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しおりを挟む「こちらがその神子様です」
「あっ、どうも。おれが神子です」
「うぅっ。ひぐ、ぐす……が、がんばったんだねぇっ……!」
目の前で大泣きするのは宿屋の主人のおっちゃんだ。俺はこの作戦変更が上手くいきそうだと、なんとなく予感した。
泊まった翌日の早朝にはここを出て王都を離れるつもりだったのに、まず想の暴走でその目標は潰えた。あんなくたくたになるなんて思わなかったし、あんな長時間に及ぶとも思っていなかったのだ。
想とセックスしたあと、俺は死んだように眠った。そして今朝、身体は重だるいながら気持ちだけはすっきりと目覚めたとき、あるアイデアが頭に浮かんだ。
神子の残酷な現状を上の奴らしか知らないなら、みんなに言っちゃえば良くね……?
国民はその恩恵の大きさから、神子の有り難みをよく分かっている。しかしどうやって神子が恵みをもたらしているのかは知らされていない。
確かに成人しているしデカくて可愛げもないけど、若いし黙っていれば精悍な男だ。イケメンの犠牲を知って黙っていられる人は少なくないと思う。
まぁ、死ぬまで絞り尽くしてやればいいという心ない意見も出てくるだろう。とはいえそこに前の神子のエピソードを加えてやれば大多数はこう思うはずだ。
神子が可哀想。もっと大事にしろ! と。そもそも国王とか神子に甘えすぎ。召喚する前に、水問題を自分たちでどうにかしろよって俺は言いたい。
寝転がりながら想に熱弁すると、おれのために先輩がそこまで考えてくれるなんて……とこいつが泣いていたが。
神子って、俺みたいなのと違って自己犠牲を黙って受け入れる奴が選ばれているのかもしれない。
元の世界でも、水不足の国は海水の脱塩や排水の再利用などさまざまな工夫をしていた。想は頭もいいし、アイデアを上手く伝えて研究を進めてもらえば、いつか明るい未来が見えてくるはずだ。魔法だってあるし。
神子を道具としか捉えていない奴らに俺たちの意見を聞いてもらうため、しばらく逃げ回ってネガティヴキャンペーンをしようってわけ。
噂を広げるならパレードをした王都が一番いい。王宮にも近いし、いざとなったらデモとか起こしてくれるんじゃね?
と、そんな上手くは行かないだろうけど。多少は効果があるかな~とやってみた結果は――想像以上だった。
宿屋の主人はすげぇ顔が広かったし、その奥さんはもっとだった。街で偶然再会したライムにも協力してもらって、俺は街頭や集会所、ときには教会で語りに語った。
なけなしの演技力を駆使して話した内容に、あまりにも酷いとみんなが涙を流す。なんだか俺までもらい泣きしてしまったりして、みんなで肩を抱き合ったのも効果的だったようだ。
「そろそろ帰るか……。想、覚悟はできてるな?」
「はい! 先輩のためにも、ちゃんと闘います!」
その意気だ。俺の恋人ともあろう男が、勝手に国に搾取されるなんて絶対に許さん。
街の人々の協力もあって、俺たちは王宮の追手から逃げ続けることができた。しかし神子の恩恵を失ったこの国はみるみるうちに豊かさを失っていく。
仲良くなった街の人々が「神子様には頼りません!」ときっぱり言ってくれるのもなんか居た堪れなかった。想像以上に噂は広がったようだし、王宮へ戻ることにする。
交渉の場にはもちろん俺も出向くつもり。生き別れの弟(……)として堂々と想を守ろう。
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