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しおりを挟む教育的指導に熱が入った数日後、僕は団長と共に北の砦へと向かうことになった。王国と隣国との境である東と北には大きな砦がある。メインの防衛は砦にあるものの、団員は交代で砦間を移動しながら巡回警備に当たっている。
今回の巡回は、もちろん団長と僕だけでなく他の団員も一緒だ。
隣国とは国境で小競り合いを繰り返しているものの、表向きは友好関係を保っている。商売人の行き来もあって、野盗や戦いの好きな少数民族がたまに現れるくらいだった。
冬の近づいてきたこの時期は比較的安全で、冬眠前の食糧を探す獣と出くわす方が危険だったりする。
目的は移動だけでないため、旅程はゆっくりだった。国境から近い村や町にも顔を出して、困っていることがないか聞き取りをおこなうことも目的の一つだ。
どこへ行ってもユピテル団長は人気者だ。団長なのに偉ぶらない態度や純粋な男らしさに皆が夢中で、愛されていることがありありと伝わってきた。うんうん、わかりみが深い……!
「ユピテルさん久しぶりやね~! 番さんとの関係は順調なん? あんたもう30なんやから、そろそろ子どもとか作ったらどう?」
「クピドーさん……順調ですから、それ以上は勘弁してください。それより、最近はどうですか」
年配の女性は遠慮なく団長に話しかけてくる。番、という言葉に思わず僕も反応して聞き耳を立ててしまった。
ユピテル団長は慣れた様子でいなしてしまったが、副団長として団長を支える立場にある現在、その関係性や休暇の時期を把握することも僕の任務のひとつだと思っている。
この日は村長の家に泊めてもらうことになり、ひと部屋しかないけど広いという理由で僕とユピテル団長は同じ部屋を与えられた。
「だ、団長! 僕も他の奴らと一緒に外で野営します。どうぞゆっくり過ごしてください!」
「メルク、俺がいいって言ってるんだ。ひと部屋とはいえ、この広い部屋を見ろ。俺たちが転げ回ったって問題ない広さだ」
「転げ……っ!?」
「ははっ。お前まさか童貞か? 可愛いやつめ」
ユピテル団長、僕なんかに色気を出さないでくださいぃ! 口角に笑みを浮かべた表情は年上の男の魅力がたっぷりで腰砕けになってしまう。間違いなく僕より上位のアルファだろう。
せっかく二人きりなんだ。顔が赤くなっているのを感じながらも、僕は聞いておきたかったことを団長に尋ねた。
「団長。失礼かと存じますが、番様との休暇の時期や……その、育休などの予定があれば、副団長として知っておきたいです」
「あー、そうだな。そろそろか……。北の砦に着いたら、ヒート休暇を取る。子を作る予定は今のところないから安心しろ」
「北に番様が……?」
「それ以上聞くな」
「は!」
つい興味の赴くまま質問してしまって反省する。こんなの見守る会失格だ。
そうか、でも……ユピテル団長の番様は男性なのかもしれないな。団長のパートナーについての噂は様々なものがあって、彼が肯定も否定もしないためどれも憶測の域を出ない。
だから青のマウォルス副団長のところのように至宝と呼ばれる美しいオメガが番だとか、実は騎士団内に相手がいるとか、そもそも番なんていないのではという意見もある。
実は僕も王都にいたとき、高級娼館から出てきたユピテル様を見たことがあった。あのあと番が出来たのかもしれないな。なんにせよ、推しが幸せであれば僕はそれでいい。
そもそも僕が推測すること自体、畏れ多いのだ。そりゃあ、思春期に憧れが募りすぎて夜の想像をしたことだってあるけど……自分の二次性を疑いたくなるくらいユピテル様のほうが男前だった。
僕は恋愛もしたことがないし、今のところ人生で一番好きな人がユピテル団長だ。それが揺らぐ想像は未だにできない。オメガはアルファよりもさらに希少で会ったことさえないから、番というのもピンと来なかった。
北の砦まであと一日、というところである変化が起きた。ユピテル団長が体調を崩したのだ。
といっても、いつもより怠そうな様子に気づいたのは僕だけで、団長からも誰にも言うなと厳命されてしまった。
「薬が……」
「、え? 風邪薬でしたら僕のを飲んでください!」
「いや、俺も持っているから大丈夫だ。今日はここで野営するから皆に伝えてきてくれ。食事も俺は不要だから、もう休ませてもらう。……悪いな、頼んだぞ」
「はい!」
いつも頼りがいのあるユピテル団長に頼られて、僕は褒められた犬のように喜びを隠しきれなかった。その表情に気づいた団長がフッと笑う。……いつも以上に色気マシマシじゃないですか~!?
僕は浮かびかけた煩悩をかき消すため、慌てて団員の元へ走った。
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