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 既に湯は張られている。アクアの服を脱がそうとすると、彼は「え?なんでお風呂?」と疑問符を飛ばした。

「他の男の匂いが付いているのが耐えられないんだ……」
「っ!そうだ!!」

 やっとさっきの男に首筋を舐められたことを思い出したのか、アクアはブルッと身震いしたのちポンポンと自分で服を脱ぎはじめた。そして下履き一枚になったところで手を止め、恥ずかしそうに見上げてくる。

「あの、旦那さま?身体を洗うので……」
「私が洗おう」

 スピネルがいたら白い目で見られそうな発言であるが、ブラッドは片時もアクアから離れるつもりはなかった。基本的に反論しない彼はもじもじと後ろを向き、下履きの紐を解く。目の前に現れた小さくて丸い尻。……眼福すぎてつらい。
 
 ブラッドがなんとなく鼻根を抑えている間にちゃぽん、と水音が聞こえアクアは湯に浸かっていた。少しぬるくなった湯を感じ、気持ちよさそうに緩んだ表情でふーっと息を吐いている。なんだこの生き物は……可愛い。
 思考をお世話モードに切り替え、スポンジに石鹸を泡立てる。湯で顔を洗っていたアクアが意図に気づき、自分の手で髪をまとめて「お願いします」と顎を上げた。

 叫び出したいのをこらえながら、ブラッドは泡を首に乗せ優しくスポンジで擦る。オメガはその項を守るため頑丈なネックガードを付けることもあるが、奴隷のようだとこの国ではあまり好まれていない。
 しかしこの首筋を、項を守れるものをなにか付けたいと強く願ってしまう。あんな、海賊なんかに触れられるなんて……。悔しさに手が震える。

「んっ……だ、旦那さま」
「!!」

 色っぽい声にハッとする。潤んだ瞳に見つめられて、自然と赤い唇に吸い寄せられた。ふわ、と重なったキスは甘い。小さく柔らかい唇を堪能しながら、スポンジを滑らせた。首から、鎖骨、肩、湯の中へ……

「あぁ……だめ。こんなところで……ね、ブラッドさまぁっ」
「かわいい。アクア、私のことだけ考えて」

 シャツの袖が濡れるのも構わずアクアの下肢に手を伸ばすと、ペニスはもう立ち上がっていた。手を優しく添え上下に擦れば、バスルームに高い嬌声が響いた。両手を伸ばされ、濡れた腕が首の後ろに絡まる。
 一瞬で人を死に追いやる腕にキスを求めて捕まえられることに、ぞくぞくとした愉悦を感じてしまう自分も大概だ。

 今度は顔を傾けて深く舌を絡ませ合う。はじめての時は戸惑うだけだった舌が、ブラッドの舌を求めて伸ばされること。言わずとも混ざった唾液をコクン、と飲み込んでくれることに胸が熱くなる。
 アクアの舌を強めに吸った瞬間、彼は全身を震わせて達した。

「はぁっ、はぁ……もうっ。おれだけ、こんな……」
「ごめん、疲れさせてしまったね。さぁ、連れて行ってあげるから今度は島を楽しもう」

 恨みがましく見られても、その瞳は潤んでいて匂い立つほど魅惑的だ。アクアを前にしてきたアルファたちの夢見た姿が、目の前にある。だが船はもうとっくに止まっているし、ブラッドは我慢のできる男だった。
 アクアの身体を拭き、新しい服を着せてから抱き上げる。別に歩けるのに……と口を尖らせる彼の泣きぼくろに軽いキスを落として、船を下りた。
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