2 / 13
2.
しおりを挟む
つい神子こと高篠の手を取ってしまった俺は、王宮へ着いたとたん高篠の部屋に軟禁された。
「は? やっぱサイコパスじゃんあいつ」
周りにどう説明したのか、そのことに異を唱える者はいない。衣食住は与えられるが、閉ざされた部屋からは出られない。神子ってそんなに権限あるのか。こんちくしょう。
ほぼストーカーの部屋に閉じ込められ、俺は身の危険を感じた。高篠からは憧憬以上のものを常に感じてきたのだ。
「やばい。あいつにヤられる……!」
なんなら異世界まで俺のことを追いかけてきたに違いない。それほど執着心の強いやつなのだ、高篠は。
――と身構えていたものの、身の危険を感じていたのは初日だけだった。もちろんベッドは一つしかないのだが、
「ささっ、先輩。どうぞこちらでお休みください! 僕は同じ空気を吸っていられるだけで幸せなので……万が一にも襲ってしまわないよう、部屋の隅(床)で寝ますんで!」
スゥハァハァ、荒い呼吸で言われてドン引きながらも頷いた。
神子の寝室にあるのは二メートルの男が五人くらい並べそうなキングサイズのベッド。俺が真ん中にちょこん……と横になってみると、哀しいかな。虚しくなってくる。
別にあいつが床で寝ようが俺にはどうでもいい。だって本人が言い出したんだから。でも……俺はつい仏心を出してしまった。
「おい、お前もここで寝ればいいだろ。近づかないなら許してやる」
「はぇ!? やはり先輩は中身も天使……!」
天使て。我ながらクソみたいな性格の自覚があるのに、こいつの目には極厚のフィルターがかかっている。
でも異世界に来てから唯一自信のあった容姿さえ褒められることのなくなった俺は、ぺしゃんこになっていたプライドがよろよろ……と立ち上がるのを感じていた。高篠と話すのは気分がいい。キモいけど。
「縛ってください。きつく……!」
無意識に襲ってしまいそうだからと両手を差し出され、俺はキモ……と本人の前で呟きながら縛ってやった。どこから持ってきたのか、シルクの艶々なリボンだ。
自分では解けない結び方を教えてもらってきっちりと縛ると、リボンの上品さとのギャップでおかしなプレイをしている気になってくる。……結び方とかどこで習ったの? ボーイスカウト?
つかこいつ、人を襲ったことないだろ。興奮してるくせに俺に近寄るのも畏れ多いという感じだし、そんな野獣みたいな一面あったら驚きだわ。
そんなこんなで毎晩こいつを縛って、同じベッドで眠る。俺は大の字で眠るが、高篠は遠慮がちに端で背を向けている。
朝も頬を赤らめた奴の拘束を解いてやるのがルーティーンになった。ついでに朝勃ちを無視してやる優しさくらい俺にもある。あれは生理現象だしな。
俺はマネージャーや友人にさえ寝起きの姿を見せるのが嫌だったのに、高篠の前だと寝癖がついていようが平気だ。なんつーか、同じ部屋でもめちゃくちゃラク。どんな姿を見せてもこいつはハフハフ喜んで、目を輝かせる自信があるから。
実際初日の翌朝は寝起きの俺を見て鼻血を流していたしな。俺の髪はぐしゃぐしゃ、顔はちょっと浮腫んで、涎の跡とかついてたと思うんだけど……変なやつだ。
「は? やっぱサイコパスじゃんあいつ」
周りにどう説明したのか、そのことに異を唱える者はいない。衣食住は与えられるが、閉ざされた部屋からは出られない。神子ってそんなに権限あるのか。こんちくしょう。
ほぼストーカーの部屋に閉じ込められ、俺は身の危険を感じた。高篠からは憧憬以上のものを常に感じてきたのだ。
「やばい。あいつにヤられる……!」
なんなら異世界まで俺のことを追いかけてきたに違いない。それほど執着心の強いやつなのだ、高篠は。
――と身構えていたものの、身の危険を感じていたのは初日だけだった。もちろんベッドは一つしかないのだが、
「ささっ、先輩。どうぞこちらでお休みください! 僕は同じ空気を吸っていられるだけで幸せなので……万が一にも襲ってしまわないよう、部屋の隅(床)で寝ますんで!」
スゥハァハァ、荒い呼吸で言われてドン引きながらも頷いた。
神子の寝室にあるのは二メートルの男が五人くらい並べそうなキングサイズのベッド。俺が真ん中にちょこん……と横になってみると、哀しいかな。虚しくなってくる。
別にあいつが床で寝ようが俺にはどうでもいい。だって本人が言い出したんだから。でも……俺はつい仏心を出してしまった。
「おい、お前もここで寝ればいいだろ。近づかないなら許してやる」
「はぇ!? やはり先輩は中身も天使……!」
天使て。我ながらクソみたいな性格の自覚があるのに、こいつの目には極厚のフィルターがかかっている。
でも異世界に来てから唯一自信のあった容姿さえ褒められることのなくなった俺は、ぺしゃんこになっていたプライドがよろよろ……と立ち上がるのを感じていた。高篠と話すのは気分がいい。キモいけど。
「縛ってください。きつく……!」
無意識に襲ってしまいそうだからと両手を差し出され、俺はキモ……と本人の前で呟きながら縛ってやった。どこから持ってきたのか、シルクの艶々なリボンだ。
自分では解けない結び方を教えてもらってきっちりと縛ると、リボンの上品さとのギャップでおかしなプレイをしている気になってくる。……結び方とかどこで習ったの? ボーイスカウト?
つかこいつ、人を襲ったことないだろ。興奮してるくせに俺に近寄るのも畏れ多いという感じだし、そんな野獣みたいな一面あったら驚きだわ。
そんなこんなで毎晩こいつを縛って、同じベッドで眠る。俺は大の字で眠るが、高篠は遠慮がちに端で背を向けている。
朝も頬を赤らめた奴の拘束を解いてやるのがルーティーンになった。ついでに朝勃ちを無視してやる優しさくらい俺にもある。あれは生理現象だしな。
俺はマネージャーや友人にさえ寝起きの姿を見せるのが嫌だったのに、高篠の前だと寝癖がついていようが平気だ。なんつーか、同じ部屋でもめちゃくちゃラク。どんな姿を見せてもこいつはハフハフ喜んで、目を輝かせる自信があるから。
実際初日の翌朝は寝起きの俺を見て鼻血を流していたしな。俺の髪はぐしゃぐしゃ、顔はちょっと浮腫んで、涎の跡とかついてたと思うんだけど……変なやつだ。
69
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。
N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長)
お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。
待てが出来ない狼くんです。
※独自設定、ご都合主義です
※予告なくいちゃいちゃシーン入ります
主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。
美しい・・・!

蜂蜜とストーカー~本の虫である僕の結婚相手は元迷惑ファンだった~
清田いい鳥
BL
読書大好きユハニくん。魔術学園に入り、気の置けない友達ができ、ここまではとても順調だった。
しかし魔獣騎乗の授業で、まさかの高所恐怖症が発覚。歩くどころか乗るのも無理。何もかも無理。危うく落馬しかけたところをカーティス先輩に助けられたものの、このオレンジ頭がなんかしつこい。手紙はもう引き出しに入らない。花でお部屋が花畑に。けど、触れられても嫌じゃないのはなぜだろう。
プレゼント攻撃のことはさておき、先輩的には普通にアプローチしてたつもりが、なんか思ってたんと違う感じになって着地するまでのお話です。
『体育会系の魔法使い』のおまけ小説。付録です。サイドストーリーです。クリック者全員大サービスで(充分伝わっとるわ)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる