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番外編
1.わかちあいたい
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お待たせしました!Rありの番外編、全6話あります。
――――――――――
ふたりでソファに座り、テレビを見ていたときだった。有名な中華のファミレスチェーン店で、どれが人気メニューか芸能人が当てる企画。柊は夕里が作った栄養バランスの整った夕食をとって腹がいっぱいで、ぼーっとしていた。
まぁ、家に帰ってスーツを脱ぐとだいたい柊はぼーっとしている。この時間が幸せだ。ぼー……
「楽華亭いきたいな……あ。今ってことじゃなくて」
「あはは、わかってますよ。じゃあ今度、楽華亭デートしましょ!」
デートと名付けるだけで途端にわくわくしてしまうのは何なのだろうか。背もたれが楽しそうに左右に揺れ、柊も一緒に揺れる。ゆーらゆら。あー、寝そう。
気持ちいい揺れに自然と瞼が重くなる。頭がガクンと倒れかけたとき――ピチャ、と耳に濡れたものを感じた。
「ひゃあ!?」
「柊さん、いま寝たら夜眠れなくなりますよ。お風呂溜めてあるんで、入ってきてください」
「んっ、あ!わかった。わかっ、たからぁ!」
下手な目覚ましより強烈だ。柊の性感帯を熟知……どころかどんどん増やしている夕里は、最近耳を舌で責めるのがお気に入りらしい。
耳がこんなにも敏感な器官だとは思わなかった。接触もまずいし、音もまずい。パブロフの犬のように下腹部が疼いて、柊は慌てて立ち上がった。
「ふ、風呂!行ってくる」
夕里はにやにや頬を緩ませて手を振ってくる。近ごろは行為にも慣れてきて、前じゃなくて後ろが期待するように疼くんだからどうしようもない。明日も仕事だし、こんなことを考えている場合じゃないのだ。
彼は本当に柊の扱いが上手い。無駄にだらだらさせないし、甘い時間もきっちり確保してくる。加えて昼間は自分の勉強もちゃんとやっているらしいから、本当にできた男だ。
◇
「ゆりちゃん!?どこ行ってたのよ~見ない間に大きくなって~~!」
「いや……大きくはなってないでしょ…………」
色褪せた暖簾、懐かしい雰囲気。間違いない中華料理屋楽華亭に夕里が入っていくと、女将さんの驚いたような声が響いた。彼女が驚くのも無理はない。
近くに住んでいたときこそ週に一度は来ていたという夕里。彼はヘッドマッサージ店を辞めてすぐに名古屋へ行き、友人の家に滞在していた。そして都内に戻ってきてからバタバタと柊の家に引っ越したため、もう数ヶ月この店には訪れていなかったのだ。
小柄な女将さんが背を反らすように夕里を見上げて、バンバン腕を叩いている。その後ろから柊が顔を見せると、彼女は「あらっ」と目を丸くした。
「あなたっ、会えたのね!あ~よかったわね~~!」
「あ……会えました。ありがとうございます」
にこにこと皺を深めて我が事のように喜んでくれるから、照れてしまう。柊が温かい気持ちになっている横で夕里が首を傾げてきたので、テーブル席につきながらここへ来たときの経緯を説明した。
「え!うちまで来てたんですか……いや、そうか……地元行って名古屋に突撃するくらいだもんな……柊さんの行動力、すごすぎ」
「いや。普通に引くよね……」
「なに言ってるんですか!めっちゃ嬉しいです!大好き!」
「仲良しねぇ」
外とはいえ、夕里は慣れた店でほとんどいつも通りの態度だ。小さなテーブルを挟んで会話していると、女将さんがビールとつまみを持ってくる。
柊はビクッと肩を揺らし、身体を強張らせた。――聞かれてしまった。
柊は自分たちの関係を隠したいとは思っていない。けれど、夕里のトラウマには敏感だ。どこで噂になって、誰になにを言われるかわからない。ましてや馴染みの店で何か言われたら……
頭の中でぐるぐると悪い想像が広がる。しかしそのとき、柊の手に温かい手が重ねられて思考が止まった。
「大丈夫ですよ」
「ゆりくん……」
「俺は柊さんのおかげで、いま無敵なんです。それに、この店は……」
夕里が店内を見渡す。ちょうど新しい客が暖簾をくぐってきたところだ。
「いらっしゃい!レンくん今日は一人?この前の可愛い彼氏はどうしたの」
「おばちゃんとりあえずビール!あ~あの子?別れちゃった。俺にはもっと純粋な感じの子が合うのかも。ほら、あんな感じの……」
「レン!?」
「は……?誰」
急に耳へと届いた声、聞き覚えのある名前。席へとつく前にビールを注文したレンは、柊を見つけて嬉しそうに「鶴くん!よく会うね」と近づいてきた。
もう半袖一枚でも違和感ない季節で、眩しいくらい白いTシャツが爽やかだ。相変わらずぴったりと筋肉が強調されていて、顔は濃いが。
対象的に黒いゆったりとしたヘビーウェイトTシャツを着ている夕里は、柊の後ろ側の席に座ったレンを訝しげな表情で睨む。
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ふたりでソファに座り、テレビを見ていたときだった。有名な中華のファミレスチェーン店で、どれが人気メニューか芸能人が当てる企画。柊は夕里が作った栄養バランスの整った夕食をとって腹がいっぱいで、ぼーっとしていた。
まぁ、家に帰ってスーツを脱ぐとだいたい柊はぼーっとしている。この時間が幸せだ。ぼー……
「楽華亭いきたいな……あ。今ってことじゃなくて」
「あはは、わかってますよ。じゃあ今度、楽華亭デートしましょ!」
デートと名付けるだけで途端にわくわくしてしまうのは何なのだろうか。背もたれが楽しそうに左右に揺れ、柊も一緒に揺れる。ゆーらゆら。あー、寝そう。
気持ちいい揺れに自然と瞼が重くなる。頭がガクンと倒れかけたとき――ピチャ、と耳に濡れたものを感じた。
「ひゃあ!?」
「柊さん、いま寝たら夜眠れなくなりますよ。お風呂溜めてあるんで、入ってきてください」
「んっ、あ!わかった。わかっ、たからぁ!」
下手な目覚ましより強烈だ。柊の性感帯を熟知……どころかどんどん増やしている夕里は、最近耳を舌で責めるのがお気に入りらしい。
耳がこんなにも敏感な器官だとは思わなかった。接触もまずいし、音もまずい。パブロフの犬のように下腹部が疼いて、柊は慌てて立ち上がった。
「ふ、風呂!行ってくる」
夕里はにやにや頬を緩ませて手を振ってくる。近ごろは行為にも慣れてきて、前じゃなくて後ろが期待するように疼くんだからどうしようもない。明日も仕事だし、こんなことを考えている場合じゃないのだ。
彼は本当に柊の扱いが上手い。無駄にだらだらさせないし、甘い時間もきっちり確保してくる。加えて昼間は自分の勉強もちゃんとやっているらしいから、本当にできた男だ。
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「ゆりちゃん!?どこ行ってたのよ~見ない間に大きくなって~~!」
「いや……大きくはなってないでしょ…………」
色褪せた暖簾、懐かしい雰囲気。間違いない中華料理屋楽華亭に夕里が入っていくと、女将さんの驚いたような声が響いた。彼女が驚くのも無理はない。
近くに住んでいたときこそ週に一度は来ていたという夕里。彼はヘッドマッサージ店を辞めてすぐに名古屋へ行き、友人の家に滞在していた。そして都内に戻ってきてからバタバタと柊の家に引っ越したため、もう数ヶ月この店には訪れていなかったのだ。
小柄な女将さんが背を反らすように夕里を見上げて、バンバン腕を叩いている。その後ろから柊が顔を見せると、彼女は「あらっ」と目を丸くした。
「あなたっ、会えたのね!あ~よかったわね~~!」
「あ……会えました。ありがとうございます」
にこにこと皺を深めて我が事のように喜んでくれるから、照れてしまう。柊が温かい気持ちになっている横で夕里が首を傾げてきたので、テーブル席につきながらここへ来たときの経緯を説明した。
「え!うちまで来てたんですか……いや、そうか……地元行って名古屋に突撃するくらいだもんな……柊さんの行動力、すごすぎ」
「いや。普通に引くよね……」
「なに言ってるんですか!めっちゃ嬉しいです!大好き!」
「仲良しねぇ」
外とはいえ、夕里は慣れた店でほとんどいつも通りの態度だ。小さなテーブルを挟んで会話していると、女将さんがビールとつまみを持ってくる。
柊はビクッと肩を揺らし、身体を強張らせた。――聞かれてしまった。
柊は自分たちの関係を隠したいとは思っていない。けれど、夕里のトラウマには敏感だ。どこで噂になって、誰になにを言われるかわからない。ましてや馴染みの店で何か言われたら……
頭の中でぐるぐると悪い想像が広がる。しかしそのとき、柊の手に温かい手が重ねられて思考が止まった。
「大丈夫ですよ」
「ゆりくん……」
「俺は柊さんのおかげで、いま無敵なんです。それに、この店は……」
夕里が店内を見渡す。ちょうど新しい客が暖簾をくぐってきたところだ。
「いらっしゃい!レンくん今日は一人?この前の可愛い彼氏はどうしたの」
「おばちゃんとりあえずビール!あ~あの子?別れちゃった。俺にはもっと純粋な感じの子が合うのかも。ほら、あんな感じの……」
「レン!?」
「は……?誰」
急に耳へと届いた声、聞き覚えのある名前。席へとつく前にビールを注文したレンは、柊を見つけて嬉しそうに「鶴くん!よく会うね」と近づいてきた。
もう半袖一枚でも違和感ない季節で、眩しいくらい白いTシャツが爽やかだ。相変わらずぴったりと筋肉が強調されていて、顔は濃いが。
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