34 / 56
34.新世界
しおりを挟む
近ごろはラブホテルも経営が厳しいらしく、シティホテルとしても使えるように方向転換しているようだ。受付以降は用途によってちゃんと分けられていて、出入り以外は快適に過ごせそうだった。
部屋はベッドが異様にでかいだけで、案外普通だ。窓から外が見えないようになっているためちょっと暗いことを除けば、シンプルで過ごしやすそう。あ、風呂も広いな……
内装は予約時に確認していたから当たり前にしても、想像上のいかがわしい部屋ではなかったことにほっとする。柊はもちろんラブホテルなんて入ったこともなく、ラブグッズとか置かれていたらたじたじになっていただろう。
とにかく寝られればいいので、むしろ上等の部屋といえる。最近出張には行っていないが、出先で眠れなくなるのが柊の悩みだ。
ベッドは硬め、枕は……ちょっと高いな。眠れないかもと思いつつ、今日くらいはいいかと開き直る。
自宅から持ってきていたパソコンで仕事のメールをチェックしてから、今夜はどこに行けば夕里に出会える可能性があるか考えた。
栄の繁華街はすぐそこだ。バーに通っていたと言っていたはずだから、とりあえず検索してみる。
バーだけでも当然たくさんあるなかで、『ゲイバー』という文字のところで手が止まった。……ここかもしれない。
調べてみると、ゲイバーといっても誰でも入れる店、男性のみ入店可能な店など色々ある。
柊は無駄に仕事の几帳面さを発揮し、ここから歩いていける距離のゲイバーをDB化した。ゲイのみ入店できるところ、ノンケの男性も可のところ、観光バー等々……店の規模や特徴、オープンしてからの年数も項目に追加する。
見やすく一覧になったデータから、夕里の行きそうな店を消去法で選んでいく。
わざわざ女性も来るところは行かなさそうだし、色が爆発したようなド派手な店もセンスの良い彼は行かないだろう。ここ一年でできた店も除外。
「この辺り、かな……全部四丁目か」
なんとか三軒に絞り込み、回る順番を決めた。時間はおそらく、遅い方がいいはず。オープン時間もバーというだけあって遅めのようだ。
そこで柊は暇を持て余した。身体は疲れているが、一旦寝てしまうと起きれない気もする。
「あ……そうだ。風呂入ろ」
朝から移動ばかりで昼間は若干暑かったし、肌がベタベタして気持ち悪い。せっかくの広い風呂だし、ここでスッキリとして気持ちをリセットさせたい。
まだ家にたくさんある入浴剤を持ってこればよかったなぁと思いながら湯を溜めに行くと、アメニティに入浴剤が置いてあって驚いた。嬉しい誤算だ。近ごろはビジネスホテルでもアメニティ削減の動きが著しい。
「うお、結構匂いキツイな~」
入浴剤を溶かした瞬間から、ぶわっと広がるいい匂いに包まれる。ちょっと濃すぎるな……と感じつつも、湯に浸かっていれば鼻も慣れてしまった。
頭のてっぺんから足先までいつも以上に丁寧に洗い風呂場を出ると、くぅ、と腹が鳴った。
そういえば今朝からまともに食べていない。使命感と緊張で空腹も忘れていたらしい。
バーへ行く前に食事をしよう。一軒につき一杯は頼まなきゃいけないだろうし、空きっ腹は危険だ。腹が減っては戦もできぬ。
なんとなく、味噌煮込みうどんが食べたくなった。夕里がちらっと話していたのを思い出したから。まぁ、彼は苦手らしいけど……
柊はけっこう好きだ。八丁味噌の濃い味と、独特な食感のうどん。関東のうどんと比べてはいけない。あれはあれ、これはこれ。
恥じらいを押し隠して小走りでホテルを出て、そう遠くない場所にそば処と書いた暖簾が見える。大衆的でどこか安心する店構えだ。入口の外には雨対策にビニールを掛けられたメニュー。
メインは味噌煮込みうどんで、きしめんなんかもある。きしめんもいいなぁ。でも、やっぱり……。
もう一度腹が鳴った途端に考えるのはやめて、店内に入る。卓上のメニューも見ずに味噌煮込みうどんを注文した。玉子入りのシンプルなやつ。
待っているあいだにさっと周囲を観察する。夕飯時は過ぎているものの土曜日だからか店内は盛況で、広い店内は柊が入った時点でほぼ満席だった。
カウンター席はないが、ひとりで来ている人も多いことに安心する。観光客というより、この街で働く人が食べに来ている感じかもしれない。
部屋はベッドが異様にでかいだけで、案外普通だ。窓から外が見えないようになっているためちょっと暗いことを除けば、シンプルで過ごしやすそう。あ、風呂も広いな……
内装は予約時に確認していたから当たり前にしても、想像上のいかがわしい部屋ではなかったことにほっとする。柊はもちろんラブホテルなんて入ったこともなく、ラブグッズとか置かれていたらたじたじになっていただろう。
とにかく寝られればいいので、むしろ上等の部屋といえる。最近出張には行っていないが、出先で眠れなくなるのが柊の悩みだ。
ベッドは硬め、枕は……ちょっと高いな。眠れないかもと思いつつ、今日くらいはいいかと開き直る。
自宅から持ってきていたパソコンで仕事のメールをチェックしてから、今夜はどこに行けば夕里に出会える可能性があるか考えた。
栄の繁華街はすぐそこだ。バーに通っていたと言っていたはずだから、とりあえず検索してみる。
バーだけでも当然たくさんあるなかで、『ゲイバー』という文字のところで手が止まった。……ここかもしれない。
調べてみると、ゲイバーといっても誰でも入れる店、男性のみ入店可能な店など色々ある。
柊は無駄に仕事の几帳面さを発揮し、ここから歩いていける距離のゲイバーをDB化した。ゲイのみ入店できるところ、ノンケの男性も可のところ、観光バー等々……店の規模や特徴、オープンしてからの年数も項目に追加する。
見やすく一覧になったデータから、夕里の行きそうな店を消去法で選んでいく。
わざわざ女性も来るところは行かなさそうだし、色が爆発したようなド派手な店もセンスの良い彼は行かないだろう。ここ一年でできた店も除外。
「この辺り、かな……全部四丁目か」
なんとか三軒に絞り込み、回る順番を決めた。時間はおそらく、遅い方がいいはず。オープン時間もバーというだけあって遅めのようだ。
そこで柊は暇を持て余した。身体は疲れているが、一旦寝てしまうと起きれない気もする。
「あ……そうだ。風呂入ろ」
朝から移動ばかりで昼間は若干暑かったし、肌がベタベタして気持ち悪い。せっかくの広い風呂だし、ここでスッキリとして気持ちをリセットさせたい。
まだ家にたくさんある入浴剤を持ってこればよかったなぁと思いながら湯を溜めに行くと、アメニティに入浴剤が置いてあって驚いた。嬉しい誤算だ。近ごろはビジネスホテルでもアメニティ削減の動きが著しい。
「うお、結構匂いキツイな~」
入浴剤を溶かした瞬間から、ぶわっと広がるいい匂いに包まれる。ちょっと濃すぎるな……と感じつつも、湯に浸かっていれば鼻も慣れてしまった。
頭のてっぺんから足先までいつも以上に丁寧に洗い風呂場を出ると、くぅ、と腹が鳴った。
そういえば今朝からまともに食べていない。使命感と緊張で空腹も忘れていたらしい。
バーへ行く前に食事をしよう。一軒につき一杯は頼まなきゃいけないだろうし、空きっ腹は危険だ。腹が減っては戦もできぬ。
なんとなく、味噌煮込みうどんが食べたくなった。夕里がちらっと話していたのを思い出したから。まぁ、彼は苦手らしいけど……
柊はけっこう好きだ。八丁味噌の濃い味と、独特な食感のうどん。関東のうどんと比べてはいけない。あれはあれ、これはこれ。
恥じらいを押し隠して小走りでホテルを出て、そう遠くない場所にそば処と書いた暖簾が見える。大衆的でどこか安心する店構えだ。入口の外には雨対策にビニールを掛けられたメニュー。
メインは味噌煮込みうどんで、きしめんなんかもある。きしめんもいいなぁ。でも、やっぱり……。
もう一度腹が鳴った途端に考えるのはやめて、店内に入る。卓上のメニューも見ずに味噌煮込みうどんを注文した。玉子入りのシンプルなやつ。
待っているあいだにさっと周囲を観察する。夕飯時は過ぎているものの土曜日だからか店内は盛況で、広い店内は柊が入った時点でほぼ満席だった。
カウンター席はないが、ひとりで来ている人も多いことに安心する。観光客というより、この街で働く人が食べに来ている感じかもしれない。
221
お気に入りに追加
462
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる