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想に着替えさせて、神子の給料だという金貨を抱え、探っておいた庭からの脱出ルートで王宮を出た。しばらくすれば大騒ぎになるだろうが知らん。
今から王都を出るのは得策ではないと判断し、俺は元々働いていたお人好しの宿屋へ向かった。
辞めるときも急で絶対に迷惑を掛けたのに、主人のおっちゃんは「元気だったか!」と温かく迎えてくれる。なんか今さらだけど、この人に拾われてよかったな……
そして金貨を差し出し一番いい部屋を借りたいと伝えると、おっちゃんは父親のような優しい目で肩を叩いてきた。
「大事な人ができたんだな……」
「そっ、そんなんじゃねぇし!」
俺は思春期の息子か。これでも俳優をやっていたのに、カッと頬に血が上る。
頭を隠した想を連れてきて階段を登ろうとすれば、「セイちゃんをよろしくな……!」「はい、お義父さん……!」と二人は固い握手を交わしていた。コントなの? 恥ずかしいからやめてくれ。
最上階に一室だけある部屋に入って、やっとひと息つく。元々あの部屋の監視は緩いから今夜は大丈夫だろう。でも明日には不在がバレて追手がかかるはずだ。
ほんとはこの馴染んだ宿にいたいけど……想はパレードをしただけあって顔は知られているだろうし、ここを離れないといけない。
いや、街の人があの時しか想の顔を見ていないなら意外と大丈夫かも。俺だってドラマで主演になるまでは、いかにもな格好さえしなければ普通に電車に乗れたのだ。黒髪は全くいないわけではないし、悔しいが、身長があるので俺より遥かに馴染みやすい外見をしているのだ。
「でも、逃亡生活って精神的に病みそうだな~」
「はわ……おれ、先輩につらい思いだけはさせたくありません! やっぱり明日になったら戻りましょう!」
「想さぁ。賢いんだからもうちょっと考えろよ。お前が毎日つらい思いをしてるって知ったうえで、俺がのうのうと暮らせると思ってんの?」
「え、それって……」
想が望んだとはいえ、俺が王宮でグータラ過ごすためにこいつが差し出しているものは大きすぎる。何も知らせず、俺を守っているとでも思っていたのか? 頼んでねぇよ。
あと、無職で食っちゃ寝している生活は思ったよりきつい。多分、大学を経験した想よりも強く感じている。俺は高校を出てからずっと社会に出て働いていたので。
ま、焦ってるときに考えたって仕方ねーな。ちゃんと食べてちゃんと眠れば、いいアイデアが浮かんでくるかもしれない。
なぜか顔をポッと赤らめている想に風呂を使うよう伝えて、俺は食堂へ食事を取りに行った。
「さて、寝るか」
「せせ、成悟先輩っ。どうしてベッドがひとつなんですか!?」
「え? あー……そうだな。いつも一緒に寝てたからなんも考えてなかったわ」
食事を終えて俺も風呂に入り、少し早いけど寝ることにする。色々考えなきゃいけないことはあるけど、疲れて頭がぼーっとしていた。怒涛の一日だったな……
想がめちゃくちゃ慌てているとおり、このスイートルームにはクイーンサイズのベッドがひとつしかない。ベッドが二つある部屋もあったが、この部屋よりは狭いのだ。
でも、何をそんなに気にすることがあるんだ?
「どうしよう。縛る紐、持って来るの忘れた……!」
は? ここへ来てまで拘束されたいの? え……緊縛が性癖とか?
こいつのヤバさにもだいぶ慣れて、むしろ健気なやつだと認識を改めていたんだが。
「今日くらい、いいだろ。お前だってたまには自分の身体を労れよ」
「えっ、えっ、でも……」
「縛ってたらろくに動けないし、疲れも取れないだろ? 俺がいいって言ってんの。ハイは?」
「はい!!」
正直に言おう。俺は想が俺にだけイエスマンになるのがちょっと楽しいと感じていたし、こいつがどうして縛ってほしいと言い出したかなんて、すっかり忘れていたのである。
今から王都を出るのは得策ではないと判断し、俺は元々働いていたお人好しの宿屋へ向かった。
辞めるときも急で絶対に迷惑を掛けたのに、主人のおっちゃんは「元気だったか!」と温かく迎えてくれる。なんか今さらだけど、この人に拾われてよかったな……
そして金貨を差し出し一番いい部屋を借りたいと伝えると、おっちゃんは父親のような優しい目で肩を叩いてきた。
「大事な人ができたんだな……」
「そっ、そんなんじゃねぇし!」
俺は思春期の息子か。これでも俳優をやっていたのに、カッと頬に血が上る。
頭を隠した想を連れてきて階段を登ろうとすれば、「セイちゃんをよろしくな……!」「はい、お義父さん……!」と二人は固い握手を交わしていた。コントなの? 恥ずかしいからやめてくれ。
最上階に一室だけある部屋に入って、やっとひと息つく。元々あの部屋の監視は緩いから今夜は大丈夫だろう。でも明日には不在がバレて追手がかかるはずだ。
ほんとはこの馴染んだ宿にいたいけど……想はパレードをしただけあって顔は知られているだろうし、ここを離れないといけない。
いや、街の人があの時しか想の顔を見ていないなら意外と大丈夫かも。俺だってドラマで主演になるまでは、いかにもな格好さえしなければ普通に電車に乗れたのだ。黒髪は全くいないわけではないし、悔しいが、身長があるので俺より遥かに馴染みやすい外見をしているのだ。
「でも、逃亡生活って精神的に病みそうだな~」
「はわ……おれ、先輩につらい思いだけはさせたくありません! やっぱり明日になったら戻りましょう!」
「想さぁ。賢いんだからもうちょっと考えろよ。お前が毎日つらい思いをしてるって知ったうえで、俺がのうのうと暮らせると思ってんの?」
「え、それって……」
想が望んだとはいえ、俺が王宮でグータラ過ごすためにこいつが差し出しているものは大きすぎる。何も知らせず、俺を守っているとでも思っていたのか? 頼んでねぇよ。
あと、無職で食っちゃ寝している生活は思ったよりきつい。多分、大学を経験した想よりも強く感じている。俺は高校を出てからずっと社会に出て働いていたので。
ま、焦ってるときに考えたって仕方ねーな。ちゃんと食べてちゃんと眠れば、いいアイデアが浮かんでくるかもしれない。
なぜか顔をポッと赤らめている想に風呂を使うよう伝えて、俺は食堂へ食事を取りに行った。
「さて、寝るか」
「せせ、成悟先輩っ。どうしてベッドがひとつなんですか!?」
「え? あー……そうだな。いつも一緒に寝てたからなんも考えてなかったわ」
食事を終えて俺も風呂に入り、少し早いけど寝ることにする。色々考えなきゃいけないことはあるけど、疲れて頭がぼーっとしていた。怒涛の一日だったな……
想がめちゃくちゃ慌てているとおり、このスイートルームにはクイーンサイズのベッドがひとつしかない。ベッドが二つある部屋もあったが、この部屋よりは狭いのだ。
でも、何をそんなに気にすることがあるんだ?
「どうしよう。縛る紐、持って来るの忘れた……!」
は? ここへ来てまで拘束されたいの? え……緊縛が性癖とか?
こいつのヤバさにもだいぶ慣れて、むしろ健気なやつだと認識を改めていたんだが。
「今日くらい、いいだろ。お前だってたまには自分の身体を労れよ」
「えっ、えっ、でも……」
「縛ってたらろくに動けないし、疲れも取れないだろ? 俺がいいって言ってんの。ハイは?」
「はい!!」
正直に言おう。俺は想が俺にだけイエスマンになるのがちょっと楽しいと感じていたし、こいつがどうして縛ってほしいと言い出したかなんて、すっかり忘れていたのである。
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