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19.快気○○
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「さ、寒い……」
「課長、大丈夫ですか?今日は帰ってください……って言えないのがつらい~!」
「喜多課長、ホットミルクティー買ってきました!」
ありがとうと受け取って、缶の熱さに驚く。慌ててデスクに置き、プルタブを開けようとしたがうまく力が入らない。カチカチと音を鳴らし苦戦していると、見かねた柴野が一瞬で開けてくれた。
座ったまま見上げてマスク越しにもう一度お礼を伝えると、彼は口元をモニョモニョとさせて自席へ戻っていった。顔が赤かった気がするがあいつも風邪じゃないよな?
従業員表彰の報告以降、部下たちとの距離は一気に縮まった。やはりいい知らせというのはみんなの気持ちを明るくするものらしい。
繁忙期が明けたら報奨金で飲みに行こうと約束し、いまは一致団結して仕事に邁進している。
しかし柊のフィジカルはボロボロだった。昨晩零時すぎに最寄り駅へ着くと、雨は止むどころか土砂降りになっていたのだ。
コンビニに駆け込むも傘は売切れ。諦めて家まで走ったのだが、頭のてっぺんから足の先まで余す所なく濡れてしまった。
ジャケットで守っていた鞄からパソコンを出したあとは、水浸しのスーツや革靴の処理に追われた。
スーツは替えがあるし靴も革靴で出社という規定はない。ただ、駄目にしてしまうのを恐れたゆえの行動だ。忙しさにかまけて、柊は革靴をカビさせた経験がある。
帰りに会えなかった夕里のことを悶々と考えていたせいで、冷静な思考じゃなかったのかもしれない。深夜に下着で部屋を動き回り、小一時間後にシャワーを浴びたときには身体が冷え切っていたのだ。
その結果……この有り様だ。朝起きた瞬間から悪寒が止まらず、せめてもと風邪薬と栄養ドリンクを飲んで出社した。時間とともに順調に発熱している気がする。
なにかあって出社できなくなったときの為に毎日パソコンは持ち帰っているものの、今日はどうしても出社が必要な仕事があった。
朝イチで柊の顔を見た部下たちは一様に心配してきたけれど、今日は柊がいないと仕事にならないことをみんなわかっている。どうにか上司を定時までに帰らせようと協力して仕事を進めている最中だ。
「ふぇっくしゅん!」
「喜多さん、もうちょっとです!東ぁ~、そっち終わったら即おれに回して。データの準備はできてるから」
「了解!喜多さん、今送った資料だけ確認お願いします」
「あ、ありがとう……」
おかしな話で、この部署が開設されてから今が断トツで一致団結していると感じる。柊は申し訳なさでいっぱいになりながらも、感動とありがたさで泣きたい気持ちだった。
千尋には通勤時に今夜の会合はキャンセルと伝えてある。
しっかりとマスクを着けて就業開始前に会いに来た彼女は、通勤途中に買ってきてくれたのだろう栄養源のゼリー飲料とホッカイロを差し入れてくれた。柊は食欲がなく昼も動けなかったし、ホッカイロには現在進行系で助けられている。
体調を崩したのは完全に自業自得だし、周囲に迷惑をかけてしまっていることには胸が痛む。とはいえ柊は(僕、そこまでみんなに嫌われていなかったのかも……)とこっそり安心していた。
部署のグループチャットで資料が送られてくる。油断すれば熱に浮かされそうな頭を叱咤し、内容を漏れなくチェックする。
この資料を別部署の部長に提出し、バグの起きたデータリカバリを今日中に完了させ現場へ周知するのが今日残りのタスクだ。終われば帰れる、終われば帰れる……そう自分に言い聞かせ、部下に励まされながらなんとか仕事に取り組んでいく。
――こんなときでも頭の片隅には夕里がいる。だがしばらく店に行けないであろうことは、確定していた。
「課長、大丈夫ですか?今日は帰ってください……って言えないのがつらい~!」
「喜多課長、ホットミルクティー買ってきました!」
ありがとうと受け取って、缶の熱さに驚く。慌ててデスクに置き、プルタブを開けようとしたがうまく力が入らない。カチカチと音を鳴らし苦戦していると、見かねた柴野が一瞬で開けてくれた。
座ったまま見上げてマスク越しにもう一度お礼を伝えると、彼は口元をモニョモニョとさせて自席へ戻っていった。顔が赤かった気がするがあいつも風邪じゃないよな?
従業員表彰の報告以降、部下たちとの距離は一気に縮まった。やはりいい知らせというのはみんなの気持ちを明るくするものらしい。
繁忙期が明けたら報奨金で飲みに行こうと約束し、いまは一致団結して仕事に邁進している。
しかし柊のフィジカルはボロボロだった。昨晩零時すぎに最寄り駅へ着くと、雨は止むどころか土砂降りになっていたのだ。
コンビニに駆け込むも傘は売切れ。諦めて家まで走ったのだが、頭のてっぺんから足の先まで余す所なく濡れてしまった。
ジャケットで守っていた鞄からパソコンを出したあとは、水浸しのスーツや革靴の処理に追われた。
スーツは替えがあるし靴も革靴で出社という規定はない。ただ、駄目にしてしまうのを恐れたゆえの行動だ。忙しさにかまけて、柊は革靴をカビさせた経験がある。
帰りに会えなかった夕里のことを悶々と考えていたせいで、冷静な思考じゃなかったのかもしれない。深夜に下着で部屋を動き回り、小一時間後にシャワーを浴びたときには身体が冷え切っていたのだ。
その結果……この有り様だ。朝起きた瞬間から悪寒が止まらず、せめてもと風邪薬と栄養ドリンクを飲んで出社した。時間とともに順調に発熱している気がする。
なにかあって出社できなくなったときの為に毎日パソコンは持ち帰っているものの、今日はどうしても出社が必要な仕事があった。
朝イチで柊の顔を見た部下たちは一様に心配してきたけれど、今日は柊がいないと仕事にならないことをみんなわかっている。どうにか上司を定時までに帰らせようと協力して仕事を進めている最中だ。
「ふぇっくしゅん!」
「喜多さん、もうちょっとです!東ぁ~、そっち終わったら即おれに回して。データの準備はできてるから」
「了解!喜多さん、今送った資料だけ確認お願いします」
「あ、ありがとう……」
おかしな話で、この部署が開設されてから今が断トツで一致団結していると感じる。柊は申し訳なさでいっぱいになりながらも、感動とありがたさで泣きたい気持ちだった。
千尋には通勤時に今夜の会合はキャンセルと伝えてある。
しっかりとマスクを着けて就業開始前に会いに来た彼女は、通勤途中に買ってきてくれたのだろう栄養源のゼリー飲料とホッカイロを差し入れてくれた。柊は食欲がなく昼も動けなかったし、ホッカイロには現在進行系で助けられている。
体調を崩したのは完全に自業自得だし、周囲に迷惑をかけてしまっていることには胸が痛む。とはいえ柊は(僕、そこまでみんなに嫌われていなかったのかも……)とこっそり安心していた。
部署のグループチャットで資料が送られてくる。油断すれば熱に浮かされそうな頭を叱咤し、内容を漏れなくチェックする。
この資料を別部署の部長に提出し、バグの起きたデータリカバリを今日中に完了させ現場へ周知するのが今日残りのタスクだ。終われば帰れる、終われば帰れる……そう自分に言い聞かせ、部下に励まされながらなんとか仕事に取り組んでいく。
――こんなときでも頭の片隅には夕里がいる。だがしばらく店に行けないであろうことは、確定していた。
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