敏感リーマンは大型ワンコをうちの子にしたい

おもちDX

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31.見えてきたもの

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「え~っ。二軒目、行かないんですか……?」
「きたさんともっと話したーい!わたし席遠かった!」
「ごめんね。明日早いから、先に帰るよ。みんなで楽しんできて」

 当たり前のように二次会へ向かおうとする部下たちに別れを告げ、駅に向かう。千尋も柊の隣を歩いている。
 別部署の人間だからと遠慮したのではなく、単純に久しぶりの酒を過ごしてしまったらしい。千尋いわく、ワインは鬼門だ。

「あいつらみんな若いのに、千尋のコミュ力すごいな……僕より馴染んでたし」
「いや歳そんなに変わらないからね?ていうか、私まで奢ってもらってごめーん!いつの間にか支払い済ませちゃうなんて、紳士じゃん」
「どうせまた迷惑かけるだろうから、たまには恩売っておかないと」
「おーっ、言うようになったね」

 なんかスッキリした顔してると言われて、そうだろうなと内心頷いた。
 千尋と別れてすぐに京都行きの新幹線をネットで予約する。週末だからほぼ満席で、ぎりぎり朝の指定席を取れたことにほっと息を吐いた。

 家へ着くまでに目的地をあらかた調べ終え、帰ったら簡単に荷造りをする。日帰りの予定ではあるものの、もしものことを考えて泊まれる準備をした。
 シャワーを終え、店で買ったアイマスクをつけて横になれば完璧だ。

 目を閉じれば浮かぶのは夕里のことばかり。知らず知らずのうちに、彼の存在は柊の中で大きく育っていた。ついこの前まで新芽だったのに、いまや太い幹に枝葉まで伸ばしているのだ。

 こんなにも脳内をひとりの人物が占めるなんて、生まれて初めての経験だ。くそ~、混乱させやがって……責任を取ってもらわないと。
 セラピストと客という関係から、一歩大きく踏み込んできたのは夕里の方なのだ。遊びや軽い気持ちだったと言われても、納得なんてしてやらない。こっちは純情なんだからな!

 考えれば考えるほどカッカと頭の中で怒りが爆発する。眠れないかと思ったが、一週間働いたあとの酒が効いたのかそれほど時間を要さずに気づけば眠ってしまっていた。


 ◇


「着いた……来てしまった……」

 土曜のちょうど昼ごろ。柊は夕里の地元、らしき場所に降り立った。
 万全の準備を整えてきたつもりだったけれど、すでにちょっと疲れている。

 まずは最も実家に近いと思われる場所の小学校を目的地とした。のだが、新幹線から乗り換えた私鉄を降りてからの交通手段はバスしかなく、正しいバス停を探すまで右往左往してしまった。
 バスは苦手だ。前と後ろどちらから乗るのか、先払いか後払いか、JRの交通系ICカードが使えるのか……事前に調べてもバス会社によって違うからよく分からない。

 やっとのことで到着した小学校は、土曜日ということもあってひと気がなかった。ぐるりと校舎のまわりを外から一周し、グラウンドを柵の外から覗く。
 ハンドボールって……室内競技だったよな?じゃあ外では練習してなかったか……見える範囲にサッカーゴールはあるものの、それに似たハンドボールのゴールは見当たらなかった。

「ゆりくんも中学からやってたんだっけ……」

 マイナースポーツっぽいし、小学校のスポーツクラブにはなかったかもしれない。少なくとも柊の通ってきた学校にはハンドボール部なんてなかった。
 学校の周りに手がかりが落ちているなんて都合のいいことも起きず、近隣住宅の表札を一軒一軒見て回るなんて不審者行為はさすがにできない。
 
 さくっと踏ん切りをつけて、次は中学よりも行きやすい場所にあった高校へと向かった。こちらは人通りの多い道路沿いにあるようだ。近づくにつれて、校舎に縦横と貼られた垂れ幕が目立って見える。

 “サッカー部 新人大会準優勝おめでとう”
 “柔道部 宮永君 関西大会個人優勝おめでとう”
 “ハンドボール部 西日本大会優勝おめでとう”

 スポーツに力を入れている高校らしい。垂れ幕にハンドボールの字を見つけて「おっ」と嬉しくなる。確か全国的にも強豪校で、夕里はここで扱かれて頭角を表し、大学もスポーツ推薦で入ったのだという。
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