惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら

おもちDX

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18.全てに無関心な男

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 週明け、ノーナはおずおずと局長室を訪ねた。トゥルヌスさんは穏やかな性格だから怒るところは想像できないが、約束を破ってしまったので落胆しているかもしれない。

「局長、おはようございます。あの、先週は……」
「おはよう! いや~悪かったね。急に予定が入ってしまって、待ちぼうけさせてしまったかな……? この埋め合わせは今度必ずするから、許しておくれ」
「あっ。そ、そうだったんですか……いえ、大丈夫です」

 ノーナは驚きつつもほっと胸を撫でおろした。トゥルヌスさんが来ていなかったのなら、あのリボンはどちらも他人のものだったということだ。リボンがひとつだったら危なかった。
 ノーナは惚れ薬を飲んで一人、あるいは二人も知らない人がいる部屋に突撃するところだった……いやほんと、危なかった!
 
 最悪だ……なんてあの時は思ったけど、今となってはシルヴァが来てくれて良かったとしか言いようがない。記憶のない彼には申し訳ないけれど。あのあと、ちゃんと帰れただろうか?

 なんだか上機嫌のトゥルヌスさんは自分の机に置かれていた大量の書類をノーナに持っていくように指示し、部屋を出ていってしまった。今日も残業になりそうだ。

 自分の処理した書類を届けに廊下を歩いていたとき、珍しくピークスに捕まった。ちょうど時間は昼に差しかかるころで、一緒に王宮内のカフェテリアへと向かう。
 王宮内で働く文官や騎士たちが利用できるカフェテリアはいくつかあり、その中でも一番広い場所では安くて美味しいピザが提供されていて大人気だ。
 
 エレニア王国では畜産が盛んで、チーズの産地が王都の周辺にもある。たっぷりのチーズに新鮮なトマトを乗せたピザや、具を生地で包んでから油で揚げたピザが定番である。
 ノーナとピークスはテラスで食事するため、包み揚げピザとワインを持って外に出た。昼どきはいつも混雑しているから、室内だと人の声が反響して会話も難しいくらいなのだ。
 
 夏特有のもったりした空気は暑いけれど、外では騒めきが和らぐ。日陰に運良く空いているテーブルを見つけて、二人は席についた。
 まずはワインで乾杯する。エレニア王国民にとってワインは身近な飲み物で、酔わなければランチに一杯も普通だ。ノーナは見た目にそぐわず、酒に強かった。

 熱々の生地にそうっと歯を立てていると、向かいに座ったピークスが鼻をむずむずさせ、「っくしゅ!」と大きなくしゃみをする。頬のそばかすがぎゅっと集まった。
 その光景にミントでむせたシルヴァを思い出してしまい、ノーナは笑いが止まらなくなってしまった。

「っふふ、あははは!」
「えーちょっと、笑いすぎなんだけど。てゆーか! さいきん顔色いいじゃん? まさかとは思うけど、あの変な薬また使った……?」
「え!? ゔ。えーと……うん……」

 オレンジ色の瞳にじとっと見つめられて、わざとらしく目を逸らす。ピークスがノーナのことを本気で心配してくれているのがわかる。
 ノーナもこの友人にだけは嘘をつきたくなくて、周囲を見渡し誰も聞いていないことを確認してから打ち明けた。またトラブルでシルヴァに魔法がかかり、トゥルヌスさんには一度も惚れ薬を使えていないことを。

「ねぇ、馬鹿なの? ノーナはさ、頭もいいし計算なら誰にも負けないくらい正確なのに……どうして私生活がそんなにだめだめなの?」
「う、うーん?」
「可愛い顔してもだめ。うっかり怪我させられたとか、殺されたりしたら笑えないんだからね!」
「ピークス、それはないよ。あの人、すごく純粋で良い人だもん」

 ピークスは眉根を寄せ、訝しげな表情をした。やっぱり彼にとってシルヴァの印象は良くないらしい。
 残酷非道だとか、味方にも剣を向けるとか……本当に悪いことをしているのならシルヴァは評価されたりしないだろう。本当の彼を知ってしまったノーナには、シルヴァがそんな一面を持っていると信じられなかった。
 
 その噂、誰が流してるのかなと疑問に思いつつノーナはピザを食べきって、唇についたトマトソースをぺろりと舐めた。やんわりと反論する。

「噂だけで、会って話したことはないんでしょ? 確かにウィミナリス様は見た目に迫力あるけど、無条件に怒ったりしないし紳士だよ。噂と見た目の印象だけで、決めつけてほしくないなぁ」

 まぁ、ベッドで目を覚ましたときは怖かったけど。でもあの時だって腕にちょっとアザが残ったくらいで、傷は付けられなかった。
 シルヴァは魔法がかかっているとき、年齢どおりの純朴な青年という印象が強い。恋をすると、人はふだん着ている心の鎧を脱いでしまうのだろうか? 彼の鎧はずいぶんと重そうだ。じゃあ自分は……と考えかけたところでピークスが口を開いた。

「ごめん、そうだよね。憶測で話すのはよくないや」
「ううん、心配かけるようなことしてるのは僕だから。それにしても、なんでそんな噂が……?」

 見た目のせいで怖そう、と思われるのは分かるけど。戦場での態度と普段の態度を、混ぜて認識しないで欲しい。仕事とプライベートじゃ、多くの人が違う顔を持つと思うのだ。
 確かにそうだね、と首をひねったピークスはその数日後、あっという間に情報を集めてノーナに教えてくれた。
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