敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

おもちDX

文字の大きさ
上 下
39 / 56

39.勘違いなんかじゃない

しおりを挟む
 夕里の片手が頭の後ろを押さえていて、唇と舌の猛攻から逃げられない。またもや初心者にはハイレベルなキスをお見舞いされ、混乱したまま柊の腰がガクッと抜けた。

 難なく体重を支えた夕里が、柊を横抱きにする。展開について行けないし、こっちは軟体動物のようにふにゃふにゃになっているから成すすべもない。

「この人は、俺の……くそ!俺が一番最初に見つけたんです!」
「あはは、締まらねぇな~ユリ」

 夕里が誰かに向かって宣言し、友人だろうか?からかうような野次が飛んでくる。彼はそのまま移動し、バーカウンターで柊を座らせ支払いを済ませた。
 
 バーテンやさっき話していた人たちが口々に「お幸せに」と声を掛けてくるのがいたたまれない。顔に熱がのぼって、アルコールもまた回ってきた気がする。
 なんで最後にお酒頼んじゃったんだろう……僕のばか。

「立てますか?」
「う、うん……」

 さすがにお姫様抱っこで外に出るつもりはないみたいだ。柊はふらふらする脚をなんとか動かし、夕里に支えられながら店を出る。途端にざわめきが遠のき、夜の静けさに包まれる。
 
 夕里はキューンと効果音をつけたくなるほど眉を下げ、なんともしょんぼりした顔でこちらを上目遣いに見つめてくる。
 
「ごめんなさい。俺また暴走しちゃって、みんなの前で……嫌でしたよね」
「えっいや?びっくりしたけど……その……嬉しかったっていうか……き、気持ちよくて訳わかんなくて」

 耳に残響が残ってぼやぼやする中で、しかししっかりと夕里の声は聞こえた。
 
 また馬鹿正直に、言わなくてもいい言葉まで口からこぼれていく。彼の行動に「もしかして」と舞い上がって。気持ちいいとか事実だけど、ほんとうに恥ずかしい。
 
 夕里が視線を落としていた柊のあごを指先で持ち上げる。そのまま視線も上がって、ジトっとこちらを見つめる目と目が合った。

「柊さん……俺、勘違いしますよ?さっきの男も言ってたように、その他大勢の男と一緒ですか?そんないい匂い撒き散らして……勘違いさせられてます?」
「勘違いじゃない!ぼく、ぼくは……ゆりくんのことが」
「あー!ストップ!待って、俺から言わせて」

 自分の夕里に対する気持ち。ずっと名前をつけずにいたこの感情に、当てはまるものをずっと考えていた。本当は分かっていて見ないふりをしていたんだと思う。
 たった一人のことで頭の中を埋めつくされて、無謀な行動をして。勘違いなんかじゃない。
 
 なんとかそれを伝えるため必死で言葉を紡いでいると、なぜか大きな手が目の前に広げられて止められた。きっと柊の言おうとしていることが分かっているだろうに、嫌だった?と不安になる。
 
 しかし広がった指越しに見えた夕里の顔は、もう片方の手で口元を覆っているにしても赤く、締まりなく崩れていた。「え、どーしよ嬉しすぎる……夢?これは夢か?」などとぶつぶつ聞こえる状況は夢だろうか?

 互いに現実を夢現ゆめうつつに感じる数秒が過ぎ去って、夕里はなにかを決心したみたいに表情を引き締めた。柊の肩に両手が置かれ、強い視線に射抜かれる。

「俺、柊さんのことが好きです。だから、その……俺と付き合ってくれませんか」
「え……あ……う。うぅっ……」
「え!?どうして泣くんですか!」

 わからない。いざ言葉にされると逆に信じられない。
 頭は混乱しているのに、身体は先走って喜びの涙を流すのだからやっぱり嬉しいのだろう。親指でそっと目の下を拭われて、もう一度視線を交わらせた。
 
 涙の膜越しに見える、意志の強そうな目。顔立ちは整っているのに圧を感じさせない、優しい顔立ち。背丈があって顔が小さくて。少し硬そうな黒髪。
 この人が、自分を……と思うだけで胸がきゅうと痛くなって、思わず夕里に抱きついた。

 広い胸が柊を当たり前のように受け止めてくれる。その事実に静かに感動しながらも、止まらない涙を彼の服に押し付けた。

「ぐ。かわいい……あの、柊さん?とりあえず……二人になれる場所へ行きませんか?」
「……うん。行こう。……ふぁぁ」

 いままで生きてきた中でも、最高に幸せな瞬間だ。でも驚いて安心して、直後に訪れたのは圧倒的な眠気だった。
 どうしてここに居たのかと訊かれ、今朝からの行動を説明しつつ、もう逃さないという強い意思を込めて夕里の手を引いて歩く。
 
 眠気をこらえながらポツポツと説明し、なんだかいろいろと驚かれ、感激している様子の彼に構うことなくホテルまでの道を戻った。とにかく眠い。

「え……ここ…………」
「ん?――あぁ!!ち、違う。違うんだ!」

 ホテルに入る手前で夕里が立ち止まり、先に進んでいた柊もガクッと前に進めなくなった。ポカンと驚く彼の顔を見上げて、ようやくその理由に気づく。
 壁面に光る料金表。――休憩、宿泊、フリータイム。
 
 違う!違うんだって~~~!
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...