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番外編
3.*
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「あっ、まって。鍵……んんぅ!」
家に帰る電車の中では眠気にぼうっとした時間を過ごし、玄関に入り扉を閉めた瞬間。――柊は背を扉に押し付けられ、激しく唇を奪われた。
後ろ手に鍵をかける余裕もなく、息を確保するのが精一杯なキス。夕里の手で後頭部と一緒に両耳を押さえられると、水音が頭に響く。消えたと思っていた灯火はあっという間に大きくなり、身体中に燃え移る。
キスに翻弄されているあいだに、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえてハッとした。いつの間にか夕里の手は柊の履いたコットンパンツを下ろそうとしている。
「……ふぇ?」
抵抗しようとしてもキスで力が抜けてしまい、扉にやっと寄りかかっている状態だ。両手を夕里の手にかけるも意味はなく、勃ちかけていた陰茎がボクサーパンツから取り出される。
そこで夕里はしゃがみ込み……柊の陰茎を支えるように持って下から舐め上げた。
「ぅえ!?ちょっ、ゆ、ゆりくん!こんなところで……あぁぁっ!」
「柊さん。外に聞こえますよ?」
視覚情報から得る衝撃と直接的な皮膚刺激に、思わず大きな声が出る。夕里に指摘されて思わず手で自分の口を覆った。
(ていうか、ゆりくんのせいなんだけど!!)
このマンションは生活音こそほとんど壁から聞こえてこないが、玄関近くにいると意外に外の音が聞こえるのだ。つまり、扉の防音は弱い。
だが夕里は止めるつもりがなさそうだった。まだシャワーも浴びていないのに、柊のものを舐め、扱き育てる。誰かが外から帰ってきたのか、足音が扉の向こう側から聞こえて「ひっ」と息を呑む。
帰ったばかりのこんな場所で、誰かに聞かれそうな状態で、夕里にフェラチオされている。
その倒錯的な状況に、陰茎は萎えるどころか血が集まっていく。気持ちいい。腰が震える。もう、イッてしまいそう。
「んっ。あ!……んん~~っ!…………、あ……いや……なんで」
夕里に先端を吸われて、我慢なんてできるはずもない。精液が尿道を駆け抜ける快感に身構えたとき――夕里はペニスの根本を縛るように指でぎゅっと押さえてしまった。
なんで……?熱に潤んだ瞳で見下ろしても、イかせてもらえない。夕里は柊の足首に溜まっていた服を脱ぐよう促して、立ち上がる。
「なんでって……お仕置きですよ。俺以外の男にも隙だらけなの、もっと自覚してください」
「え……レンとはなんともないよ?少し話したことがあるだけで」
「……それでも、呼び捨てなんですね」
「それは……!レンの距離感がそうさせるっていうか。歳も近そうだったし、酒が入ってたりして……無意識に……いや、それが駄目なのか。ごめん…………」
親しげにされたからって自分も気安い態度を取ってしまうのは、確かに危なっかしい。最初に感じた恐怖とその後助けられたギャップのせいで、柊もレンに対する認識がよく分からなくなっていたのだ。
ましてや夕里は同性が恋愛対象だ。恋人が別の男と仲良くしていたら、当然……。
柊は名古屋のバーで彼を見つけたとき、隣りにいた中性的な美人に激しく嫉妬したことを思い出した。
いまはどうしてか自分のような冴えない男に惚れてくれているけど、いつ捨てられるか分からない。住処だけは提供しているものの、自分の世話ばかりさせて。
柊は正真正銘の恋愛初心者だ。今日のように彼を嫌な気持ちにさせていることは、知らないだけで沢山あるのかもしれない。性行為だって、夕里がいろいろやってくれて自分はいつも受け身だ。
夕里はバーで一緒にいた彼と、寝たことはあるんだろうか?――脳裏に、夕里に乗っかる美人が浮かんだ。
「えっ!柊さん……な、泣いてます?」
「っ……風呂入ってくる!」
俯いたまま固まってしまった柊に夕里が慌てだしたのも構わず、風呂場へ駆け込む。下半身裸なのが情けないが、シャツの裾が尻を隠してくれたことを願おう。
脱衣所の鍵を閉めて、鏡の中の自分と目が合う。本当に、凡庸な男だ。夕里と暮らし始めてから肌や髪の艶が増したとは思う。変に頬が痩けることもなくなった。でも、それだけ。
目元に浮かんでいた涙を払って、服を脱ぐ。冷静になってから、夕里にちゃんと謝ろう。……許してもらえるだろうか?
◇
シャワーを終えて寝室に逃げ込んだ柊を、夕里は追いかけてこなかった。いつもなら髪をちゃんと乾かしたか確認されたり、こまめに水分を摂るよう言ってくれるのに。
たったそれだけのことが淋しい。彼を怒らせたのは自分なのに……。
夕里が家を出ていくことを想像するだけで、苦しくて喉の奥がぎゅっと痛くなる。何も言わず去られるのは、二度とごめんだ。
交代で風呂場へ向かった彼が戻ってきたら、ちゃんと話そう。柊は、琥珀色の瞳に決意を宿した。
「柊さん、ごめんなさ……って、なんで正座!?」
「ゆりくん、対話の時間です」
寝室のドアを開けた夕里が、ベッドの上で正座する柊に目を丸くした。なんか、あの店で土下座したときを思い出すな……
ぎこちなく向かい側に座った彼も正座だ。柊が謝るつもりなのに、なぜかベッドの上は反省大会の様相を呈している。
家に帰る電車の中では眠気にぼうっとした時間を過ごし、玄関に入り扉を閉めた瞬間。――柊は背を扉に押し付けられ、激しく唇を奪われた。
後ろ手に鍵をかける余裕もなく、息を確保するのが精一杯なキス。夕里の手で後頭部と一緒に両耳を押さえられると、水音が頭に響く。消えたと思っていた灯火はあっという間に大きくなり、身体中に燃え移る。
キスに翻弄されているあいだに、カチャカチャとベルトを外す音が聞こえてハッとした。いつの間にか夕里の手は柊の履いたコットンパンツを下ろそうとしている。
「……ふぇ?」
抵抗しようとしてもキスで力が抜けてしまい、扉にやっと寄りかかっている状態だ。両手を夕里の手にかけるも意味はなく、勃ちかけていた陰茎がボクサーパンツから取り出される。
そこで夕里はしゃがみ込み……柊の陰茎を支えるように持って下から舐め上げた。
「ぅえ!?ちょっ、ゆ、ゆりくん!こんなところで……あぁぁっ!」
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視覚情報から得る衝撃と直接的な皮膚刺激に、思わず大きな声が出る。夕里に指摘されて思わず手で自分の口を覆った。
(ていうか、ゆりくんのせいなんだけど!!)
このマンションは生活音こそほとんど壁から聞こえてこないが、玄関近くにいると意外に外の音が聞こえるのだ。つまり、扉の防音は弱い。
だが夕里は止めるつもりがなさそうだった。まだシャワーも浴びていないのに、柊のものを舐め、扱き育てる。誰かが外から帰ってきたのか、足音が扉の向こう側から聞こえて「ひっ」と息を呑む。
帰ったばかりのこんな場所で、誰かに聞かれそうな状態で、夕里にフェラチオされている。
その倒錯的な状況に、陰茎は萎えるどころか血が集まっていく。気持ちいい。腰が震える。もう、イッてしまいそう。
「んっ。あ!……んん~~っ!…………、あ……いや……なんで」
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なんで……?熱に潤んだ瞳で見下ろしても、イかせてもらえない。夕里は柊の足首に溜まっていた服を脱ぐよう促して、立ち上がる。
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「っ……風呂入ってくる!」
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◇
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寝室のドアを開けた夕里が、ベッドの上で正座する柊に目を丸くした。なんか、あの店で土下座したときを思い出すな……
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