12 / 13
3.
しおりを挟むその後全員で食堂に移って食事をしていたとき、アウローラがユピテルのそばまでトコトコ歩いて来た。
「おなかさわりたい」
「おっ? おぉ……」
言われるがままユピテルがアウローラを抱き上げると、膝の上に乗ったアウローラがユピテルの腹に抱きついた。
うわ、かわいいなこれは……。
繊細で可愛らしい顔立ちをしているアウローラは、全身で腹の中の子と会話しているみたいだ。そっと支えるように手を添えると、その細い骨格にドキリとした。
幼児には怖がられるタイプのユピテルは、なかなか幼い子どもと触れあう機会もない。メルキュールと出会ったのも彼が8歳のときだった。
そんなことをしみじみ考えていると、腹の中でポコッとした感覚があった。アウローラが触ったのかと思ったが、彼は顔を綻ばせてユピテルを見上げた。
「うごいたね~」
「えっ!?」
「ゆ、ユピー! 本当ですか!?」
初めてちゃんと感じた胎動だった。ユピテルはらしくもなく目頭が熱くなり、メルキュールは驚きのあまり愛称で呼んでしまっていることに本人も気づいていない。
そんなふたりを、ジューノとマウォルスは微笑ましい気持ちで見ていた。日々の育児に追われ忘れがちではあるが、自分たちもこのように一喜一憂する時期があったのだ。
「ローラ、いつまで経っても人見知りなのに……珍しいね?」
「ふむ。なにか縁があるのかもしれんな。俺たちのように」
運命の番。アルファやオメガという二次性を持つものは、この世に唯一の運命がいるという。
どこにいるのかも分からない相手を探すことは困難で、出会える確率は限りなくゼロに近い。
さらに自分たちのように運良く出会えても、すんなり番になれるかというとそうでもない。
地方の貧乏貴族だったジューノは世間知らずにぽやぽやしていたおかげで、危機一髪だったのだ。救ってくれたマウォルスには感謝しかない。
最初はあんなに不信感を抱いていたのに、不思議なものだ。今は任務でしばらく会えないだけで寂しくなるし、寄り添っているひとときが何よりも幸せで、落ち着く。
ユピテルとメルキュールを見送って子どもたちを寝かせたあと、ジューノはマウォルスに語った。
「あんなに立派な人、最初同じオメガとは思えなかったけど……可愛かったな」
「あいつは努力の天才だよ。だが……可愛いか?」
「ふふっ、先輩ぶってアドバイスしちゃった。おれたちも子どもができるたびに右往左往してるけど、みんな一緒なんだなと思って」
ジューノにとって近しい存在である姉も、いつも余裕そうに見えていたけど。頼りない弟に気づかせなかっただけで、きっと旦那さんと支え合って乗り越えてきたんだろう。
初対面の人はだいたいジューノをじろじろと見てくるけれど、メルキュールはユピテル以外目に入っていないほどの心酔ぶりだった。
ふたり並ぶとすごい迫力だったが、あの人だからこそ、団長として気を張るユピテルを支えていけるんだろう。ユピテルの気が緩んだ瞬間の顔は――こう言っちゃ悪いけど……すごく可愛かった。
思い出してにっこりするジューノをマウォルスは内心複雑な思いで見つめた。
大事な友人の心の澱を取り払ってくれたジューノには、誇らしい気持ちと感謝が湧いてくる。それと同時に、やっと二人きりになったのだから自分のことだけを考えてほしいと願ってしまう。
一緒になって何年経ってもジューノの可愛らしさは衰えず、母になってからは色気まで増してきて外に出すのが怖いくらいだ。
もし、また、攫われたらと想像すると……
そのとき、ジューノがマウォルスの額にチュッと可愛らしいキスをした。
「マルス様、なに考えてるの? おれのこと、見て」
「ジューノ……」
天使が妖艶に誘いかけてくる。視界にはジューノがいっぱいに広がっているし、葡萄色の瞳には自分だけが映っている。
不安で雁字搦めになって閉じ込めようとしてしまうたび、伴侶に気付かされる。この上ない幸せはジューノが幸せに過ごしてくれているからこそのもので、自分は彼の望みを叶えるために存在するのだと。
今はジューノの望みどおり、彼だけを見つめることにしよう。隅から隅まで……
マウォルスはその宝物のような肢体に手を伸ばした。
51
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
深窓オメガのお見合い結婚
椎名サクラ
BL
深窓の令息を地でいくオメガの碧(あおい)は見合い相手のアルファの一輝(かずき)に一目惚れをした。断られると思っていたのになぜか正式に交際の申し込みをされ戸惑いながらデートを重ねていく。紆余曲折のあるお付き合いをしながら結婚した二人だが、碧があまりにも性的なことに無知すぎて、一輝を翻弄していきながら心も身体も結ばれていく話。
かつて遊び人だったアルファと純粋培養無自覚小悪魔オメガのお見合い→新婚話となっております。
※Rシーンには☆がついています
※オメガバース設定ですが色々と作者都合で改ざんされております。
※ラブラブ甘々予定です。
※ムーンライトノベルズと同時掲載となっております。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする
禅
BL
赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。
だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。
そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして……
※オメガバースがある世界
ムーンライトノベルズにも投稿中
〜オメガは体力勝負⁉〜異世界は思ってたのと違う件
おもちDX
BL
ある日突然、彼氏と異世界転移した。そこは現代日本と似ているようで、もっと進んでいる世界。そして、オメガバースの世界だった。
オメガと診断されて喜ぶメグムに、様々な困難が降りかかる。オメガは体力勝負って、そんなことある!?彼氏と徐々に深まる溝。初めての発情期。
気づけばどんなときも傍にいてくれたのは、口下手なアルファの雇い主だった。
自分に自信を持てない主人公が、新しい自分と、新しい人生を手に入れるまでのお話。
不器用な美形アルファ× 流されやすいぽっちゃりオメガ
過激な性表現のあるページには*をつけています。
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる