敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

おもちDX

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番外編

2.

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「レンは命の恩人っていうか……二回だけ偶然」
「一緒に飲んだんだよね~!鶴くんドジすぎるもん、見てて楽しいから俺大好き」
「ふ~~~ん……」

 鶴ってなんだ鶴って。そう問えば、あのとき命を救っていただいた……というアレから連想しているらしい。言われてみれば恩を返していないなと気づいて、柊はレンに今日は奢ると申し出た。夕里が驚いた声を上げる。

「え!柊さんこんないかにもヤリチ……に奢らなくていいですって!」
「なんでゆりくんが言うの。僕のお金なんだからいいでしょ?レンがいなかったら大怪我してたかもしれないんだから」
「ゆりくん……って、ゆりちゃん!?へ~~~、やっぱそうだったんだ。なるほどねぇ……」

 レンの元にもビールが届いて、柊たちは三人で乾杯した。この数分でこっちのビールは泡が消えてしまっている。そのせいか夕里の顔は浮かばなかった。
 
 この店は場所柄、夜の店で働く人が多く訪れる。おかげで女将はいろんな人種を見慣れていて、同性愛に対しても偏見は持っていないようだ。
 カウンター席にいる中年のサラリーマンでさえ息子のような扱いで、家に帰ってきたような安心感がある。ずっと繁盛してるんだろうなぁ。

 先にどんどんと届きはじめた料理をつまみながら、夕里にレンと出会った事情を話す。そもそも柊がこの辺りをフラフラする理由なんて、夕里しかないのだ。
 つまみの厚切りネギチャーシューが美味い。美味しいね、と弾んだ声で言うと彼の表情もだんだんと明るくなった。久しぶりにアルコールの入った柊も嬉しくなる。

 あのときは何度も落ち込んで、先の見えない状況で行動するのは不安ばかりだった。だからこそ、いま夕里と一緒にいられるのが夢みたいで、幸せだ。
 熱々の餃子が届く。最高。へにゃりと笑った柊を見て、夕里は呻くように呟いた。

「あー……かわいいからいっか……」
「鶴くん、餃子熱いから気をつけてね。火傷しちゃうよ?」
「その節は本当に……」
「涙目で俺のビールぐびぐび飲んでたもんね。間接キッス、しちゃったね」
「えっ」

 レンが後ろから背中をくっつけるようにして話しかけてくる。その忠告は嬉しかったものの、付け加えられた一言に柊は固まる。そんな言い方しなくたって……。
 突き刺さるような視線を感じて、ようやく夕里の不機嫌の理由に思い当たった。いや、でもまさか……

「ゆりくん……もしかして、嫉妬してる?」
「……帰ったら、よ~く教えてあげますよ。俺がどんな気持ちか」

 小声で尋ねた柊に、レンにも聞こえるように答えた夕里は、ゴクゴクとビールを流し込み追加の注文をした。次に頼んだのが態度とは裏腹にウーロン茶だったから、柊は首を傾いだ。今日は夜も勉強するつもりなのかな?
 
 怒らせてしまったかと思ったけど、どこか熱っぽい目で見てくる夕里に当てられる。
 テーブルの下でぶつかって、引っついたままの膝。他人の目を盗むように、時折り絡ませられる指。
 
 敏感な柊が声を上げないギリギリの接触に、ドキドキしながら食事の時間を過ごした。金曜日の夜、つまり昨晩……たっぷり愛されたばかりの尻の奥が疼く。いやいや、今日はしないでしょ……?

 一杯目のビール、二杯目のレモンサワー。たったそれだけだが、柊は気持ちよく酔っていた。視界がぼやっとして瞼が重い。酔いのせいで甘えたい気持ちになって、自分から夕里の手を捕まえに行く。
 節が太くて、長い指。この指が自分にどんな快感をもたらすのか思い出してしまい、柊は顔が熱くなってくるのを感じた。

「帰りましょうか」
「ひぁっ……」

 タイミングを見計らったかのように夕里が耳元へ顔を寄せ、ひとこと囁く。耳殻に瞬間だけ触れた唇。かかる息。
 痺れるような快感が身体を駆け巡り、身体に火を灯す。それをかき消すように慌てて立ち上がって、柊は勘定に向かった。



「ゆりちゃん、奢られてんの~?」
「お前に関係ないだろ。助けてもらったことには礼を言うが、あの人に手出すなよ……」
「選ぶのは飼い主様だろ?」

 支払いを終えた柊に気づき、夕里が駆け寄る。夕里にだってしばらく生活できる程度の貯蓄くらいあるが、勉強中は一銭も出させてもらえないのだ。
 いつか絶対に倍にして返してやる。そんな気持ちも勉強を頑張る後押しになっていた。

 結局一杯しか奢らせてもらえなかった柊が、帰り際レンに挨拶しようと振り返りかける。その腰を夕里は引き寄せ、脇腹をスルリと撫でた。すぐにビクンと身体を震わせて困ったように見上げてくる柊の琥珀色には、夕里しか映っていない。
 
 この瞳が自分以外を映さなければいいのに。夕里がそう願ってしまうほどには、柊に依存している。まだ嫉妬の火が燻る胸の内を隠して、柊を外へと誘導する。

 ――家に帰るまでは、お利口にしておこう。
 

 
 最後に無視されたレンは、ため息を吐く。その肩を、柊たちのテーブルを片付けに来た女将がバシンと強く叩いた。

「あーあ、俺もあんな人に飼われたーい」
「レンくんにはあんな純粋そうな子、もったいないわよ!素行を直してからじゃないと、みんな不幸にしそうだもの」
「言ってくれるよな~。あ~~、見せつけられたぜ~~~っ」
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