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しおりを挟むいつの間にかぼうっとしていたリュヌはぽすんと背中からどこかに着地した。その拍子にフードが外れ、視界が明瞭になる。
ここはベッドの上のようなので、どこかの寝室にいるらしい。宿なのか家なのか、広く調度も豪勢に見える。先ほどの酒場と比べるとすごく清潔感があって、だからここにしたのかもしれない。
「ナージ……顔ちゃんと見せて」
「覚悟しろよ」
ナージの顔はもう赤くなかった。発情していると言ったわりに、緊張を孕んだ表情だ。
なにを覚悟しろというのか、その理由は彼がマントを脱いだことですぐに分かった。
「わっ。変な耳」
「俺の正体が分かったか?」
「見たことない種族だなぁ……ちょっと触らせて」
ナージの耳は頭の上でなく横に生えていた。しかも毛がなくて、小さい。変だけど、この国にはいろんな獣人がいるから、自分が知らないだけかもしれない。
リュヌが寝転がったまま呼び寄せると、ナージは腰の剣帯を外し覆い被さるように近づいてきた。ベッドサイドのランプが顔を照らす。
「わ。やっぱりかっこいいー……」
「……は?」
「すごく好み。こんな人に抱いてもらえるなんて……すごい記念だ」
「ははっ!それは嬉しいな。俺もリュヌのこと……好みだ」
淡い褐色の肌は日焼けではなくナージ自身の肌の色とみた。それが男らしい顔立ちによく似合っている。
リュヌがぽーっと見惚れていると、顔が近づいてきてふにっと唇同士が当たった。お互いに目を合わせ息で笑う。ナージも嬉しそうだし、なんだか楽しくなってきた。
呼び捨てで名を呼ばれるのは家族以外で初めてだが、まぁいい。好みの見た目同士なら、最高じゃないか。
グレーの瞳は近くで見ても綺麗だった。興奮に色濃くなっているのを感じる。両手を伸ばして耳に触れて、そのまま黒い髪に指を差し込む。リュヌよりも長く肩につく長さの髪は、上半分が括られたハーフアップだ。括っている紐を見えないまま取ろうとすると、意外に繊細な手触りの髪飾りがカシャ、と落ちた。
「あ、なんかついてた?ごめんなさい」
「いい。それより……――抱くぞ」
唇を合わせる瞬間、はっきりと告げられて身体が燃えるように熱くなった。初めてのキスもナージに与えてしまったことに気が付いて、まだ見ぬ婚約者にざまあみろといい気分になる。
二度目のキスは想像していたよりも……身体を高める効果を伴っていた。従順に口内を明け渡すと、分厚く長い舌がリュヌの口の中を余すところなく舐める。
「んっ。……んんぅ……」
息が苦しい。たまにピクッと反応してしまうくらい気持ちいい場所があって、鼻から甘い声が漏れてしまう。
特に顎の裏はリュヌを溶かした。ナージの舌が撫でるだけで、知らない快感に腰が震える。
舌を絡めて吸われると根本がジンと痺れた。身体が発情し始めたのを感じる。ナージの興奮に当てられているのだ。
「ん、あっ……にゃあっ!?」
気づけば服がはだけられ、身体の前面が撫ぜられていた。リュヌよりも大きくゴツゴツした手は熱くて、思いのほか気持ちいい。剣を身につけていたので闘う男なのだろう。その無骨そうな指が、器用に小さな乳首を摘む。キスの合間に変な声を出してしまった。
そこは弱いのだ。自分で触れても気持ちいいのに、初めて他人から与えられる刺激はリュヌをさらに蕩かせる。
もうスイッチは入っている。完全に発情してしまえば、本来の目的を遂行しようがしまいが分からなくなってしまうと思い、リュヌはくるんと身体を反転させナージの下から抜け出した。
「っは……綺麗だな……」
身体を起こしたナージはリュヌを改めて見て思わず言葉を漏らした。ランプより、天窓から差し込む月明かりの方がリュヌには似合う。
マントが取れたことで月色の耳も尻尾も見えている。その短い髪も同様に輝いてリュヌの美貌を彩っていた。大きな目は吊り目がちで、その勝気な顔立ちでさえもリュヌの美しさを強調するものでしかない。
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