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12.おしゃれなソファの使い方*
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「柊さん、ひいらぎさーん。行きましょう」
「んー?んー……」
優しく身体を支えられ、立ち上がって店を出る。頭が重い。そんなに飲んだつもりはなかったのに、けっこう酔ってるな、これ。
「ぼく、お金払った?」
「んーん、大丈夫ですよ。さぁ行きましょー」
「はーい……」
なんというか、夕里の話し方も間延びしていて酔っている気がする。あぁでも、すごく楽しかったなぁ。素朴だけど定番の中華料理は美味しかったし、煮干しで出汁を取っているという中華そばはあっさりしていて締めに最高。
マッサージのときの会話は柊のことばかりだが、今日は夕里の話もいろいろ聞くことができた。身体を動かすのが好きなこと。あっさり系のラーメンや蕎麦が好きで、味噌煮込みうどんは苦手なこと。高校卒業とともに東京へ出てきて、実家は新幹線で三時間ほどの場所にあることとか。
夕里は三つ歳下の二十七歳で、やっぱり昔本格的にスポーツをしていたらしい。体格もいいし、肩幅とか違うもんな。
詳しい経緯はなんとなく話を逸らされたけど、いまはあのヘッドマッサージ店と他にもアルバイトをして生活しているフリーターのようだ。
人の生き方はそれぞれだから夕里の選択を否定するつもりはないものの、若くて見目も性格もいい彼なら何にでもなれそうなのにもったいない、と思ったことは印象に残っている。
気づけば知らないアパートの階段を昇っていた。夕里の住んでいるところだという。なにも考えずに会話していたから、どうしてここへ来る流れになったのかは覚えていない。
「どうぞ」と言われて「おじゃまします」と反射的に応える。確かにこのまま電車に乗ると、寝過ごすか気持ち悪くなるかの二択だっただろう。
「ゆりくん、優しーなぁ」
「……柊さん。それ、本気で言ってます?」
「ん?お水、ありがと」
「あー……」
建物自体は古いがその分奥行きのある部屋は、まさに男の一人暮らしという感じがした。といっても、柊の部屋よりは整頓されていてインテリアもなんだかセンスがいい。
座面が正方形に広くて背もたれの低いお洒落なソファがひとつだけあって、どう座るのが正解かわからないままちょこんと端に座る。
すると柊の後ろから夕里が背中を抱きかかえるように座ってきて、「ん?」となった。でもこれが正解なのかと思いなにも言わなかった。
手渡されたグラスを両手で持ち、コクコクと水を飲む。最後に食べたラーメンの塩分のおかげで、身体が水を欲していた。
部屋の暖房は入れてくれたけどまだまだ春の夜は寒い。背中があったかいのは、夕里がいるからだ。なんだか実家でいつもくっついてきていた愛犬リリーを思い出す。ほのかに感じる体温と背後の安定感を欲して、自然と背中を預けてしまった。
「あー……すみません。下心満載です」
「んん?」
「マッサージのあとにお酒はだめですよ。吸収が良くなってますから……こんな風に、すぐ酔っちゃうんです」
「ひぁあっ」
「かわいい」
項に触れられて、ビクッと身体が跳ねた。この濡れた感触は、もしかして……舐められた?
逃げたくても背後からガッチリと身体を拘束されていて、動けない。酔っていなければもっと方法が思いついたかもしれないが、このときの柊はもう反抗する手段がないと途方に暮れていた。
何が起きているんだろう。夕里は『下心』と言った。下心というのは、異性に性的な感情を抱いたり、悪いと自覚していることを心のなかで企むことだと柊は認識している。
項への接触はなおも続いている。鼻筋を擦り付けられている感触に、ぞくぞくが止まらない。これは、多分……性的な感覚だ。
「んっ。ゆり、くん!なに……ひゃっ。え、なに……!?」
「いつもあんなエロい声ばっかり聞かされて、なにも感じないと思いました?」
「えっ、えろくない……ちょっ、あ。あぁ!」
「エッロ」
身体の前に回った手がパーカーの中に侵入し、胸のあたりをまさぐってくる。ひんやりした空気、自分の体温よりも熱い手。
相手が女性ならまだしも、この薄い胸に触って意味もなにもないだろう。確かに自分はどこに触れられてもくすぐったくて反応してしまうが、別に気持ちよくなんて……いや、気持ちいいかもぉっ!?
普段は意識さえしない乳首を指先でスリスリ刺激されると、体内で強い快感に変換される。背筋が反れ、びくびくっと身体が動くのを止められない。
アルコールの酔いは多少冷めてきているのかもしれなかったが、いまの柊は夕里から与えられる快楽に溺れていた。どうしようきもちいい……
いつも布の上からしか触れてこない手が、いまは素肌の上を這い回り、さらなる快感を呼び起こす。抵抗なんて考えられない。くたっと体重を預けて、与えられる刺激を享受しつづけている。
しかし彼の手が下肢にまで達したことで、柊は飛び上がった。
「ぁあん!え……まって、あ!ゆりくん、だめぇ……っ」
「柊さん……」
いつの間にベルトも、デニムのボタンも外されていたんだろう。前を寛げられると、窮屈になっていた自分のペニスがボクサーパンツを押し上げて飛び出す。蕩けた頭でもさすがにこれは恥ずかしくて、可能な限り腰を引いてみる。
ゴリッ……と尻になにかが当たった。
「え……」
「ごめんなさい。気持ち悪いですよね。でも、可愛くて……柊さん。目を閉じて、好きな子のことでも思い浮かべていてください」
「んー?んー……」
優しく身体を支えられ、立ち上がって店を出る。頭が重い。そんなに飲んだつもりはなかったのに、けっこう酔ってるな、これ。
「ぼく、お金払った?」
「んーん、大丈夫ですよ。さぁ行きましょー」
「はーい……」
なんというか、夕里の話し方も間延びしていて酔っている気がする。あぁでも、すごく楽しかったなぁ。素朴だけど定番の中華料理は美味しかったし、煮干しで出汁を取っているという中華そばはあっさりしていて締めに最高。
マッサージのときの会話は柊のことばかりだが、今日は夕里の話もいろいろ聞くことができた。身体を動かすのが好きなこと。あっさり系のラーメンや蕎麦が好きで、味噌煮込みうどんは苦手なこと。高校卒業とともに東京へ出てきて、実家は新幹線で三時間ほどの場所にあることとか。
夕里は三つ歳下の二十七歳で、やっぱり昔本格的にスポーツをしていたらしい。体格もいいし、肩幅とか違うもんな。
詳しい経緯はなんとなく話を逸らされたけど、いまはあのヘッドマッサージ店と他にもアルバイトをして生活しているフリーターのようだ。
人の生き方はそれぞれだから夕里の選択を否定するつもりはないものの、若くて見目も性格もいい彼なら何にでもなれそうなのにもったいない、と思ったことは印象に残っている。
気づけば知らないアパートの階段を昇っていた。夕里の住んでいるところだという。なにも考えずに会話していたから、どうしてここへ来る流れになったのかは覚えていない。
「どうぞ」と言われて「おじゃまします」と反射的に応える。確かにこのまま電車に乗ると、寝過ごすか気持ち悪くなるかの二択だっただろう。
「ゆりくん、優しーなぁ」
「……柊さん。それ、本気で言ってます?」
「ん?お水、ありがと」
「あー……」
建物自体は古いがその分奥行きのある部屋は、まさに男の一人暮らしという感じがした。といっても、柊の部屋よりは整頓されていてインテリアもなんだかセンスがいい。
座面が正方形に広くて背もたれの低いお洒落なソファがひとつだけあって、どう座るのが正解かわからないままちょこんと端に座る。
すると柊の後ろから夕里が背中を抱きかかえるように座ってきて、「ん?」となった。でもこれが正解なのかと思いなにも言わなかった。
手渡されたグラスを両手で持ち、コクコクと水を飲む。最後に食べたラーメンの塩分のおかげで、身体が水を欲していた。
部屋の暖房は入れてくれたけどまだまだ春の夜は寒い。背中があったかいのは、夕里がいるからだ。なんだか実家でいつもくっついてきていた愛犬リリーを思い出す。ほのかに感じる体温と背後の安定感を欲して、自然と背中を預けてしまった。
「あー……すみません。下心満載です」
「んん?」
「マッサージのあとにお酒はだめですよ。吸収が良くなってますから……こんな風に、すぐ酔っちゃうんです」
「ひぁあっ」
「かわいい」
項に触れられて、ビクッと身体が跳ねた。この濡れた感触は、もしかして……舐められた?
逃げたくても背後からガッチリと身体を拘束されていて、動けない。酔っていなければもっと方法が思いついたかもしれないが、このときの柊はもう反抗する手段がないと途方に暮れていた。
何が起きているんだろう。夕里は『下心』と言った。下心というのは、異性に性的な感情を抱いたり、悪いと自覚していることを心のなかで企むことだと柊は認識している。
項への接触はなおも続いている。鼻筋を擦り付けられている感触に、ぞくぞくが止まらない。これは、多分……性的な感覚だ。
「んっ。ゆり、くん!なに……ひゃっ。え、なに……!?」
「いつもあんなエロい声ばっかり聞かされて、なにも感じないと思いました?」
「えっ、えろくない……ちょっ、あ。あぁ!」
「エッロ」
身体の前に回った手がパーカーの中に侵入し、胸のあたりをまさぐってくる。ひんやりした空気、自分の体温よりも熱い手。
相手が女性ならまだしも、この薄い胸に触って意味もなにもないだろう。確かに自分はどこに触れられてもくすぐったくて反応してしまうが、別に気持ちよくなんて……いや、気持ちいいかもぉっ!?
普段は意識さえしない乳首を指先でスリスリ刺激されると、体内で強い快感に変換される。背筋が反れ、びくびくっと身体が動くのを止められない。
アルコールの酔いは多少冷めてきているのかもしれなかったが、いまの柊は夕里から与えられる快楽に溺れていた。どうしようきもちいい……
いつも布の上からしか触れてこない手が、いまは素肌の上を這い回り、さらなる快感を呼び起こす。抵抗なんて考えられない。くたっと体重を預けて、与えられる刺激を享受しつづけている。
しかし彼の手が下肢にまで達したことで、柊は飛び上がった。
「ぁあん!え……まって、あ!ゆりくん、だめぇ……っ」
「柊さん……」
いつの間にベルトも、デニムのボタンも外されていたんだろう。前を寛げられると、窮屈になっていた自分のペニスがボクサーパンツを押し上げて飛び出す。蕩けた頭でもさすがにこれは恥ずかしくて、可能な限り腰を引いてみる。
ゴリッ……と尻になにかが当たった。
「え……」
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