君のために異世界転移したってこと

おもちDX

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 つい神子こと高篠の手を取ってしまった俺は、王宮へ着いたとたん高篠の部屋に軟禁された。

「は? やっぱサイコパスじゃんあいつ」

 周りにどう説明したのか、そのことに異を唱える者はいない。衣食住は与えられるが、閉ざされた部屋からは出られない。神子ってそんなに権限あるのか。こんちくしょう。
 ほぼストーカーの部屋に閉じ込められ、俺は身の危険を感じた。高篠からは憧憬以上のものを常に感じてきたのだ。

「やばい。あいつにヤられる……!」

 なんなら異世界まで俺のことを追いかけてきたに違いない。それほど執着心の強いやつなのだ、高篠は。

 ――と身構えていたものの、身の危険を感じていたのは初日だけだった。もちろんベッドは一つしかないのだが、
 
「ささっ、先輩。どうぞこちらでお休みください! 僕は同じ空気を吸っていられるだけで幸せなので……万が一にも襲ってしまわないよう、部屋の隅(床)で寝ますんで!」

 スゥハァハァ、荒い呼吸で言われてドン引きながらも頷いた。
 神子の寝室にあるのは二メートルの男が五人くらい並べそうなキングサイズのベッド。俺が真ん中にちょこん……と横になってみると、哀しいかな。虚しくなってくる。

 別にあいつが床で寝ようが俺にはどうでもいい。だって本人が言い出したんだから。でも……俺はつい仏心を出してしまった。

「おい、お前もここで寝ればいいだろ。近づかないなら許してやる」
「はぇ!? やはり先輩は中身も天使……!」

 天使て。我ながらクソみたいな性格の自覚があるのに、こいつの目には極厚のフィルターがかかっている。
 
 でも異世界に来てから唯一自信のあった容姿さえ褒められることのなくなった俺は、ぺしゃんこになっていたプライドがよろよろ……と立ち上がるのを感じていた。高篠と話すのは気分がいい。キモいけど。

「縛ってください。きつく……!」

 無意識に襲ってしまいそうだからと両手を差し出され、俺はキモ……と本人の前で呟きながら縛ってやった。どこから持ってきたのか、シルクの艶々なリボンだ。
 自分では解けない結び方を教えてもらってきっちりと縛ると、リボンの上品さとのギャップでおかしなプレイをしている気になってくる。……結び方とかどこで習ったの? ボーイスカウト?

 つかこいつ、人を襲ったことないだろ。興奮してるくせに俺に近寄るのも畏れ多いという感じだし、そんな野獣みたいな一面あったら驚きだわ。
 
 そんなこんなで毎晩こいつを縛って、同じベッドで眠る。俺は大の字で眠るが、高篠は遠慮がちに端で背を向けている。
 朝も頬を赤らめた奴の拘束を解いてやるのがルーティーンになった。ついでに朝勃ちを無視してやる優しさくらい俺にもある。あれは生理現象だしな。

 俺はマネージャーや友人にさえ寝起きの姿を見せるのが嫌だったのに、高篠の前だと寝癖がついていようが平気だ。なんつーか、同じ部屋でもめちゃくちゃラク。どんな姿を見せてもこいつはハフハフ喜んで、目を輝かせる自信があるから。
 
 実際初日の翌朝は寝起きの俺を見て鼻血を流していたしな。俺の髪はぐしゃぐしゃ、顔はちょっと浮腫んで、涎の跡とかついてたと思うんだけど……変なやつだ。

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