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「甘いもの、好きなんですか?」
「……っ、あぁ」

 ノーナがもう一度話しかけると、シルヴァは自分の行動にいま気がづいたように固まる。ぽかんと口を開け、気まずそうに視線を逸らす。
 どう見ても……彼は甘党を恥じらっているのだ。ノーナはキュンッと心臓が締めつけられるのを感じた。こんなにも甘い痛みがあっていいのだろうか?
 
 確かに彼の外見からこのスイーツは想像がつかない。でもきっと、ペストリーもわくわくして選んだのだろう。そのギャップがとてつもなく可愛いし、意外な一面を知れたことで舞い上がってしまう。
 もしかしたらノーナしか知らない秘密なのかもしれない、なんて……都合が良すぎるかな。

「いいですね。僕はあまりこういうものを食べないので、見ているだけで楽しいです」
「ノーナも食べてくれ」

 思わずにこにこしていると、彼は話題をはぐらかすように果物の乗ったペストリーをひとつ摘み、ノーナの口元に持ってきた。つん、とペストリーで唇をつつかれて、反射的に口をあける。
 半分ほどのところで歯を立てると、生地のしっとりとした食感と果物の瑞々しさが口の中で弾けた。唇についたカスタードクリームを舌で舐め取る。

「ん……おいしい。もう半分もください」

 果物のおかげで甘すぎないのがちょうどいい。久しぶりの甘味を堪能していると、ノーナを見ていたシルヴァはまた硬直していた。さっきより顔が赤いけど、酔いが回ってきたのかな?
 
 ノーナは構わずシルヴァの手を追いかけ、少し前かがみになって彼の手からペストリーをぱくついた。片手で自分の髪を押さえ、シルヴァの指にもクリームがついていたから無意識にぺろっと舐める。

「お、おい!」
「あっごめんなさい。んーん、たまには甘いものもいいですね。しかもこれ、白ワインにも合うかも」

 ノーナはザルだが、酔わないわけではない。気持ちよく鈍くなってきた思考で、シルヴァがどうして怒っているのかもわからなかった。彼のペストリーを食べちゃったから?

 目の前にまだいくつかあるペストリーの中からより美味しそうに見えるものを選んで、今度はノーナがひとつ指で摘む。そしてシルヴァの口元へ持っていって唇につんつん押し当てた。

「ねぇ、怒らないで? ほら、あーん」
「!!!」

 こういうの、恋人みたいだな~と心のどこかで思ったら、ノーナは幸せの笑みがあふれるのを止められなかった。シルヴァはこちらを凝視しているし、自分の顔にでかでかと『好き』って書いてあるのかもしれない。
 
 ノーナを見つめるバーガンディの瞳も、短く切られたシルバーの髪も、眉の上に残る古傷だってかっこよくて好きだ。外見だけじゃない。強いのに優しくて、純粋でまっすぐで、実は甘いものが好きなところもたまらなく好き。

 シルヴァがノーナの手からペストリーを食べる。それこそ指ごと食べてしまうかのように大きなひとくちで。つい、指に感じた彼の唇の感触を反芻してしまう。

「美味しい?」

 うっかり口を滑らせて本音が漏れてしまいそうだ。ノーナが唇を噛みしめると、シルヴァがノーナの顎に手を添え歯に押さえられた唇を指で解いた。
 
 触れられたところが熱い。唇が半開きになって、物欲しそうな顔がバーガンディに映り込む。
 そのまま彼の目を見つめていると、どんどん顔が近づいてきて……

 ――唇同士が重なった。

 シルヴァはノーナの小さな唇を柔らかくはんで、舐めた。たったそれだけで、ノーナは蕩ける心地になってしまう。

「んぁ……」
「美味しい。……甘いな」

 あっという間に顔を離してしまったシルヴァが、色気全開の顔で呟く。この人、こんな顔できたの!?
 
 今度はノーナが真っ赤になる番だった。顔に火がついたみたいに熱くて、恥ずかしくて、両手で顔を覆う。
 六歳も歳下なのにどんどん好きにさせられて、いったいこの人は、自分をどうしたいのだろうか。
 
 ん? というか、いまの行動の意味は……と思考を巡らせていると、シルヴァが口を開いた。

「ノーナの存在はみたいだ。あまりあちこちに、魅力を振りまかないでくれ。……ッ。悪い。飲みすぎたみたいだ」
「…………」

 魔法という言葉を聞いたノーナの絶望的な表情をどう読み取ったのか、シルヴァは慌てて席を立ち、ささっとテーブルを片付けて帰ってしまった。
 
 ――どうしよう……。

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