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58.思ってたのと違う件。
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久しぶりにクリアな頭で、ベッドに横たわったまま見慣れない部屋を見渡す。
僕のアパートくらいの広さの部屋には、大きなベッドと最低限の家具が鎮座している。しかし扉の先にあるバスルームは二人で入ることが前提のような広さがあって、何度もお世話になったことが薄っすらと記憶に残っている。
そのとき、チリンと音が鳴って扉横の小さな窓から台の上に、食事が置かれた。本当にここ、ニュイ・ドリームは至れり尽くせりだ。
専用の袋に入れて出しておけば寝具や服も洗濯してもらえるし、必要な薬だって言わずとも用意してもらえた。さすがはオメガの発情期のための施設、というところか。
最後に利用できてよかった。
音が聞こえたのか食事の匂いに釣られたのか、後ろでリアンがもぞもぞと動きだす。振り向こうと思ったのに、その前に項を舐められた。
「っひゃあ!」
「……おはよ、メグ」
「も~~~……」
想いが通じ合った直後に発情期を一緒に過ごしたおかげで、リアンは振り切ったように距離感が近くなっている。
涙目で振り返って恨めし気に睨みつけたけど、目を細めて愛おしそうに見返してくるだけ。それだけで毒気が抜かれた。寝起きでこんなにもかっこいいの、反則だ。
下着だけを身につけた格好でリアンが食事を取りに行く。窓からの日光に照らされている肢体は、均整に筋肉がついていて美しい。番の身体に惚れ惚れとしながら、そっと指先で自分の項に触れた。
まだカサブタになっているそれは、リアンの噛み跡だ。ここへ来た初日に僕たちは番になった。
あのときの身体が作り変えられる感覚、リアンとの結びつきがいっそう強固になった感覚は、とても言葉では言い表せない。
もう僕とリアンは一生離れられない。……なんて甘美な響きなんだろう。
「食べられそうか?帰る前にしっかり食べておかないと、また倒れそうで心配だ」
「もう大丈夫だって。ん~美味しそうなご飯!」
風邪を引いてよれよれのまま発情期に入り、本格的なそれがガッツリと一週間続いたものだから、途中で一旦点滴を受けるほど僕は弱ってしまった。
ニュイ・ドリームなんて絶対に利用したくないと拒否していたはずなのに、何も準備をできていなかった僕とリアンはかなりこの施設に助けられたのだ。
番のいないオメガ専用だから今回きりだけど……嫌なイメージを払拭できてよかった。
なんでオメガたちが日々運動しているのか、改めて痛感する。ほんと……大変だったなぁ。嬉しそうに僕の世話を焼いてくれたけど、リアンにもたくさん迷惑を掛けてしまった。
『オメガは体力勝負』なんて、最初は耳を疑ったけど、その言葉のとおりだ。
もう給餌が癖になっているのか、リアンが僕の口元にスープを運んでくる。素直に口で受け取って笑顔でリアンに美味しいと言うと、それを見たリアンも優しい微笑みを浮かべた。
こんな未来が待っているなんて、地球から転移してきた当初は想像もできなかった。
バース性が明らかになったとき、キリトと番になることを信じて疑わなかったし。異世界ってすごい!なんて未来が明るく広がった気持ちだったけど……まったく思ってたのとは違う結果になった。
いろいろあった。辛いことも楽しいことも。
でも、過去の自分がいろいろと迷って失敗したことも含めて、そのお陰で一番の幸せを手に入れたことはわかる。きっと未来も明るいはずだ。
――僕のことを大好きな番、もうすぐ旦那さんになる人が隣にいるのだから。
「リアン、大好き」
発情期中、何度も告げた言葉をまた重ねる。リアンが返す言葉も同じだ。
自然と唇を重ね合わせて笑い合う。指輪も薬指で楽しげに煌めいた。
――――――――――
完結です。ここまでお読みいただいてありがとうございました!
よろしければ一言でも感想をいただけると嬉しいです。
ハートもたくさん送っていただきありがとうございました。
オメガバースというと、どうしてもオメガが虐げられる作品が多いように感じます。
差別感情が苦手なので、私の作品では基本弱者のほうが逞しいです。攻めが受けに救われている場面も多くあります。
もしご興味があれば、他の作品も読んでみてください♡
僕のアパートくらいの広さの部屋には、大きなベッドと最低限の家具が鎮座している。しかし扉の先にあるバスルームは二人で入ることが前提のような広さがあって、何度もお世話になったことが薄っすらと記憶に残っている。
そのとき、チリンと音が鳴って扉横の小さな窓から台の上に、食事が置かれた。本当にここ、ニュイ・ドリームは至れり尽くせりだ。
専用の袋に入れて出しておけば寝具や服も洗濯してもらえるし、必要な薬だって言わずとも用意してもらえた。さすがはオメガの発情期のための施設、というところか。
最後に利用できてよかった。
音が聞こえたのか食事の匂いに釣られたのか、後ろでリアンがもぞもぞと動きだす。振り向こうと思ったのに、その前に項を舐められた。
「っひゃあ!」
「……おはよ、メグ」
「も~~~……」
想いが通じ合った直後に発情期を一緒に過ごしたおかげで、リアンは振り切ったように距離感が近くなっている。
涙目で振り返って恨めし気に睨みつけたけど、目を細めて愛おしそうに見返してくるだけ。それだけで毒気が抜かれた。寝起きでこんなにもかっこいいの、反則だ。
下着だけを身につけた格好でリアンが食事を取りに行く。窓からの日光に照らされている肢体は、均整に筋肉がついていて美しい。番の身体に惚れ惚れとしながら、そっと指先で自分の項に触れた。
まだカサブタになっているそれは、リアンの噛み跡だ。ここへ来た初日に僕たちは番になった。
あのときの身体が作り変えられる感覚、リアンとの結びつきがいっそう強固になった感覚は、とても言葉では言い表せない。
もう僕とリアンは一生離れられない。……なんて甘美な響きなんだろう。
「食べられそうか?帰る前にしっかり食べておかないと、また倒れそうで心配だ」
「もう大丈夫だって。ん~美味しそうなご飯!」
風邪を引いてよれよれのまま発情期に入り、本格的なそれがガッツリと一週間続いたものだから、途中で一旦点滴を受けるほど僕は弱ってしまった。
ニュイ・ドリームなんて絶対に利用したくないと拒否していたはずなのに、何も準備をできていなかった僕とリアンはかなりこの施設に助けられたのだ。
番のいないオメガ専用だから今回きりだけど……嫌なイメージを払拭できてよかった。
なんでオメガたちが日々運動しているのか、改めて痛感する。ほんと……大変だったなぁ。嬉しそうに僕の世話を焼いてくれたけど、リアンにもたくさん迷惑を掛けてしまった。
『オメガは体力勝負』なんて、最初は耳を疑ったけど、その言葉のとおりだ。
もう給餌が癖になっているのか、リアンが僕の口元にスープを運んでくる。素直に口で受け取って笑顔でリアンに美味しいと言うと、それを見たリアンも優しい微笑みを浮かべた。
こんな未来が待っているなんて、地球から転移してきた当初は想像もできなかった。
バース性が明らかになったとき、キリトと番になることを信じて疑わなかったし。異世界ってすごい!なんて未来が明るく広がった気持ちだったけど……まったく思ってたのとは違う結果になった。
いろいろあった。辛いことも楽しいことも。
でも、過去の自分がいろいろと迷って失敗したことも含めて、そのお陰で一番の幸せを手に入れたことはわかる。きっと未来も明るいはずだ。
――僕のことを大好きな番、もうすぐ旦那さんになる人が隣にいるのだから。
「リアン、大好き」
発情期中、何度も告げた言葉をまた重ねる。リアンが返す言葉も同じだ。
自然と唇を重ね合わせて笑い合う。指輪も薬指で楽しげに煌めいた。
――――――――――
完結です。ここまでお読みいただいてありがとうございました!
よろしければ一言でも感想をいただけると嬉しいです。
ハートもたくさん送っていただきありがとうございました。
オメガバースというと、どうしてもオメガが虐げられる作品が多いように感じます。
差別感情が苦手なので、私の作品では基本弱者のほうが逞しいです。攻めが受けに救われている場面も多くあります。
もしご興味があれば、他の作品も読んでみてください♡
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メグムに温かい仲間ができてよかったですよね!
ひとりだったら発情期も大変なことになってたかも😂
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リアンくん、すっごくがんばりました……!笑
キーっとなりますよね😂
過保護の理由、お母さんのことも後半で明らかになります……!
受けに対して過保護な攻めが大好きなんです〜✨
わざわざありがとうございます✨