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しおりを挟む思い悩んで一睡もできなかったノーナは、その翌日の休息日、シルヴァにも言わずふらふらと家に帰った。ノーナの物にあふれた自分だけの空間で、心を落ち着かせたい。
家には仮の錠が取り付けられていて、ノーナはその鍵も預かっている。そもそも、これがあるなら戻ってきても問題ないんじゃ……
「遅かったね」
家の中に入ると、いきなり声をかけられてノーナは飛び上がった。身構える前に聞き覚えのあったその声は。
「おばあさん……!?」
あのときの魔女だった。シルヴァが持ってきた新しい椅子に我が物顔で座っている。
鍵がかかっていたのにどうやって入ったんだろう。そう思って尋ねると、彼女は昔ここに住んでいたのだという。いや、理由になってませんが……
魔女に突っ込むと十倍返しされる予感がしたのでノーナはとりあえず納得することにした。
「惚れ薬は使ったのかい? 様子を見にきてやったんだ」
「あ、はい。……三回、使わせてもらいました」
「ふん、本当に使ったのか。どうだ、効果あっただろう」
「いや、ありすぎといいますか……」
魔女にミントじゃないお茶を淹れて、ノーナはもう一つの椅子に腰掛けた。滑らかな木の感触が身体に伝わり、シルヴァの持ってきた椅子であることを実感させる。
これはまたとない機会だ。惚れ薬を使ったときの違和感について訊いてしまおう。そうしてノーナは実例を交えて質問したのだが……
「はぁ~~っ。あんた、馬鹿なのかい!?」
「え」
「どうやって薬を飲んだ?」
「え、普通の薬と同じようにゴックンと」
「溶かさずに? はぁぁぁ~~~~…………」
ノーナが頷くと、魔女は幸せが全部逃げていきそうなほどの深いため息を吐いた。その様子に、ノーナは自分がなにか重大な間違いを犯したのだと悟る。
すごく飲みにくかった、という感想はぐっと飲み込んだ。ん? ……溶かす?
魔女はノーナが持ってきた瓶とノーナの顔を見比べて、諦めたように首を振った。
「口の中で溶けるのを待ってから、少量ずつ、水で薄めながら飲むんだよ」
「えぇ! そうだったんですか? うーん、聞いたかなぁ」
「言っただろう。……はて、言ってなかったか?」
ノーナと魔女は互いに首を傾げあって記憶を探ったものの、あまり具体的なことまでは思い出せなかった。
あの日の出来事はぜんぶ夢みたいで、惚れ薬のインパクトが強すぎたのもある。本当に作ってもらえると思わなかったのだ。
兎にも角にも、ノーナは惚れ薬を正しく飲めていなかったらしい。あんなに苦しんで飲んだのに。
「その飲み方だとおそらく、効果は倍になって半減しただろうね。あーあ、それじゃ惚れ薬の意味ないじゃないか」
倍になって……半減? 魔女の説明によると、強烈に惚れるが効果時間は半分になるということだった。
なるほど、それならやけに効果が短いと感じたのにも合点がいく。それに……最初のシルヴァは、彼を知った今思い返しても人格崩壊かと思うほど強烈だったのだ。
なるほどぉ……泣けてきた。
「うう……すみません。あと……強い気持ちは残るって、それはどうなるんでしょう」
「まだ三回しか使ってないんだろう? じゃあ残ってないね。残留思念はかすかなもので、正しく四、五回使うと自然に恋心を抱きはじめる。その使い方なら、まだまだだ」
「実は相手を間違えちゃって、同じ人にはまだ二回しか使ってなくて……」
「はぁっ? この間抜けちんが!」
やっぱり怒られた。さらに相手をうっかり二回も間違えただなんて、とてもじゃないけど言えない。
とはいえ、魔女の回答でノーナの落ち込んでいた心に一筋の光が差し込む。
魔女の言い分が正しいのなら、シルヴァの言動は――魔法の影響を受けていないことになるのだ。
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