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22.アクティブ・ピクニック

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「メグム~!こっちこっち」
「晴れてよかったねぇ」

 よく晴れた週末、スパ・スポールで仲のいい人たちとピクニックに出かけた。秋も深まっているが、昼間に寒さを感じることはまだない。
 ピクニックと言っても気軽なもので、ホリデー・マルシェに立ち寄ってそれぞれが好きなお弁当を購入し、オート・バスで一時間ほど遠出するだけだ。

 ファリアスにはケルティ山という雄大な山があって、レジャーに人気だ。
 本格的に登山したり、バスで山の中腹までは行けるから気軽に自然の中をハイキングしたりもできる。大きな公園やバーベキュー場なんかもあって、今日の目的も軽いハイキングと公園でお弁当を食べることである。

 メンバーはターザ、ダナ、ブリギッドと僕。年齢的には三十代のダナが一番上だけど、インストラクターだからなのかターザが仕切りを任されて計画を立ててくれた。

 朝も早い時間、マルシェの端で待ち合わせをした僕たちは、サンドイッチを中心に、ナイフを使わず食べられる果物など外でも食べやすいものを色々と買った。
 標高の高い場所に合わせていつもより厚着をしてきているからじんわりと汗をかきつつも、初めての遠出にわくわくを抑えられない。

「あはは、メグムぴょんぴょん揺れてるし。髪がふわふわして可愛い~」
「うう……楽しくて、つい」

 ダナが笑いながら僕の髪を上からポンポンと撫でる。ご存知、ダナの方が背が高いのだ。彼女の着ているぴったりとした長袖のスポーツウェアは、惜しげもなく筋肉美を強調していた。今日もかっこいいなぁ。
 そしてみんなケルティ山には行ったことがあるらしく、慣れた様子だった。

 山の中腹に到着しバスを降りると、ひんやりした空気が僕を出迎えた。思わず深呼吸して肺にその場の空気を取り込むと、空気が美味しいってこういうことかと悟ったような気持ちになる。爽やかな感覚だ。
 周囲は道路と森しかない。僕たちは先導するターザに続いて、森の中に足を踏み入れた。

 森の中といっても木の板が張られた遊歩道が設置されていて、本格的な登山靴じゃなくても歩きやすい。大きな木々の間から木漏れ日が差し、緑でいっぱいの視界は目にも優しかった。

「わーっ、綺麗なところですね」
「デートにもおすすめだよ~。わたしも旦那と結婚する前に来たことあるんだぁ」
「ブリギッドさん……」
「あっ……ごめん!」

 ブリギッドの発言にターザが呆れたように振り向く。謝られて初めて、彼氏に振られた僕のことを気遣ってくれたんだと気づいた。だけどあれからもうひと月半も経っているし、逆に気遣われる方がいたたまれない。
 日々が充実しているおかげで、確実に心の傷は癒えてきていた。

「もう、全然大丈夫ですから!僕も……デートでこんなところ来てみたいなぁ」
「きゃーっ。ターザ、チャンスじゃない?もしかしてメグム、気になってる人とかいるの?」
「え!そんな、いやいや、……いないですよぉ」

 みんなからの視線が突き刺さるが、断じてそんな人はいない。一瞬木々の緑色につられてエメラルドグリーンの瞳が頭に浮かんだのは……単純に思い出しただけだ。
 今度リアンと、ディムルドも誘って来てみてもいいかもしれない。

 僕は自然と口角が上がってきて、少し俯く。こんな風にプライベートのことまで気軽に話せる友達がたくさんできて、嬉しいなぁ。
 ――オメガになってよかった。初めてそう思った。

 順調に歩みを進めていると、目の前がパッと明るくなり、急に視界が開けた。

「わぁっ……!」
 
 木の葉が額縁のように周囲を彩るなか、視界の半分は抜けるように青い空、もう半分はおもちゃのような街並みが広がっている。自分の目線より下を、黒地に白い模様の鳥が気持ちよさそうに旋回していた。

「ほら、あそこの高い建物がフィンジアスの役所よ。だからあの辺が私たちの住む街ってこと!」
「ほぇー……すごい……」

 確かによく見れば、大きくて特徴的な建物には見覚えがある。それでも遠すぎて、人が生活している様子までは見えない。
 それほどまでにこの街は大きいのだ。地球にいた頃も遠足や社会科見学で高いところに登ったけど、こんな風にじっくりと景色を楽しむことはなかった。

 人間たちの生き様を、広い空や雄大な山が見守っているように感じる。日々生活していると自分のことでいっぱいいっぱいになりがちだけれど、どれも些細なことに思えてきた。
 人々がどう生きてどうあがこうが、雄大な自然は揺るがないだろう。そのことになぜか安心する。

 そこから少し歩いたところに、広い芝生の広がる公園があった。子供連れの家族や学生のグループなど、多くの人が思い思いに過ごしている。広いからみんな距離をあけて場所を取っていて、ぎゅうぎゅうになることもない。

 僕たちもちょうどいい木陰をみつけて、持ってきたレジャーシートを広げた。太陽が中天に差し掛かり、歩いてきたおかげもあって上着がいらないくらい暑い。
 着ていたパーカーを脱いでTシャツ一枚になり、勢いよく水を飲んだ。口元から溢れた水が顎を伝って落ちる。あ~、水もいつもより美味しく感じる!
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