲れていたから、自分の把握している量の酒でも酔いが回っていたのだ。柊の体調管理を使命としていたのに、変化に気づかず、浮かれてガツガツと抱いてしまった。本当に馬鹿だ…………
そのとき、後悔を払いのけるようにパシッと音をさせ肩に手が置かれ、名前を呼ばれる。
「ゆーり!大丈夫だって、悪寒とかしないし。責任なんて感じないでよ?」
「でも俺、調子乗ってこんなところで長時間……」
「いやその、僕も盛り上がっちゃったし……たまにはいいかなぁって……思って、……とにかく!もう眠いのは確かです。今日はもう、ゆっくり寝よう?」
タオルに包まった柊が、甘えるように夕里の首へと腕を掛けてくる。照れて頬が赤くなっているのを隠すように、首元に顔がうずめられる。
夕里は恭しく抱き上げて、宝物より大事な恋人をベッドへと運んだ。安心して身体を預けてもらえる幸福を噛み締める。
運ばれているうちに、もう瞼が半分落ちているのが子供みたいでかわいい。愛おしい。
おやすみのキスを理性で頬に落とすと、顔が捕まえられて唇をちゅうっと吸われた。魂まで吸われたかのようにぼんやりする夕里に、柊は「おやすみ」と幸せそうに呟いた。
「おやすみなさい……柊さん」
昔は寝付きが悪かったというのが信じられないほど、柊は一瞬で眠ってしまった。よっぽど疲れさせてしまったらしい。
眠りを妨げてしまうのは本意ではないが、柊にパジャマを着せ、髪を乾かし、ちょっと起こして水を飲ませる。風邪と脱水対策を終えて、ようやくふぅと満足のため息をついた。
――誰かのお世話をすることが、こんなにも心満たされるものだなんて知らなかった。柊自身も一緒に住みはじめた当初は遠慮がちだったものの、いまはこれだ。
どちらが何をしなければならない、なんて決まりはない。自分たちなりの生きやすい、それでいて幸せな生活を一緒に模索して、見つけていく。
きっと夕里も忙しくなるときが来るだろう。そうなるよう努力しているし、仕事の波は予測できない。柊なら彼なりに夕里を支えようとしてくれるはずだ。今だってもう、心を預け切ってしまっている。
依存しすぎは良くないなと思うものの、もう少しだけ寄りかからせて欲しい。柊はなにも言わないが、まだたまに疼く心の傷に気づいて寄り添ってくれている聡い人だ。
柊のように、いつか社会的にも精神的にも安定した人間になって、堂々と二人で歩んでいきたい。結婚はできなくとも添い遂げられるようななにかを、二人でなら見つけられる気がした。
自分も横になって、柊をそっと抱き寄せる。柔らかく温い身体がそばにあることを実感する。
「柊さん……だいすき」
「んぅ……ぼくも」
寝言でも応えてくれたことに胸が満ちる。もう眠ろう。大好きなひとと一緒の未来は、間違いなく明るい。
――――――――――
番外編もお読みいただきありがとうございました!
「はぁっ……ゆりくん……」
余韻にぼうっとしていると、柊がずるっと床に倒れ込んでしまった。慌ててくたりと力の抜けた身体を支える。
全身を淡く染めて、潤む瞳は琥珀色。肌からは湯気が立ち上りホカホカとろとろの柊は、さながらできたてのごちそうだ。
柊は抱く度に綺麗になってゆく気がする。こんなの無理。エロすぎて、また下半身に血が集まりはじめてしまう。早くここを片してベッドに行かないと……いや、ワンチャンここでもう一回……?
「っくしゅ!」
「うわー!ごめんなさいっ冷えましたね!?」
柊のくしゃみに煩悩が吹き飛ばされた。
罪悪感にまみれながら、浴室用の椅子に座らせる。熱いシャワーで身体を温めつつ汗や汚れを洗い流す。大丈夫だ眠いだけだと言い募る柊は、本当にただ眠そうにも見えるものの。
今週の柊はいつもより残業が多かった。きっと疲れていたから、自分の把握している量の酒でも酔いが回っていたのだ。柊の体調管理を使命としていたのに、変化に気づかず、浮かれてガツガツと抱いてしまった。本当に馬鹿だ…………
そのとき、後悔を払いのけるようにパシッと音をさせ肩に手が置かれ、名前を呼ばれる。
「ゆーり!大丈夫だって、悪寒とかしないし。責任なんて感じないでよ?」
「でも俺、調子乗ってこんなところで長時間……」
「いやその、僕も盛り上がっちゃったし……たまにはいいかなぁって……思って、……とにかく!もう眠いのは確かです。今日はもう、ゆっくり寝よう?」
タオルに包まった柊が、甘えるように夕里の首へと腕を掛けてくる。照れて頬が赤くなっているのを隠すように、首元に顔がうずめられる。
夕里は恭しく抱き上げて、宝物より大事な恋人をベッドへと運んだ。安心して身体を預けてもらえる幸福を噛み締める。
運ばれているうちに、もう瞼が半分落ちているのが子供みたいでかわいい。愛おしい。
おやすみのキスを理性で頬に落とすと、顔が捕まえられて唇をちゅうっと吸われた。魂まで吸われたかのようにぼんやりする夕里に、柊は「おやすみ」と幸せそうに呟いた。
「おやすみなさい……柊さん」
昔は寝付きが悪かったというのが信じられないほど、柊は一瞬で眠ってしまった。よっぽど疲れさせてしまったらしい。
眠りを妨げてしまうのは本意ではないが、柊にパジャマを着せ、髪を乾かし、ちょっと起こして水を飲ませる。風邪と脱水対策を終えて、ようやくふぅと満足のため息をついた。
――誰かのお世話をすることが、こんなにも心満たされるものだなんて知らなかった。柊自身も一緒に住みはじめた当初は遠慮がちだったものの、いまはこれだ。
どちらが何をしなければならない、なんて決まりはない。自分たちなりの生きやすい、それでいて幸せな生活を一緒に模索して、見つけていく。
きっと夕里も忙しくなるときが来るだろう。そうなるよう努力しているし、仕事の波は予測できない。柊なら彼なりに夕里を支えようとしてくれるはずだ。今だってもう、心を預け切ってしまっている。
依存しすぎは良くないなと思うものの、もう少しだけ寄りかからせて欲しい。柊はなにも言わないが、まだたまに疼く心の傷に気づいて寄り添ってくれている聡い人だ。
柊のように、いつか社会的にも精神的にも安定した人間になって、堂々と二人で歩んでいきたい。結婚はできなくとも添い遂げられるようななにかを、二人でなら見つけられる気がした。
自分も横になって、柊をそっと抱き寄せる。柔らかく温い身体がそばにあることを実感する。
「柊さん……だいすき」
「んぅ……ぼくも」
寝言でも応えてくれたことに胸が満ちる。もう眠ろう。大好きなひとと一緒の未来は、間違いなく明るい。
――――――――――
番外編もお読みいただきありがとうございました!
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しっかり読んでいただきありがとうございます!
お気づきですか!似た業界にいた経験があるので、細部まで書き込みました。
柊の性格がいいからか、周囲にも良い人が多いです。大福さんにも安心していただけてよかった!
丁寧な感想に感謝します✨
すごく幸せな気持ちになりました。ありがとうございます…この二人なら幸せになれる…!
その後の人生が安心できるカップルを久々に見た気がします。
処で、ラブホ私も同じ目にあったことがありあの時の混乱と居たたまれなさと好奇心(笑)を思い出しました。私はフロントでやっと気づきましたw明記しといてくれよ楽○…!
ベッド大きくてタオル山積みですよね(*-ω-)
一点の曇りもなく幸せにしたい!と思って書いていますので、そう言っていただけて本当に嬉しいです。
なんと経験者でしたか!それは柊並に焦りますね…!タオルもアメニティも豊富なのはありがたいですが(笑)
私は学生時代に友人と女子会しました😂お風呂のジェットが光って楽しかったです。
感想ありがとうございます✨
続編ありがとうございます。幸せに向かっている二人に会えて嬉しかったです。これからの二人の人生がより楽しみになりました。
こちらこそお読みいただきありがとうございました。
くっついて終わりじゃなくて、そこから時間をかけてお互いを知り、深い関係になっていってほしいものです。幸せな未来を感じてもらえて嬉しいです✨