27 / 27
27.最終話
しおりを挟む麗らかなハレの日。僕たちは王都邸に集っていた。
「えええ!! ローラとテルルが!?」
「でかした! さすが俺の息子!!」
おっとりとした見た目どおり鈍感な母ジューノは、驚きの声を上げポカンと丸く口を開けた。テルルの母ユピテルさんはバシンバシン! と息子の背中を叩いて喜びを表している。
うちの父マウォルスとテルルの父メルキュールさんは、「どうぞ末長くよろしく……」みたいなことを隅でやっていた。
今日は結婚のお伺い、みたいな感じでお互いの両親に挨拶しているんだけど……もともと顔見知りだからかすでに決まったことのような反応だった。
うちのアウローラはやらん! お前はテルルに相応しくない! みたいな展開、ないわけ? ……ないか。
みんな自由で緊張感がなさすぎる。僕は唯一驚いている母をソファに座らせ、自分も隣に座った。五人も産んだとは思えないほど母は華奢で小さいから、立っていると目線を合わせるのも大変なのだ。
僕は母の反応が一番心配だった。ちょっと……かなり天然が入っているけど、我が家は母を中心に回っている。みんな母が大好きで、家族全員で取り合いの日々だったなぁ。
「ママ……テルルとのこと、認めてくれる?」
「もちろん! びっくりしたけど……ローラはテルルが生まれる前から大好きだったもんねぇ。ユピテルさんのお腹にくっついて離れなかったじゃない」
「えぇっ。そうだっけ?」
「でも、あぁ~っ。ローラがお嫁に行っちゃうなんて寂しいよぉぉ」
「いやっ、お嫁に行くわけでは……」
ないよね? まさか抱かれる側はお嫁ってこと、ないよねっ?
母は葡萄色の目を潤ませて僕に抱きついてくる。その小さな体に包まれると、幼い頃に戻ってしまったみたいに安心した。僕も抱きつき返して、ここぞとばかり母に甘えてしまう。
「僕……不安で。テルルとは番になれないし、どうにかして一緒になりたかった。結婚したからって、独占できるわけじゃないのに……」
「ローラ……」
身も心もテルルのものになってから、僕はテルルと目に見える繋がりがないことに不安を感じていた。やはり一般的なのは男女や、アルファとオメガのカップルなのだ。
テルルはまだまだ男盛りで、モテる。彼に群がる花たちを追い払う気概が僕にはなく、いつも勝手に不安になったり、苛々してしまう。別に、不安になるようなことをされた覚えもないのにだ。外ではさっぱりとした付き合いを心掛けているけど、二人きりの時はわりと……甘い時間を過ごしているし。
仕事で顔を合わせることもよくあるし、週に何度かは家に来てくれる。まっすぐに僕を見てくれていることがわかっているのに……あー、情けない。
テルルを番にできたらいいのに、なんて馬鹿みたいなことを考えてしまうことだってある。誰にも取られたくないから、どこかに閉じ込めてしまいたい。こんなときだけ、僕はアルファの性を実感させられる。
だから、恋人同士になってまだそれほど経っていないのに、僕から結婚を提案したのである。テルルはパカッと口を開けて驚いた、次の瞬間には「いいのか!?」と喜びも露わに僕を抱き上げてきた。
あのときの顔、可愛かったなぁ……じゃなくて。テルルが喜んでくれたから良かったものの、僕はいまだに後ろめたい気持ちになってしまう。
母にぎゅっと両手を掴まれて、僕は期待を込めて目を合わせた。明るい母なら「大丈夫だって!」と慰めてくれるはずだと、思ったんだけど……
「わかるぅぅ! ママなんて、番になっても不安なとき、あった!」
「え……」
母は力説した。自分はずっと家にいたけど、父は騎士団の仕事で帰ってこれない日もあった。あんなにも素敵な人、番がいたってモテないはずがない。寡黙だから尋ねないと今日なにしてたかも話さないし、不安になったときは必死で誘惑したと……
え、僕、なにを聞かされてるの?
「騎士団辞めて領地に行ってからもさぁ、パパはイケメン領主様だって大人気でさぁ……」
「ま、ママ……」
「ん?」
「後ろ……」
父の、母に対する執着は子どもの僕でも引くほどだ。あー、でもそうか。これだけ愛されている母でも不安になるときがあるなら、僕が不安になるのは当然かもしれない。
こんな気持ちになっているのは自分だけじゃないと知ることで、変な慰めよりはよっぽど励まされてしまった。母はそれを狙ったんだろうか。……いや、天然か。
父に抱き上げられている母をぼうっと見ていると、テルルに呼ばれた。ご両親の前に立ったら、にこにこ嬉しそうに出迎えられてほっとする。テルルは絶対に大丈夫だと言ってくれていたけど、一人息子を僕なんかが……と、ここでも不安に陥っていたのだ。
「あの……本当によかったんですか?」
「何が? 子供か? 全然いいぜ! うちは直系じゃないし、もし子供がほしいなら養子でも取るなり好きにしてくれ。そんなことより、メルク」
さっぱりした様子で断言してくれるユピテルさんはやっぱり男前だ。ほら、言っただろ? と言わんばかりの表情でテルルが僕を見てくる。
夫に呼ばれたメルキュールさんはユピテルさんの首元でごそごそしたかと思うと、ペンダントを取り外してテルルに渡した。それは、ユピテルさんが夫に貰ってからずっと大事にしていたものだったはずだ。
「アウローラ、これはお前に付けていてほしい」
「え……」
メルキュールさんの実家、ヴィミナーレ子爵家に代々伝わるという宝石は、ハッとするほど深いブルーのサファイヤで。――偶然とは思えないほど、テルルの瞳の色に似ていた。
思わず目頭が熱くなる。これは彼らが僕を、家族として認めてくれた紛れもない証拠だ。
すん、と鼻を啜ってからテルルにペンダントをつけてもらう。首に感じる重みに彼ら家族の歴史を感じて、背筋がシャンとした。これからの人生、増えた家族に恥じない生き方をしたい。
ふと気づけば僕の両親も僕たちを微笑ましそうに見つめていて、恥ずかしくて萎縮してしまう。照れ隠しにパパに抱きつこうかと思ったけど、その代わりにテルルの手を握った。
即座にぎゅっと握り返されれば、心に勇気が湧いてくる。テルルと一緒なら……なんでも乗り越えられる気がした。
いつの間にか、テルルは僕という人間の一部になっている。もし居なくなってしまったら、僕は呼吸さえまともにできないだろう。
それくらい、大切な存在。
これからの長い人生一緒にいれば、すれ違うことや、喧嘩だってあると思う。両親のように仲が良くても、嫉妬に駆られるときは駆られるのだろう。父のように誠実に、あるいは母のように愛嬌で、あらゆる障害を乗り越えていきたい。
夫婦円満のお手本は、幸いにもお互いの両親が見せてくれている。
「もう逃げるなよ、アウローラ」
「……」
長年の習慣は、テルルの心にも不安の影を落としているらしい。意外に僕よりも繊細なところがあるんだよなぁ。
僕は大丈夫だよって思いを込めて指を絡ませ、彼の耳元で囁いた。
「愛してるよ、テルル」
――――――――――
お読みいただきありがとうございました!
短編のつもりだったのに、この二人が可愛くてがっつりと書いてしまいました。
あと、いろんなプレイをさせたくなりますね……♡
もしよろしければ一言でも感想をいただければ嬉しいです。
なお、筆者は2024/3/10のJ.Garden55に参加し、初同人誌を頒布予定です。何もかも初めてなのでどきどき。
本作ではないですが同じ世界観の小説【貧乏貴族は婿入りしたい!】に書き下ろしを加えて、かわいい本になりました!(アウローラの両親のお話です♡)
もしご興味があれば。よろしくお願いいたします!
通販もBOOTHとコミコミにて開始しましたので、検索いただくか、筆者のマイページから飛べるリンクでご確認ください。
もしイベントに参加される方は、2024/3/10東京ビッグサイトで開催されるJ.Garden55のサークル番号【り04b】に私がいます!※万年青二三歳さんのサークルに委託させてもらってます。
ではまた、次の作品でお会いできることを願っています。
43
お気に入りに追加
221
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
〜オメガは体力勝負⁉〜異世界は思ってたのと違う件
おもちDX
BL
ある日突然、彼氏と異世界転移した。そこは現代日本と似ているようで、もっと進んでいる世界。そして、オメガバースの世界だった。
オメガと診断されて喜ぶメグムに、様々な困難が降りかかる。オメガは体力勝負って、そんなことある!?彼氏と徐々に深まる溝。初めての発情期。
気づけばどんなときも傍にいてくれたのは、口下手なアルファの雇い主だった。
自分に自信を持てない主人公が、新しい自分と、新しい人生を手に入れるまでのお話。
不器用な美形アルファ× 流されやすいぽっちゃりオメガ
過激な性表現のあるページには*をつけています。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
君は俺の光
もものみ
BL
【オメガバースの創作BL小説です】
ヤンデレです。
受けが不憫です。
虐待、いじめ等の描写を含むので苦手な方はお気をつけください。
もともと実家で虐待まがいの扱いを受けておりそれによって暗い性格になった優月(ゆづき)はさらに学校ではいじめにあっていた。
ある日、そんなΩの優月を優秀でお金もあってイケメンのαでモテていた陽仁(はると)が学生時代にいじめから救い出し、さらに告白をしてくる。そして陽仁と仲良くなってから優月はいじめられなくなり、最終的には付き合うことにまでなってしまう。
結局関係はずるずる続き二人は同棲まですることになるが、優月は陽仁が親切心から自分を助けてくれただけなので早く解放してあげなければならないと思い悩む。離れなければ、そう思いはするものの既に優月は陽仁のことを好きになっており、離れ難く思っている。離れなければ、だけれど離れたくない…そんな思いが続くある日、優月は美女と並んで歩く陽仁を見つけてしまう。さらにここで優月にとっては衝撃的なあることが発覚する。そして、ついに優月は決意する。陽仁のもとから、離れることを―――――
明るくて優しい光属性っぽいα×自分に自信のないいじめられっ子の闇属性っぽいΩの二人が、運命をかけて追いかけっこする、謎解き要素ありのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ありがとうございます!並走とっても心強かったです😭✨
ローラからのプロポーズは意外で、テルルは感激しました。お互いに「絶対自分の方が好き」と思ってますよ、実は❤️
キャラ強めの両親たち……みんな愛おしいです。ローラママ(ジューノ)はいくつになっても可愛いですよね。その片鱗は同人誌に書き下ろしの番外編で読めるかと思います。もしよろしければ✨
tomotoさん、初めまして。熱意あふれる、そして美しい感想ありがとうございます✨深く読んでいただけて、すごく嬉しいです!
私もはじめてβ×αを書いたのですが、彼らの葛藤が愛おしくてどんどんストーリーが進んでいきました。ダークなお話は…書けないので安心してください!😂
運命の番って好きになる理由は必要ないの?とよく思うので、アウローラとテルルは自分たちで運命を掴み取れたことに安心しました。恋をしている姿って「かわいい」ですよね。受けも攻めも関係ないです。
無自覚美人、中身も良い男にとんでもないギャップを持たせてしまいましたが、最強のテルルがちゃんと守ってくれます🔥
名前もこだわってるので褒めていただけて嬉しいです。テルルはローマ神話から名付けたのですが、髪の色は元素記号のテルルです。響きが可愛いですよね!
貧乏貴族まで…!ありがとうございます✨本をお届けできること、すごく嬉しいです😭
温かいお言葉、胸に沁みます。これからもがんばります!
そうなんですよ!可愛いですよね。
「るる」呼びに気づいてくださって嬉しいです✨
アウローラは勘がいいですからね。夢中になることがわかってたのかも🥰