10 / 13
番外編 1.スペシャルコラボ 男前団長 feat. 元・貧乏貴族
しおりを挟む
いつも読んでいただいて、ありがとうございます!
この番外編は、がっつり四話あります。楽しんでいただけますように!
※ご注意
この番外編は、別作品【貧乏貴族は婿入りしたい!】のマウォルス×ジューノと、本作のメルキュール×ユピテルが登場します。
貧乏貴族のほうを読んでいないと十分に楽しめない内容となっておりますので、ご承知おきください。
――――――――――
「わぁっ。大きいですね……」「うぉっ。小っせーなー……」
お互いの口から、正反対の感想が飛び出した。
同じオメガと聞いていたジューノは、たとえ騎士といえど自分に似た所があるのではないかと思っていた。対するユピテルも、初めて自分以外で男のオメガに会って、自分の半分ほどしかない小柄な体格に驚きを隠せなかった。
ユピテルはいま、アヴェンティーノ伯爵家の王都邸に来ている。青騎士団にいたころはマウォルスもまだ役職がなく、互いに真面目だった二人は先輩後輩を超えた友人として仲良くしていたのだ。
緑騎士団で妊娠を発表したあと周囲は大混乱に陥ったが、数ヶ月も経てば落ち着いた。
ユピテルも安定期に入り、一度顔を見せろと騎士団本部に呼ばれて王都入りした今回。もちろん番であるメルキュールも一緒だ。
メルキュールはひとりで駆け出そうとするユピテルを止めるお目付け役も兼ねている。おかげで、身体に負担のないようゆっくりと移動して王都まで来たのである。
昨日、ユピテルとメルキュールは騎士団本部でああだこうだ言われてきた。総帥が認めているお陰で、反応はおおむね好意的だ。
もちろん「オメガが団長なんて」「団員を騙してたのか」などの意見も聞こえてくるが、ユピテルは歯牙にも掛けなかった。
そんな覚悟、とっくの昔に決めている。
逆にメルキュールの方がガルガルと反対意見に噛みついている。しかし腐っても騎士団と言うか、腕力で負けると皆黙るのだ。
体格はいいものの、きれいな顔や貴族らしい色を持つメルキュール。つい舐めてかかった彼らがこてんぱんにやられ、「ユピテル団長はもっと強い」と教えられると縮み上がる。
「あいつらはやばい。最恐の番だ」と巷では言われているが、さて子どもを産み育てるとなると、ふたりとも戸惑うことが多かった。周囲にはオメガ自体少ないのに、男のオメガだ。
あらゆる障害を乗り越え騎士団長に上り詰めたユピテルであっても、もうひとつの命が腹の中に宿っている感覚は、例えがたい喜びと、同時に不安をもたらした。
ユピテルの精神が揺らいでいることに気づいたのは、やはりメルキュールだった。誰よりも近くで見守る番であり、最推しの変化を見逃す彼ではない。
そこでメルキュールが提案したのが、男のオメガと結婚したという、マウォルス副団長に会うことだった。幸い王都に行く予定もできたためユピテルは事前に手紙を送って、初めて友人の家を訪ねたのである。
それで冒頭に戻る。
小柄な身体に、日焼けなどしたこともなさそうな白い肌。珍しいシルバーの髪を一括りにしている。小動物のような顔立ちで、くりくりと丸い目が見開かれている。
ジューノこそ子どものように見えるのに、彼の脚にはひっしとくっつく幼子がいた。ローズブロンドの髪が可愛らしく女の子のように見えるが、三人目も男の子だったと聞いている。
男の出産は女より大変だと医者が言っていた。こんなにも華奢な子が三人も出産しているって!? ……まじか。
ユピテルがあっけに取られている間、ジューノは感動していた。
オメガでもこんなに格好良くなれるんだ……! え、おれも鍛えればこうなれたりする?
互いに驚いたまま固まっていたのは、時間にして約十秒。その沈黙を破ったのはマウォルスだった。
「……いい加減、応接間で話そう。ユピテル、付いてきてくれ」
「あっ、ごめんごめん。ローラ、行こ!」
「ママ、おとこのこいる!」
ローラと呼ばれた子、アウローラがユピテルを指さして喋った。
男の子なんて可愛らしい呼び方、何十年ぶりにされただろうかと笑っていると、ジューノが指さす方向を見てハッとした。
「男の子かもしれません……」
「は?」
「お腹の赤ちゃんですよ。ローラはちょっと不思議な子で、先見の明があるみたいなんです」
アウローラは、人に見えないものが見えているような話し方をすることが時々あるという。しかもそれがまだ起きていない未来を言い当てるような内容だったりするから、ジューノもマウォルスも真面目に捉えているらしい。
ユピテルにとっては、子の性別なんて健康に生まれてきてくれればなんでもよかったが、いざ男の子かもしれないと言われると……わくわくした。夢のような未来が、急に現実を伴って迫ってくる。
早く報告したいのに、メルキュールは昨晩から実家に帰省中で、あとから合流予定だ。
応接間で高そうなソファに腰掛けると、向かい側にマウォルスとジューノ、その間に子どもが並んで座った。幅の広いソファなのだが、三人とも隙間なくくっついているのが可笑しい。
堅物のマウォルスが見たこともないほど愛おしげに、伴侶と息子を見つめている。ユピテルはいけないものを見てしまったような気がして、居心地が悪くなった。
柔らかいソファの上で尻をもぞもぞと動かす。
メルク、早く来てくれ……!
落ち着かない理由はもうひとつある。この中では自分だけが平民出身なのだ。
二人とも見目が美しく、所作も洗練されている。幼い子どもさえも気品を感じさせる顔立ちだった。
ユピテルの表情に珍しく不安が浮かんでいることに気づいたマウォルスは、国境の様子について尋ねた。仕事に関する話をすればリラックスできると考えたのだ。
しかしその気遣いも虚しく、すぐに家令がマウォルスを呼びに来てしまった。マウォルスは伯爵家当主と青騎士団の副団長という、二足のわらじを履いている。つまりとても忙しいのだ。
「悪い。少し席を外す」
「はーい。行ってらっしゃ……ちょっと!」
マウォルスは立ち上がりざまに子どもの頭を優しく撫で、流れるようにジューノの頭にキスを落としていった。
いつもやっていますと言わんばかりのスムーズさだ。
「も~、お客様の前で!」
「ははっ。マウォルスのやつ、伴侶の前ではあんななんだな」
この番外編は、がっつり四話あります。楽しんでいただけますように!
※ご注意
この番外編は、別作品【貧乏貴族は婿入りしたい!】のマウォルス×ジューノと、本作のメルキュール×ユピテルが登場します。
貧乏貴族のほうを読んでいないと十分に楽しめない内容となっておりますので、ご承知おきください。
――――――――――
「わぁっ。大きいですね……」「うぉっ。小っせーなー……」
お互いの口から、正反対の感想が飛び出した。
同じオメガと聞いていたジューノは、たとえ騎士といえど自分に似た所があるのではないかと思っていた。対するユピテルも、初めて自分以外で男のオメガに会って、自分の半分ほどしかない小柄な体格に驚きを隠せなかった。
ユピテルはいま、アヴェンティーノ伯爵家の王都邸に来ている。青騎士団にいたころはマウォルスもまだ役職がなく、互いに真面目だった二人は先輩後輩を超えた友人として仲良くしていたのだ。
緑騎士団で妊娠を発表したあと周囲は大混乱に陥ったが、数ヶ月も経てば落ち着いた。
ユピテルも安定期に入り、一度顔を見せろと騎士団本部に呼ばれて王都入りした今回。もちろん番であるメルキュールも一緒だ。
メルキュールはひとりで駆け出そうとするユピテルを止めるお目付け役も兼ねている。おかげで、身体に負担のないようゆっくりと移動して王都まで来たのである。
昨日、ユピテルとメルキュールは騎士団本部でああだこうだ言われてきた。総帥が認めているお陰で、反応はおおむね好意的だ。
もちろん「オメガが団長なんて」「団員を騙してたのか」などの意見も聞こえてくるが、ユピテルは歯牙にも掛けなかった。
そんな覚悟、とっくの昔に決めている。
逆にメルキュールの方がガルガルと反対意見に噛みついている。しかし腐っても騎士団と言うか、腕力で負けると皆黙るのだ。
体格はいいものの、きれいな顔や貴族らしい色を持つメルキュール。つい舐めてかかった彼らがこてんぱんにやられ、「ユピテル団長はもっと強い」と教えられると縮み上がる。
「あいつらはやばい。最恐の番だ」と巷では言われているが、さて子どもを産み育てるとなると、ふたりとも戸惑うことが多かった。周囲にはオメガ自体少ないのに、男のオメガだ。
あらゆる障害を乗り越え騎士団長に上り詰めたユピテルであっても、もうひとつの命が腹の中に宿っている感覚は、例えがたい喜びと、同時に不安をもたらした。
ユピテルの精神が揺らいでいることに気づいたのは、やはりメルキュールだった。誰よりも近くで見守る番であり、最推しの変化を見逃す彼ではない。
そこでメルキュールが提案したのが、男のオメガと結婚したという、マウォルス副団長に会うことだった。幸い王都に行く予定もできたためユピテルは事前に手紙を送って、初めて友人の家を訪ねたのである。
それで冒頭に戻る。
小柄な身体に、日焼けなどしたこともなさそうな白い肌。珍しいシルバーの髪を一括りにしている。小動物のような顔立ちで、くりくりと丸い目が見開かれている。
ジューノこそ子どものように見えるのに、彼の脚にはひっしとくっつく幼子がいた。ローズブロンドの髪が可愛らしく女の子のように見えるが、三人目も男の子だったと聞いている。
男の出産は女より大変だと医者が言っていた。こんなにも華奢な子が三人も出産しているって!? ……まじか。
ユピテルがあっけに取られている間、ジューノは感動していた。
オメガでもこんなに格好良くなれるんだ……! え、おれも鍛えればこうなれたりする?
互いに驚いたまま固まっていたのは、時間にして約十秒。その沈黙を破ったのはマウォルスだった。
「……いい加減、応接間で話そう。ユピテル、付いてきてくれ」
「あっ、ごめんごめん。ローラ、行こ!」
「ママ、おとこのこいる!」
ローラと呼ばれた子、アウローラがユピテルを指さして喋った。
男の子なんて可愛らしい呼び方、何十年ぶりにされただろうかと笑っていると、ジューノが指さす方向を見てハッとした。
「男の子かもしれません……」
「は?」
「お腹の赤ちゃんですよ。ローラはちょっと不思議な子で、先見の明があるみたいなんです」
アウローラは、人に見えないものが見えているような話し方をすることが時々あるという。しかもそれがまだ起きていない未来を言い当てるような内容だったりするから、ジューノもマウォルスも真面目に捉えているらしい。
ユピテルにとっては、子の性別なんて健康に生まれてきてくれればなんでもよかったが、いざ男の子かもしれないと言われると……わくわくした。夢のような未来が、急に現実を伴って迫ってくる。
早く報告したいのに、メルキュールは昨晩から実家に帰省中で、あとから合流予定だ。
応接間で高そうなソファに腰掛けると、向かい側にマウォルスとジューノ、その間に子どもが並んで座った。幅の広いソファなのだが、三人とも隙間なくくっついているのが可笑しい。
堅物のマウォルスが見たこともないほど愛おしげに、伴侶と息子を見つめている。ユピテルはいけないものを見てしまったような気がして、居心地が悪くなった。
柔らかいソファの上で尻をもぞもぞと動かす。
メルク、早く来てくれ……!
落ち着かない理由はもうひとつある。この中では自分だけが平民出身なのだ。
二人とも見目が美しく、所作も洗練されている。幼い子どもさえも気品を感じさせる顔立ちだった。
ユピテルの表情に珍しく不安が浮かんでいることに気づいたマウォルスは、国境の様子について尋ねた。仕事に関する話をすればリラックスできると考えたのだ。
しかしその気遣いも虚しく、すぐに家令がマウォルスを呼びに来てしまった。マウォルスは伯爵家当主と青騎士団の副団長という、二足のわらじを履いている。つまりとても忙しいのだ。
「悪い。少し席を外す」
「はーい。行ってらっしゃ……ちょっと!」
マウォルスは立ち上がりざまに子どもの頭を優しく撫で、流れるようにジューノの頭にキスを落としていった。
いつもやっていますと言わんばかりのスムーズさだ。
「も~、お客様の前で!」
「ははっ。マウォルスのやつ、伴侶の前ではあんななんだな」
61
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
深窓オメガのお見合い結婚
椎名サクラ
BL
深窓の令息を地でいくオメガの碧(あおい)は見合い相手のアルファの一輝(かずき)に一目惚れをした。断られると思っていたのになぜか正式に交際の申し込みをされ戸惑いながらデートを重ねていく。紆余曲折のあるお付き合いをしながら結婚した二人だが、碧があまりにも性的なことに無知すぎて、一輝を翻弄していきながら心も身体も結ばれていく話。
かつて遊び人だったアルファと純粋培養無自覚小悪魔オメガのお見合い→新婚話となっております。
※Rシーンには☆がついています
※オメガバース設定ですが色々と作者都合で改ざんされております。
※ラブラブ甘々予定です。
※ムーンライトノベルズと同時掲載となっております。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
完結•枯れおじ隊長は冷徹な副隊長に最後の恋をする
禅
BL
赤の騎士隊長でありαのランドルは恋愛感情が枯れていた。過去の経験から、恋愛も政略結婚も面倒くさくなり、35歳になっても独身。
だが、優秀な副隊長であるフリオには自分のようになってはいけないと見合いを勧めるが全滅。頭を悩ませているところに、とある事件が発生。
そこでαだと思っていたフリオからΩのフェロモンの香りがして……
※オメガバースがある世界
ムーンライトノベルズにも投稿中
〜オメガは体力勝負⁉〜異世界は思ってたのと違う件
おもちDX
BL
ある日突然、彼氏と異世界転移した。そこは現代日本と似ているようで、もっと進んでいる世界。そして、オメガバースの世界だった。
オメガと診断されて喜ぶメグムに、様々な困難が降りかかる。オメガは体力勝負って、そんなことある!?彼氏と徐々に深まる溝。初めての発情期。
気づけばどんなときも傍にいてくれたのは、口下手なアルファの雇い主だった。
自分に自信を持てない主人公が、新しい自分と、新しい人生を手に入れるまでのお話。
不器用な美形アルファ× 流されやすいぽっちゃりオメガ
過激な性表現のあるページには*をつけています。
「俺の子を孕め。」とアルファ令息に強制的に妊娠させられ、番にならされました。
天災
BL
「俺の子を孕め」
そう言われて、ご主人様のダニエル・ラーン(α)は執事の僕、アンドレ・ブール(Ω)を強制的に妊娠させ、二人は番となる。
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる