おっきなオメガは誰でもいいから番いたい

おもちDX

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 兄は時折僕に触れる藤真さんに憤慨していたらしいが、おにぎりを握りしめるだけで耐えたらしい。せっかくの柔らかいおにぎりが固くなってしまったんじゃないかと僕は心配した。
 家とかホテルに僕が連れ込まれるのでは? と心配しているみたいだけど、あれからも昼間の健全なデートが続いている。兄がついてくるのが嫌で、デートのときは家族にも告げずこっそりと出かけるようになった。なんだか遅れてきた思春期みたいで恥ずかしい。

 そして最近、僕は藤真さんに会うたび、胸がドキドキと跳ねるようになっていた。
 もともと僕を喜ばせる発言でドキっとさせてくるけど、なんだか最近は会う予定があるだけでそわそわと落ち着かないし、待ち合わせ場所で顔を見ると嬉しくて胸がぽかぽかする。偶然指先が触れるだけで心臓が跳ねて、もっと近づいたらどうなってしまうんだろうと想像してひとり赤面してしまう時間も増えた。

 藤真さんは大人っぽくて落ち着いていて、いつも僕を優先してくれる。こんなおっきな身体のオメガでも優しく気遣ってくれるし、誰かとのお付き合いがこんなに幸せなものだとは思いもしなかった。

 だけど……僕の中では、藤真さんがたまに自分を卑下するような発言をすることがずっと気にかかっている。

「オメガの君には、選ぶ権利があるんだ」
「どうして私に相手がいると思ったんだい? アルファなのに」

 その言葉の裏には、「アルファは相手を選ぶ権利などない。アルファの自分に相手がいるはずもない」という考えが透けて見える。
 確かに世間一般的にはアルファは残念な生き物だと言われがちだが、体質的にどうしようもない部分がほとんどなのだ。オメガに優秀な人が多いだけで、アルファが特別劣っているわけでもない。

 セミナー講師として人の前に立ち、堂々と生きて見える人がどうして?
 兄は藤真さんのことをネットで調べて、袴野財閥の血縁者じゃないかと言っていた。優秀なオメガを輩出することで事業を大きくしている家だ。それが何か関係あるのだろうか。
 
 僕がお付き合いをやめようと言ったら、彼は「やっぱり選ばれなかったんだな」とすぐ離れていく気がする。可愛いといつも言ってくれるし優しくされているけど、それは相手を喜ばせる術を知っているからで……別に僕のことを好きじゃないんだろうな、と気づいてしまった。

 人のことは言えない。僕だって手当たり次第アルファを捕まえようとしていたことは事実だし、結果として藤真さんという素敵な人と巡り会えたものの、偶然のなりゆきで付き合っていることは事実だ。

 「誰でもいいから」「じゃあ」で付き合うなんて、ひどく失礼なことだったと気づく。藤真さんはどういうつもりで僕に提案してきたんだろうか。
 表面的には順調なお付き合いを続けている僕たちは、実は薄い氷上に立っているのだ。――簡単に、割れそうな。

「だからって……どうしたらいいかわかんないな」

 別れたいわけじゃない。どちらかというと、惹かれていると思う。惹かれているからこそ誠実に付き合いたくて、でもそれをどう伝えたらいい……?

 藤真さんが出張セミナーでしばらく会えない間に悶々と考えていた僕は、久しぶりに会う今日になっても結論を出せないでいた。
 数週間ぶりに会えるのはとても嬉しいし、メッセージのやりとりはしていたとはいえ彼の口から出張中のいろんな話を聞きたい。だから、今日は純粋に楽しめばいいかな? なんて、ズルズルと先延ばしにしたい気持ちが強いのである。

 久しぶりに細身のタートルネックを着ると、胸まわりがパツパツだった。悩み事があったり、発情期の前になるととにかく食べてしまって、その分運動や筋トレも頑張るためあちこちボリュームアップしがちだ。
 発情期中にすっかり肉が落ちてしまうから、太りっぱなしにはならないけど。

「そういえば発情期、もうすぐだっけ?」

 項のあたりが敏感になっている気がする。タートルネックなら目立たないだろうと、僕は久しぶりにネックガードをつけた。
 こんな見た目でも、フェロモンが出始めるとアルファに襲われそうになったことがあるからだ。体格がそう変わらなかったので返り討ちにしたけれど、あのときの衝撃は記憶にしっかりと刻まれている。

 出かけるときにカジュアルなジャケットまで羽織ったのは、今日行く予定の店がいつもより大人向けのレストランバーだから。お酒を使ったデザートが美味しいと評判で、食事も兼ねて藤真さんを誘ってみたのだ。
 居酒屋などはブログの雰囲気から離れているため行かないし、そもそも僕は一人で行ける店を選びがちだ。藤真さんが僕の取材を兼ねた食事に付き合ってくれるようになったからこそ、選べる店の幅が広がっている。

 実は夜に会うのは初めてだったが、いつもと違う雰囲気の店に行ける期待はあっても、藤真さんを警戒する理由にはならなかった。

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