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アクアは屋敷の使用人が用意してくれたものをいつもそのまま着ている。
丈が長いワンピース型のパジャマは一般的に可愛らしいと言われるデザインかもしれないが、アクアは着るものにこだわりがない。どんな素材なのか知らないけど、薄くて着心地がいいことだけは分かる。
ブラッドは逆にパジャマのズボンだけを履いていて、同素材のガウンを羽織っていた。男らしく筋肉で隆起する胸板が見えている。
いつもきっちりとシャツを着込んでいる彼の無防備な姿に、アクアはくらくらした。
(旦那さまの色気、マシマシすぎる……!)
ほんのりと頬を桃色に染めたアクアは、ブラッドに勧められてソファに腰かけた。少し俯いて、ちゃんと話さなければならないと改めて決心する。
寝るときは三つ編みにまとめている金色の髪の先が、視界に映った。両手でパジャマを握りしめる。
「旦那さま……いや、ブラッドさま。結婚の契約の話なんです」
「まじ天使……はっ、え?なんだって?」
ブラッドのことになると、アクアは途端に涙腺が弱くなる。彼が別の人を屋敷に迎えると思ったときの気持ちが蘇ってきて、視界が海みたいにゆらゆらと揺れた。
「おれ、好きな人ができたみたいで……ブラッドさまと、わっ、別れなければ……なりません……ぐす」
「無理!!!」
大声で即答したブラッドは、アクアまで数歩の距離を詰め、目の前でひざまずく。強く握りしめていたアクアの手を取り、下から懇願するように見上げてきた。
潤む視界に、深いグリーンの瞳が月のように浮かんで見えた。
「あ、アクア……私は君に気持ちを伝えなければならないと……そのために焦って、さいきん距離を詰めすぎたかもしれない。嫌だったか?」
「ううん、嬉かった……」
「じゃあ、私のどこが嫌なんだ?教えてくれ。ぜんぶ直すから」
「嫌なところなんて……ない。ぜんぶ、好きです。大好き。だって、好きな人ができたら、別れるって……そういう契約でしたよね?」
「そっ、……そういうことか~~~!!!」
いきなり天を仰いだブラッドに、アクアはビクッと驚く。怒らせてしまった?と思ったものの、彼の言動が理解できない。なんか、予想していたのとは違うような……
涙も引っ込んだアクアが首をひねっていると、どうしてかブラッドに立つよう促された。もう一度姿勢を正した彼がアクアの手を握ったままひざまずいたので、さすがにこの状況はおかしいと焦る。
「えっ、なに?た、立って下さい」
「アクアが好きだ」
「!!」
「情けない話だが、君がいなくなってから気付いたんだ。私は、アクアがいないと毎日がつまらない。君以上に可愛いと思う人もいない。再会して、本当の……家族になりたいと思ったんだ」
これは夢だろうか。
アクアも彼と離れてからは毎日がつまらなかった。無味乾燥な日々を、こんなにもつらいと感じるなんて知らなかった。
いつの間にか心のなかで、ブラッドという存在は大きく育っていたのだ。
彼が同じことを感じていたのだと分かって、アクアは胸がいっぱいになる。
「じゃあ、これからもおれの旦那さまでいてくれる?」
「ああ、ずっとな。君も私の奥さんだ」
うれしい。旦那さま、大好き!そう告げてブラッドに抱きつくと、危なげなく受け止められた。そのまま彼が立ち上がったので、急に視界が高くなったアクアはちょっと戸惑う。
告白の先……というかまさか両想いだとは思っていなかったから、展開を予想できない。でも抱きかかえられたまま到着した先が寝室だったので、今まで散々ターゲットを誘惑してきたアクアにもさすがに合点が行った。
「旦那さま?あの、おれ……発情期はまだ先で」
「発情期じゃないと抱いたら駄目か?今すぐ本当の奥さんにしたいんだ」
そっと寝台に降ろされて、情欲に染まった瞳で真上から見つめられる。縫い留められたように、目を逸らせない。
喉がひくんと震え、アクアは声を絞り出した。
「だ、抱いて……奥さんにしてください」
「あー!!可愛い!!!」
急に耳元で叫ぶのだけはやめてほしい。そう思いながらも全身で抱きつかれて、心臓がキュンッと幸せに跳ねた。
アクアもそっとブラッドの背中に腕を回す。大きな背中だ。
こんなにも人と密着して、落ち着いた気持ちになるなんて信じられない。殺るか殺られるか、自分にはそれだけだったのに。
しかしアクアの安心を妨げるモノが脚に当たって、これから何をするのか嫌でも実感する。ヒートのときにブラッドと肌を重ねる想像をしたことはあるけれど、実際にすることは想像がつかない。
ちゃんとできなかったらどうしよう。ガッカリされる?
だんだんと不安になって、首の窪みに顔を埋めてなにかを吸っているブラッドの耳元で話しかけた。
「あの、旦那さま。おれ……はじめてで。うまくできないかも……」
「っぐ。イくとこだった……。アクア、大丈夫だ。私がうまくやる。ぜんぶ教えてあげるからな」
「ほんとっ?ありがとう旦那さま!」
「あ゛ーーー…………」
今日死ぬかも……と小さく呟いたブラッドに、殺さないよ?と頭の中で応える。
丈が長いワンピース型のパジャマは一般的に可愛らしいと言われるデザインかもしれないが、アクアは着るものにこだわりがない。どんな素材なのか知らないけど、薄くて着心地がいいことだけは分かる。
ブラッドは逆にパジャマのズボンだけを履いていて、同素材のガウンを羽織っていた。男らしく筋肉で隆起する胸板が見えている。
いつもきっちりとシャツを着込んでいる彼の無防備な姿に、アクアはくらくらした。
(旦那さまの色気、マシマシすぎる……!)
ほんのりと頬を桃色に染めたアクアは、ブラッドに勧められてソファに腰かけた。少し俯いて、ちゃんと話さなければならないと改めて決心する。
寝るときは三つ編みにまとめている金色の髪の先が、視界に映った。両手でパジャマを握りしめる。
「旦那さま……いや、ブラッドさま。結婚の契約の話なんです」
「まじ天使……はっ、え?なんだって?」
ブラッドのことになると、アクアは途端に涙腺が弱くなる。彼が別の人を屋敷に迎えると思ったときの気持ちが蘇ってきて、視界が海みたいにゆらゆらと揺れた。
「おれ、好きな人ができたみたいで……ブラッドさまと、わっ、別れなければ……なりません……ぐす」
「無理!!!」
大声で即答したブラッドは、アクアまで数歩の距離を詰め、目の前でひざまずく。強く握りしめていたアクアの手を取り、下から懇願するように見上げてきた。
潤む視界に、深いグリーンの瞳が月のように浮かんで見えた。
「あ、アクア……私は君に気持ちを伝えなければならないと……そのために焦って、さいきん距離を詰めすぎたかもしれない。嫌だったか?」
「ううん、嬉かった……」
「じゃあ、私のどこが嫌なんだ?教えてくれ。ぜんぶ直すから」
「嫌なところなんて……ない。ぜんぶ、好きです。大好き。だって、好きな人ができたら、別れるって……そういう契約でしたよね?」
「そっ、……そういうことか~~~!!!」
いきなり天を仰いだブラッドに、アクアはビクッと驚く。怒らせてしまった?と思ったものの、彼の言動が理解できない。なんか、予想していたのとは違うような……
涙も引っ込んだアクアが首をひねっていると、どうしてかブラッドに立つよう促された。もう一度姿勢を正した彼がアクアの手を握ったままひざまずいたので、さすがにこの状況はおかしいと焦る。
「えっ、なに?た、立って下さい」
「アクアが好きだ」
「!!」
「情けない話だが、君がいなくなってから気付いたんだ。私は、アクアがいないと毎日がつまらない。君以上に可愛いと思う人もいない。再会して、本当の……家族になりたいと思ったんだ」
これは夢だろうか。
アクアも彼と離れてからは毎日がつまらなかった。無味乾燥な日々を、こんなにもつらいと感じるなんて知らなかった。
いつの間にか心のなかで、ブラッドという存在は大きく育っていたのだ。
彼が同じことを感じていたのだと分かって、アクアは胸がいっぱいになる。
「じゃあ、これからもおれの旦那さまでいてくれる?」
「ああ、ずっとな。君も私の奥さんだ」
うれしい。旦那さま、大好き!そう告げてブラッドに抱きつくと、危なげなく受け止められた。そのまま彼が立ち上がったので、急に視界が高くなったアクアはちょっと戸惑う。
告白の先……というかまさか両想いだとは思っていなかったから、展開を予想できない。でも抱きかかえられたまま到着した先が寝室だったので、今まで散々ターゲットを誘惑してきたアクアにもさすがに合点が行った。
「旦那さま?あの、おれ……発情期はまだ先で」
「発情期じゃないと抱いたら駄目か?今すぐ本当の奥さんにしたいんだ」
そっと寝台に降ろされて、情欲に染まった瞳で真上から見つめられる。縫い留められたように、目を逸らせない。
喉がひくんと震え、アクアは声を絞り出した。
「だ、抱いて……奥さんにしてください」
「あー!!可愛い!!!」
急に耳元で叫ぶのだけはやめてほしい。そう思いながらも全身で抱きつかれて、心臓がキュンッと幸せに跳ねた。
アクアもそっとブラッドの背中に腕を回す。大きな背中だ。
こんなにも人と密着して、落ち着いた気持ちになるなんて信じられない。殺るか殺られるか、自分にはそれだけだったのに。
しかしアクアの安心を妨げるモノが脚に当たって、これから何をするのか嫌でも実感する。ヒートのときにブラッドと肌を重ねる想像をしたことはあるけれど、実際にすることは想像がつかない。
ちゃんとできなかったらどうしよう。ガッカリされる?
だんだんと不安になって、首の窪みに顔を埋めてなにかを吸っているブラッドの耳元で話しかけた。
「あの、旦那さま。おれ……はじめてで。うまくできないかも……」
「っぐ。イくとこだった……。アクア、大丈夫だ。私がうまくやる。ぜんぶ教えてあげるからな」
「ほんとっ?ありがとう旦那さま!」
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