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しおりを挟む「……ってことで、神子の仕事はこれから二日に一回、時間も短縮させてもらう」
「セイ殿、時間を短くする代わりに毎日お勤めをお願いできませんでしょうか……?」
神官長だという白い髪のおじさんが、へつらって俺に尋ねる。最初俺を蔑ろにしようとしたこいつに対し、想がブチギレたせいだ。
「外の声、聞こえてますよね? 俺たち、門に出て訴えてこようかなぁ~。神官長は毎日神子を痛めつけることをお望みだと」
「ひぃぃっ。そ、それだけは……!」
王宮の門前には大勢の民衆が詰めかけていた。神子が王宮に帰ったと聞いた彼らが「神子様に働かせるなー!」とデモを起こしたのだ。
決して頼んだわけではない。あくまで日本人の感覚を持つ俺たちにとっては、まさかの出来事である。
その活動はなかなか激しいらしく、ドンドン! ガンガン! うわー! など様々な音や悲鳴が聞こえる。今にもここまで雪崩れ込んできそうな勢い。
神殿は信徒という名の国民からお布施をもらって成り立っているしな。これ以上信用を失うことは控えたほうがいいと思うよ。
とにかく今は一刻も早くお勤めをしてほしいらしく、神官長は俺の条件を呑み国王も頷かせ、祈りの間へと想を誘導する。
「成悟先輩……部屋で待っててください」
「いや、俺もついてく」
「先輩っ……!」
歩いてたのに想がガバッと抱きついてくるから、でかい背中をポンポン叩いてやった。
交渉が成功したとはいえ、やることは変わらない。代われるものなら代わってやりたいのに、なんでこいつばっかり……。そう思うと、せめて付き添ってやるべきなんじゃないかと思ったのだ。
周囲の神官や国王は「先輩……?」「兄弟にしては近くないか?」とか言ってるし。その設定ももう撤回してもよさそうだな。
祈りの間は相変わらず暗い地下にある。ここが国に恵みを浸透させるのに最適な場所なんだそうな。
魔法陣は黒いインクで描かれていて、ランプをつけていても見逃してしまいそうなほど床に馴染んでいる。
神官長が従者から細い剣を受け取った。それは想像以上に鋭利で、柄の部分にもびっしりと何か描かれている。これが神子の治癒を妨げる魔法らしい。
こんな……見るからに痛そうなのを想に刺すのかよ。現実を前に、俺はかなり動揺した。こんなの事案だろ。
「ちょっ、それ寄越せ!」
「先輩、危ないですっ」
平静さを失ったまま俺が無理矢理奪った短剣は、柄を持っているだけで自ら求めるかのように動き、俺の腕をさっくりと切り裂く。え、これも魔法? こわぁ!!
「痛っ」
「え……」
「は……」
「せ、せんぱい……」
上から順に俺、神官長、国王、想の声である。
カラン……と剣が手から滑り落ち、魔法陣の上に落ちる。それを目で追った俺は魔法陣の変化に気づいた。
ポウッと陣が床から浮き上がるように淡く光っている。まるで想が血を吸収させその上で寝ていたときのように。
「……え。俺の血?」
「まさか……神子様と交合を!? 兄弟ではなかったのですか!」
「兄弟じゃねぇ、恋人だよ!」
「はわ……こ、こいびと……! というか先輩! 早く腕の治療を!」
交合って、言い方な! なんだよ神子の力って、濃厚接触で感染る系?
慌てて俺の腕を掴んだ想が「あれ?」と俺の腕を凝視している。ひっくり返して三六〇度見られる。つーか、痛みが引いてきたような?
俺もさすがに何事かと見てみると……魔法の剣に切りつけられた腕は血が止まり、切り口はぴたっと閉じていた。流れ出た血はそのままだが、もう傷口の血は止まっている。
あれ、傷浅かったのか?
「交合だけでここまでの効果は出るまい。なんと……セイ殿はお小さいが神子様だったんだ!」
「二人も召喚に成功してたってことでしょうか!?」
「体格差……」
神官長と従者が興奮している。おい小さいって言ったやつ出てこい。あと国王、なに想像してんの?
神官長に殴りかかろうとする俺を想が背後から抑えながら、絶望的な声音で呟いた。
「そんな……先輩まで神子だったなんて」
俺のことが大好きな想は、この先俺も働かせられることを想像しているんだろう。まぁ俺だって痛いのは嫌だけど。それより……
「ふたりいれば仕事も半減じゃん! よかったな! まじで……よかった」
想の顔を見上げて、満面の笑みを向けた。この世界に来てから、一番爽快な気分だ。
なんだ……俺が来た意味、あったんじゃん。
――結果として、俺自身にも神子の力はあるけど想ほどではないみたいだった。お小さいから……と言ったやつシメるぞ?
しかし想の体液をもらうと神子パワーは倍増するらしい。
つまり、俺たちはふたりでこの国を支えていくことになった。
異世界転移って全然夢みたいな話じゃないし、めっちゃ現実だし、その国の事情に振り回されるけど。
俺たちはふたりで、まぁまぁ幸せに長生きしようと思う。
――――――――――
お読みいただきありがとうございます!
短編なので説明はかなり端折っています。想像で補完いただく形になってすみません。
クインスの暴挙に、騎士は二つの部屋の扉をそおっと開けました(笑)おかげでヒーロー登場と相成ったわけです。
ツイノベが元となったのですがかなり書きやすいお話でした。ちょっと気持ち悪い攻め、楽しい……
それではまた、次の作品でお会いできると嬉しいです♡
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んふふ……
可愛いでござる💕💕🥰
投稿ありがとうございます🙇💕
嬉しいですー!
口の悪い受けをヒンヒン言わせたい党所属です😂
こちらこそ感想ありがとうございます✨
こんにちは。丁さん先日の誤字報告の件も併せてすみません…!
教えていただき本当に助かりました。
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承認不要とのことでしたが、御礼を伝える場がないため承認させていただきました🙇🏻♀️💦
ありがとうございます!