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番外編 1.スペシャルコラボ 男前団長 feat. 元・貧乏貴族

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いつも読んでいただいて、ありがとうございます!
この番外編は、がっつり四話あります。楽しんでいただけますように!

※ご注意
この番外編は、別作品【貧乏貴族は婿入りしたい!】のマウォルス×ジューノと、本作のメルキュール×ユピテルが登場します。
貧乏貴族のほうを読んでいないと十分に楽しめない内容となっておりますので、ご承知おきください。





――――――――――





「わぁっ。大きいですね……」「うぉっ。小っせーなー……」

 お互いの口から、正反対の感想が飛び出した。

 同じオメガと聞いていたジューノは、たとえ騎士といえど自分に似た所があるのではないかと思っていた。対するユピテルも、初めて自分以外で男のオメガに会って、自分の半分ほどしかない小柄な体格に驚きを隠せなかった。
 
 ユピテルはいま、アヴェンティーノ伯爵家の王都邸に来ている。青騎士団にいたころはマウォルスもまだ役職がなく、互いに真面目だった二人は先輩後輩を超えた友人として仲良くしていたのだ。
 
 緑騎士団で妊娠を発表したあと周囲は大混乱に陥ったが、数ヶ月も経てば落ち着いた。
 ユピテルも安定期に入り、一度顔を見せろと騎士団本部に呼ばれて王都入りした今回。もちろん番であるメルキュールも一緒だ。
 
 メルキュールはひとりで駆け出そうとするユピテルを止めるお目付け役も兼ねている。おかげで、身体に負担のないようゆっくりと移動して王都まで来たのである。

 昨日、ユピテルとメルキュールは騎士団本部でああだこうだ言われてきた。総帥が認めているお陰で、反応はおおむね好意的だ。
 もちろん「オメガが団長なんて」「団員を騙してたのか」などの意見も聞こえてくるが、ユピテルは歯牙にも掛けなかった。
 そんな覚悟、とっくの昔に決めている。
 
 逆にメルキュールの方がガルガルと反対意見に噛みついている。しかし腐っても騎士団と言うか、腕力で負けると皆黙るのだ。
 体格はいいものの、きれいな顔や貴族らしい色を持つメルキュール。つい舐めてかかった彼らがこてんぱんにやられ、「ユピテル団長はもっと強い」と教えられると縮み上がる。
 
 「あいつらはやばい。最恐の番だ」と巷では言われているが、さて子どもを産み育てるとなると、ふたりとも戸惑うことが多かった。周囲にはオメガ自体少ないのに、男のオメガだ。
 あらゆる障害を乗り越え騎士団長に上り詰めたユピテルであっても、もうひとつの命が腹の中に宿っている感覚は、例えがたい喜びと、同時に不安をもたらした。

 ユピテルの精神が揺らいでいることに気づいたのは、やはりメルキュールだった。誰よりも近くで見守る番であり、最推しの変化を見逃す彼ではない。
 そこでメルキュールが提案したのが、男のオメガと結婚したという、マウォルス副団長に会うことだった。幸い王都に行く予定もできたためユピテルは事前に手紙を送って、初めて友人の家を訪ねたのである。

 それで冒頭に戻る。
 小柄な身体に、日焼けなどしたこともなさそうな白い肌。珍しいシルバーの髪を一括りにしている。小動物のような顔立ちで、くりくりと丸い目が見開かれている。
 
 ジューノこそ子どものように見えるのに、彼の脚にはひっしとくっつく幼子がいた。ローズブロンドの髪が可愛らしく女の子のように見えるが、三人目も男の子だったと聞いている。
 男の出産は女より大変だと医者が言っていた。こんなにも華奢な子が三人も出産しているって!? ……まじか。

 ユピテルがあっけに取られている間、ジューノは感動していた。
 オメガでもこんなに格好良くなれるんだ……! え、おれも鍛えればこうなれたりする?

 互いに驚いたまま固まっていたのは、時間にして約十秒。その沈黙を破ったのはマウォルスだった。

「……いい加減、応接間で話そう。ユピテル、付いてきてくれ」
「あっ、ごめんごめん。ローラ、行こ!」
「ママ、おとこのこいる!」

 ローラと呼ばれた子、アウローラがユピテルを指さして喋った。
 男の子なんて可愛らしい呼び方、何十年ぶりにされただろうかと笑っていると、ジューノが指さす方向を見てハッとした。

「男の子かもしれません……」
「は?」
「お腹の赤ちゃんですよ。ローラはちょっと不思議な子で、先見の明があるみたいなんです」

 アウローラは、人に見えないものが見えているような話し方をすることが時々あるという。しかもそれがまだ起きていない未来を言い当てるような内容だったりするから、ジューノもマウォルスも真面目に捉えているらしい。

 ユピテルにとっては、子の性別なんて健康に生まれてきてくれればなんでもよかったが、いざ男の子かもしれないと言われると……わくわくした。夢のような未来が、急に現実を伴って迫ってくる。
 早く報告したいのに、メルキュールは昨晩から実家に帰省中で、あとから合流予定だ。
 
 応接間で高そうなソファに腰掛けると、向かい側にマウォルスとジューノ、その間に子どもが並んで座った。幅の広いソファなのだが、三人とも隙間なくくっついているのが可笑しい。
 
 堅物のマウォルスが見たこともないほど愛おしげに、伴侶と息子を見つめている。ユピテルはいけないものを見てしまったような気がして、居心地が悪くなった。
 柔らかいソファの上で尻をもぞもぞと動かす。

 メルク、早く来てくれ……!

 落ち着かない理由はもうひとつある。この中では自分だけが平民出身なのだ。
 二人とも見目が美しく、所作も洗練されている。幼い子どもさえも気品を感じさせる顔立ちだった。

 ユピテルの表情に珍しく不安が浮かんでいることに気づいたマウォルスは、国境の様子について尋ねた。仕事に関する話をすればリラックスできると考えたのだ。
 しかしその気遣いも虚しく、すぐに家令がマウォルスを呼びに来てしまった。マウォルスは伯爵家当主と青騎士団の副団長という、二足のわらじを履いている。つまりとても忙しいのだ。

「悪い。少し席を外す」
「はーい。行ってらっしゃ……ちょっと!」

 マウォルスは立ち上がりざまに子どもの頭を優しく撫で、流れるようにジューノの頭にキスを落としていった。
 いつもやっていますと言わんばかりのスムーズさだ。

「も~、お客様の前で!」
「ははっ。マウォルスのやつ、伴侶の前ではあんななんだな」


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