22 / 58
22.アクティブ・ピクニック
しおりを挟む
「メグム~!こっちこっち」
「晴れてよかったねぇ」
よく晴れた週末、スパ・スポールで仲のいい人たちとピクニックに出かけた。秋も深まっているが、昼間に寒さを感じることはまだない。
ピクニックと言っても気軽なもので、ホリデー・マルシェに立ち寄ってそれぞれが好きなお弁当を購入し、オート・バスで一時間ほど遠出するだけだ。
ファリアスにはケルティ山という雄大な山があって、レジャーに人気だ。
本格的に登山したり、バスで山の中腹までは行けるから気軽に自然の中をハイキングしたりもできる。大きな公園やバーベキュー場なんかもあって、今日の目的も軽いハイキングと公園でお弁当を食べることである。
メンバーはターザ、ダナ、ブリギッドと僕。年齢的には三十代のダナが一番上だけど、インストラクターだからなのかターザが仕切りを任されて計画を立ててくれた。
朝も早い時間、マルシェの端で待ち合わせをした僕たちは、サンドイッチを中心に、ナイフを使わず食べられる果物など外でも食べやすいものを色々と買った。
標高の高い場所に合わせていつもより厚着をしてきているからじんわりと汗をかきつつも、初めての遠出にわくわくを抑えられない。
「あはは、メグムぴょんぴょん揺れてるし。髪がふわふわして可愛い~」
「うう……楽しくて、つい」
ダナが笑いながら僕の髪を上からポンポンと撫でる。ご存知、ダナの方が背が高いのだ。彼女の着ているぴったりとした長袖のスポーツウェアは、惜しげもなく筋肉美を強調していた。今日もかっこいいなぁ。
そしてみんなケルティ山には行ったことがあるらしく、慣れた様子だった。
山の中腹に到着しバスを降りると、ひんやりした空気が僕を出迎えた。思わず深呼吸して肺にその場の空気を取り込むと、空気が美味しいってこういうことかと悟ったような気持ちになる。爽やかな感覚だ。
周囲は道路と森しかない。僕たちは先導するターザに続いて、森の中に足を踏み入れた。
森の中といっても木の板が張られた遊歩道が設置されていて、本格的な登山靴じゃなくても歩きやすい。大きな木々の間から木漏れ日が差し、緑でいっぱいの視界は目にも優しかった。
「わーっ、綺麗なところですね」
「デートにもおすすめだよ~。わたしも旦那と結婚する前に来たことあるんだぁ」
「ブリギッドさん……」
「あっ……ごめん!」
ブリギッドの発言にターザが呆れたように振り向く。謝られて初めて、彼氏に振られた僕のことを気遣ってくれたんだと気づいた。だけどあれからもうひと月半も経っているし、逆に気遣われる方がいたたまれない。
日々が充実しているおかげで、確実に心の傷は癒えてきていた。
「もう、全然大丈夫ですから!僕も……デートでこんなところ来てみたいなぁ」
「きゃーっ。ターザ、チャンスじゃない?もしかしてメグム、気になってる人とかいるの?」
「え!そんな、いやいや、……いないですよぉ」
みんなからの視線が突き刺さるが、断じてそんな人はいない。一瞬木々の緑色につられてエメラルドグリーンの瞳が頭に浮かんだのは……単純に思い出しただけだ。
今度リアンと、ディムルドも誘って来てみてもいいかもしれない。
僕は自然と口角が上がってきて、少し俯く。こんな風にプライベートのことまで気軽に話せる友達がたくさんできて、嬉しいなぁ。
――オメガになってよかった。初めてそう思った。
順調に歩みを進めていると、目の前がパッと明るくなり、急に視界が開けた。
「わぁっ……!」
木の葉が額縁のように周囲を彩るなか、視界の半分は抜けるように青い空、もう半分はおもちゃのような街並みが広がっている。自分の目線より下を、黒地に白い模様の鳥が気持ちよさそうに旋回していた。
「ほら、あそこの高い建物がフィンジアスの役所よ。だからあの辺が私たちの住む街ってこと!」
「ほぇー……すごい……」
確かによく見れば、大きくて特徴的な建物には見覚えがある。それでも遠すぎて、人が生活している様子までは見えない。
それほどまでにこの街は大きいのだ。地球にいた頃も遠足や社会科見学で高いところに登ったけど、こんな風にじっくりと景色を楽しむことはなかった。
人間たちの生き様を、広い空や雄大な山が見守っているように感じる。日々生活していると自分のことでいっぱいいっぱいになりがちだけれど、どれも些細なことに思えてきた。
人々がどう生きてどうあがこうが、雄大な自然は揺るがないだろう。そのことになぜか安心する。
そこから少し歩いたところに、広い芝生の広がる公園があった。子供連れの家族や学生のグループなど、多くの人が思い思いに過ごしている。広いからみんな距離をあけて場所を取っていて、ぎゅうぎゅうになることもない。
僕たちもちょうどいい木陰をみつけて、持ってきたレジャーシートを広げた。太陽が中天に差し掛かり、歩いてきたおかげもあって上着がいらないくらい暑い。
着ていたパーカーを脱いでTシャツ一枚になり、勢いよく水を飲んだ。口元から溢れた水が顎を伝って落ちる。あ~、水もいつもより美味しく感じる!
「晴れてよかったねぇ」
よく晴れた週末、スパ・スポールで仲のいい人たちとピクニックに出かけた。秋も深まっているが、昼間に寒さを感じることはまだない。
ピクニックと言っても気軽なもので、ホリデー・マルシェに立ち寄ってそれぞれが好きなお弁当を購入し、オート・バスで一時間ほど遠出するだけだ。
ファリアスにはケルティ山という雄大な山があって、レジャーに人気だ。
本格的に登山したり、バスで山の中腹までは行けるから気軽に自然の中をハイキングしたりもできる。大きな公園やバーベキュー場なんかもあって、今日の目的も軽いハイキングと公園でお弁当を食べることである。
メンバーはターザ、ダナ、ブリギッドと僕。年齢的には三十代のダナが一番上だけど、インストラクターだからなのかターザが仕切りを任されて計画を立ててくれた。
朝も早い時間、マルシェの端で待ち合わせをした僕たちは、サンドイッチを中心に、ナイフを使わず食べられる果物など外でも食べやすいものを色々と買った。
標高の高い場所に合わせていつもより厚着をしてきているからじんわりと汗をかきつつも、初めての遠出にわくわくを抑えられない。
「あはは、メグムぴょんぴょん揺れてるし。髪がふわふわして可愛い~」
「うう……楽しくて、つい」
ダナが笑いながら僕の髪を上からポンポンと撫でる。ご存知、ダナの方が背が高いのだ。彼女の着ているぴったりとした長袖のスポーツウェアは、惜しげもなく筋肉美を強調していた。今日もかっこいいなぁ。
そしてみんなケルティ山には行ったことがあるらしく、慣れた様子だった。
山の中腹に到着しバスを降りると、ひんやりした空気が僕を出迎えた。思わず深呼吸して肺にその場の空気を取り込むと、空気が美味しいってこういうことかと悟ったような気持ちになる。爽やかな感覚だ。
周囲は道路と森しかない。僕たちは先導するターザに続いて、森の中に足を踏み入れた。
森の中といっても木の板が張られた遊歩道が設置されていて、本格的な登山靴じゃなくても歩きやすい。大きな木々の間から木漏れ日が差し、緑でいっぱいの視界は目にも優しかった。
「わーっ、綺麗なところですね」
「デートにもおすすめだよ~。わたしも旦那と結婚する前に来たことあるんだぁ」
「ブリギッドさん……」
「あっ……ごめん!」
ブリギッドの発言にターザが呆れたように振り向く。謝られて初めて、彼氏に振られた僕のことを気遣ってくれたんだと気づいた。だけどあれからもうひと月半も経っているし、逆に気遣われる方がいたたまれない。
日々が充実しているおかげで、確実に心の傷は癒えてきていた。
「もう、全然大丈夫ですから!僕も……デートでこんなところ来てみたいなぁ」
「きゃーっ。ターザ、チャンスじゃない?もしかしてメグム、気になってる人とかいるの?」
「え!そんな、いやいや、……いないですよぉ」
みんなからの視線が突き刺さるが、断じてそんな人はいない。一瞬木々の緑色につられてエメラルドグリーンの瞳が頭に浮かんだのは……単純に思い出しただけだ。
今度リアンと、ディムルドも誘って来てみてもいいかもしれない。
僕は自然と口角が上がってきて、少し俯く。こんな風にプライベートのことまで気軽に話せる友達がたくさんできて、嬉しいなぁ。
――オメガになってよかった。初めてそう思った。
順調に歩みを進めていると、目の前がパッと明るくなり、急に視界が開けた。
「わぁっ……!」
木の葉が額縁のように周囲を彩るなか、視界の半分は抜けるように青い空、もう半分はおもちゃのような街並みが広がっている。自分の目線より下を、黒地に白い模様の鳥が気持ちよさそうに旋回していた。
「ほら、あそこの高い建物がフィンジアスの役所よ。だからあの辺が私たちの住む街ってこと!」
「ほぇー……すごい……」
確かによく見れば、大きくて特徴的な建物には見覚えがある。それでも遠すぎて、人が生活している様子までは見えない。
それほどまでにこの街は大きいのだ。地球にいた頃も遠足や社会科見学で高いところに登ったけど、こんな風にじっくりと景色を楽しむことはなかった。
人間たちの生き様を、広い空や雄大な山が見守っているように感じる。日々生活していると自分のことでいっぱいいっぱいになりがちだけれど、どれも些細なことに思えてきた。
人々がどう生きてどうあがこうが、雄大な自然は揺るがないだろう。そのことになぜか安心する。
そこから少し歩いたところに、広い芝生の広がる公園があった。子供連れの家族や学生のグループなど、多くの人が思い思いに過ごしている。広いからみんな距離をあけて場所を取っていて、ぎゅうぎゅうになることもない。
僕たちもちょうどいい木陰をみつけて、持ってきたレジャーシートを広げた。太陽が中天に差し掛かり、歩いてきたおかげもあって上着がいらないくらい暑い。
着ていたパーカーを脱いでTシャツ一枚になり、勢いよく水を飲んだ。口元から溢れた水が顎を伝って落ちる。あ~、水もいつもより美味しく感じる!
161
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
そのオメガ、鈍感につき
颯
BL
オメガなのに18歳になってもヒートを迎えたことがない未熟なオメガ、浅香悠希。
国の定めた番マッチングまでの4年間、残された自由なモラトリアム期間を堪能しようとしていた悠希の前に現れたのは「運命の番」だと名乗る個性豊かなアルファ……達!?
なんてこったい、さよなら僕の平穏な大学生活!!
オメガバース作品です。
オメガの主人公を「運命の番」だと思っている3人のアルファが何とか攻略しようとするアホエロ系ほんわか?オメガバース作品になります。
一応BLカテゴリでハピエン保証ですが、アルファの女性&男の娘が登場します、ご注意ください。
毎度お馴染み「作者が読みたいものを書いてみた」だけです。誰の性癖にも配慮しません。
秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】
カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった──
十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。
下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。
猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。
だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ────
独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。
表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。
@amamiyakyo0217
壁越しの饗宴
おもちDX
BL
引っ越し先のアパートは、壁が薄い。夜な夜な隣人のエロい声を聞いて、俺は変な気分になるのを止められなかった。葛藤はある。なぜなら、隣に住んでいるのは金髪でチャラい感じの男子大学生だからだ。
ーーしかし彼は、俺がその声を聞いて、あまつさえオカズにしてしまっていることを知っていたのだった。
真面目っぽいサラリーマン(27)×チャラっぽい大学生(20)
章タイトルごとに視点が変わります。全編を通してR18なのでご注意下さい。
受けも攻めも倫理観低めです。でも可愛いお話になったと思います。
生意気オメガは年上アルファに監禁される
神谷レイン
BL
芸能事務所に所属するオメガの彰(あきら)は、一カ月前からアルファの蘇芳(すおう)に監禁されていた。
でも快適な部屋に、発情期の時も蘇芳が相手をしてくれて。
俺ってペットか何かか? と思い始めていた頃、ある事件が起きてしまう!
それがきっかけに蘇芳が彰を監禁していた理由が明らかになり、二人は……。
甘々オメガバース。全七話のお話です。
※少しだけオメガバース独自設定が入っています。
【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話
匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。
目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。
獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。
年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。
親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!?
言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。
入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。
胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。
本編、完結しました!!
小話番外編を投稿しました!
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
【完結R18】棲みついてた猫耳のあやかしに僕の初めてを奪われました
八神紫音
BL
※いきなり1話からエロいです。ご注意下さい。
僕、有働郁弥は大学2年生の20歳。
大学近辺で下宿中。
ある夜、ベッドで寝ていると股間のあたりがもぞもぞと……。
何事かと思うとそこにいたのは猫耳の男のお化けだった。
驚いて抵抗する間もなく僕はそいつにされるがままに……。
【BL】完結「異世界に転移したら溺愛された。自分の事を唯一嫌っている人を好きになってしまったぼく」
まほりろ
BL
【完結済み、約60,000文字、全32話】
主人公のハルトはある日気がつくと異世界に転移していた。運良くたどり着いた村で第一村人に話しかけてたら求愛され襲われそうになる。その人から逃げたらまた別の人に求愛され襲われそうになり、それを繰り返しているうちに半裸にされ、体格の良い男に森の中で押し倒されていた。処女喪失の危機を感じたハルトを助けてくれたのは、青い髪の美少年。その少年だけはハルトに興味がないようで。異世界に来てから変態に襲われ続けたハルトは少年の冷たい態度が心地良く、少年を好きになってしまう。
主人公はモブに日常的に襲われますが未遂です。本番は本命としかありません。
攻めは最初主人公に興味がありませんが、徐々に主人公にやさしくなり、最後は主人公を溺愛します。
男性妊娠、男性出産。美少年×普通、魔法使い×神子、ツンデレ×誘い受け、ツン九割のツンデレ、一穴一棒、ハッピーエンド。
性的な描写あり→*、性行為してます→***。
他サイトにも投稿してます。過去作を転載しました。
「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる