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週明けは新年度だ。入社や退社、異動や新部署の設立など様々な知らせが全社員に向けて発信され、そのなかで従業員表彰受賞者の発表もあった。
朝礼で全社員が集められるなか、事業本部長から柊が部署を代表して賞状――と報奨金――を受け取る。他人からは「良かったね」と言われる程度のものだが、部下たちの顔はキラキラと輝いていた。
もう暫くは落ち着かない日々が続くだろうけど、プロジェクトも一応の区切りはついた。法律スレスレの残業時間を見ても分かるように、恐ろしく大変で苦しい時間だった。
だからこそ、会社の上層部から認められた達成感は満開になった桜のように咲き誇り、確実にみんなの心に舞い降りている。
「これは均等に分けましょう。割り切れない分は食事会に使いたいと思います。いいですか?」
「課長が一番貰うべきでは?」
「私もそう思いま~す」
「……い、異論は認めません!」
報奨金の使い道については、柊が代表して決めさせてもらった。久しぶりにキツイ感じで言ってみたものの、みんな苦笑してまぁいいか、といった感じで受け入れてくれる。
十月にこの部署が設立されてからちょうど半年、ずいぶんとみんな図太く……逞しくなった。
新入社員も一名入る予定だが、研修で一ヶ月は配属されない。中途採用は二日間の研修だったのでかなり扱いが違うが、まぁそんなものだ。
柊の心中は穏やかでないけれど、良い知らせで新年度を迎えられるのはいい。殺伐とした雰囲気の部署に配属されたら、新入社員も怯えさせてしまうだろう。下手したらすぐに辞めてしまう可能性もあるし、本当に良かった。
部署の雰囲気が良くなったきっかけの一つは、間違いなく……夕里だ。みんなは知らない、柊だけの秘密。
今週はなんとか時間を見つけて、彼の家まで赴いてみようと思っているのだ。引かれたっていい。あれから何度考えても、じっとしているなんて無理だという結論に達した。
柊が決意を新たにしていると、部下たちが食事会の日程を決め、店をどこにするかとか予約は誰がするかまで決めてしまっていた。
こういう業務外のことに関してかなり頼りない柊は、若者はすごいなぁと驚くばかりで何もできない。
結局鉄は熱いうちに打てということでスケジュールも鑑みた結果、今週の金曜日と決まったようだ。思ったよりも早いけど、みんなの予定が合うのなら文句はない。
柊も予定を確認されたが、縦に首を振って終わる。金曜より前に夕里の家に行けるようにしたいな、と思い直しただけだった。
年度の区切りということで、通常業務外の仕事も多い。システムのメンテナンスについてもそうだし、管理職ならではのこともある。
これまでが大変すぎたからか、はたまたみんなの連携がスムーズに進むようになったからか、突発的な業務が発生しない限りはそれほど負担に感じなくなった。
社内の定時を知らせる音楽が天井のスピーカーから流れてくると、休憩を入れて「ここまで終わらせるぞ」と気合を入れる。
ついつい残業してしまうのはもう癖みたいなもので、今期はノー残業デーを取り入れたいなとオンラインメモに追加した。上からも残業時間については苦言を呈されているものの、これまではプロジェクトの遂行のため黙認されていたのだ。
ブラック企業じゃなくても、ホワイトかブラックかは部署によって違う。残業代がきっちり与えられるのは不幸中の幸いで、正直この半年間はかなりブラックよりのグレー部署だったと思う。
ここまで誰も辞めずについてきてくれたのは奇跡に近い。今期は部下に恩を返しつつ、今後も健康に存続していけるような部署にしていこう。
そのためには自分のメンタルもフィジカルも、平穏に保つことが重要だ。
朝礼で全社員が集められるなか、事業本部長から柊が部署を代表して賞状――と報奨金――を受け取る。他人からは「良かったね」と言われる程度のものだが、部下たちの顔はキラキラと輝いていた。
もう暫くは落ち着かない日々が続くだろうけど、プロジェクトも一応の区切りはついた。法律スレスレの残業時間を見ても分かるように、恐ろしく大変で苦しい時間だった。
だからこそ、会社の上層部から認められた達成感は満開になった桜のように咲き誇り、確実にみんなの心に舞い降りている。
「これは均等に分けましょう。割り切れない分は食事会に使いたいと思います。いいですか?」
「課長が一番貰うべきでは?」
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「……い、異論は認めません!」
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十月にこの部署が設立されてからちょうど半年、ずいぶんとみんな図太く……逞しくなった。
新入社員も一名入る予定だが、研修で一ヶ月は配属されない。中途採用は二日間の研修だったのでかなり扱いが違うが、まぁそんなものだ。
柊の心中は穏やかでないけれど、良い知らせで新年度を迎えられるのはいい。殺伐とした雰囲気の部署に配属されたら、新入社員も怯えさせてしまうだろう。下手したらすぐに辞めてしまう可能性もあるし、本当に良かった。
部署の雰囲気が良くなったきっかけの一つは、間違いなく……夕里だ。みんなは知らない、柊だけの秘密。
今週はなんとか時間を見つけて、彼の家まで赴いてみようと思っているのだ。引かれたっていい。あれから何度考えても、じっとしているなんて無理だという結論に達した。
柊が決意を新たにしていると、部下たちが食事会の日程を決め、店をどこにするかとか予約は誰がするかまで決めてしまっていた。
こういう業務外のことに関してかなり頼りない柊は、若者はすごいなぁと驚くばかりで何もできない。
結局鉄は熱いうちに打てということでスケジュールも鑑みた結果、今週の金曜日と決まったようだ。思ったよりも早いけど、みんなの予定が合うのなら文句はない。
柊も予定を確認されたが、縦に首を振って終わる。金曜より前に夕里の家に行けるようにしたいな、と思い直しただけだった。
年度の区切りということで、通常業務外の仕事も多い。システムのメンテナンスについてもそうだし、管理職ならではのこともある。
これまでが大変すぎたからか、はたまたみんなの連携がスムーズに進むようになったからか、突発的な業務が発生しない限りはそれほど負担に感じなくなった。
社内の定時を知らせる音楽が天井のスピーカーから流れてくると、休憩を入れて「ここまで終わらせるぞ」と気合を入れる。
ついつい残業してしまうのはもう癖みたいなもので、今期はノー残業デーを取り入れたいなとオンラインメモに追加した。上からも残業時間については苦言を呈されているものの、これまではプロジェクトの遂行のため黙認されていたのだ。
ブラック企業じゃなくても、ホワイトかブラックかは部署によって違う。残業代がきっちり与えられるのは不幸中の幸いで、正直この半年間はかなりブラックよりのグレー部署だったと思う。
ここまで誰も辞めずについてきてくれたのは奇跡に近い。今期は部下に恩を返しつつ、今後も健康に存続していけるような部署にしていこう。
そのためには自分のメンタルもフィジカルも、平穏に保つことが重要だ。
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