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しおりを挟む「ご冗談を。私は騎士であることに誇りを持っています。ご令嬢にも失礼ではありませんか?」
「娘は君に執心なんだ。喜んで身を差し出すだろう」
僕はさり気なく周囲を見渡した。この男の相手をしている時点で僕の警備は意味を成していないし、ここで気を逸らして襲撃者の侵入を助けている可能性だってある。
ホールの中央では新たな音楽が奏でられている。ダイアナが相手を替えて、父上と踊っているだろうことが想像できた。
僕が目的のような話し方をしているけど、油断して妹になにかあったら大変だ。僕はこの話の通じない相手と会話しながらも、会場の様子に意識を配っていた。
――そのとき、
「ん!? むー!」
「手荒な真似をして悪いね。君は油断ならない相手だから」
死角から現れた複数の男が襲いかかってきて、僕は手足を拘束され口を布で覆われてしまった。いや、油断してたー!!
辛うじてできた一瞬の抵抗で上着のボタンが外れて、手すりの隙間から一階のホールへ落ちていく。音に溢れた空間でそれに気づく者はいなかった。
狭い通路から通用口を抜けると王宮内でも目立たない通りに出る。僕はよく知っていた。夜、ここを通るのは良からぬことを考える者しかいないことを……
誰か見ていなかっただろうかと考えてみるけど、一階の会場では主役の花たちが代わる代わる踊っていて、わざわざ二階の暗い場所を見上げる人なんていない。二階に配備されている騎士はたった二人で、もうひとりがここを動いてしまうと警備が手薄になりすぎる。もし気づいたら応援を呼んでくれるかなぁ……
手足を動かせず、声も出せない状態で運ばれながら冷静に考える。今日中に誰かが必ず気づいてくれるだろうけど、行き先は分かるまい。でも僕の能力が目的なら、殺されるようなこともないはずだ。
こんなことにも気付けないくらい、ポンコツな勘なんだけどね。それでも同盟更新の折では疎ましいと思われて襲われ、今度は利益になると思われてこんな事態を招いている。
(僕は、近衛にいないほうがいいんじゃ……)
王宮に危険を招く存在だと思われてしまったら、別の騎士団へと異動になってしまうかもしれない。ズン、と落ち込む気持ちを自覚してはじめて、僕は近衛騎士としての仕事に矜持を持っていたことに気付く。
騎士としてはそんなに強くはないかもしれないが、僕のこんな能力を褒めて活かしてくれたのが白騎士団だった。穏やかな人が多いからか他の騎士団で聞くような団員同士でのトラブルも少なく、働きやすい職場なのだ。
特にテルルが来てからは、僕も少しずつみんなと打ち解けてきたように感じる。僕の築いた強固な壁を、テルルは意図せずともゆっくり、溶かしていった。
これまで他人と一定の距離を置き続けてきて、仕事に支障はなかった。けれど最近は、同僚たちとちょっとした言葉を交わすことで王宮内のさまざまな情報を共有できる。
仕事に関係のない話でも、どこどこの店が美味しかったとか、誰と誰がいい感じだとか……そういう話を聞くのが意外にも楽しいことを知った。
スッと空気が冷たくなって、僕が現実逃避している間に王宮の外にまで来ていた。馬車に乗せられてしまえば、いよいよ行き先はわからない。
月が明るいことだけが、僅かな希望だった。雑に馬車へと乗せられて、運んできた男たちは御者席や周囲に散らばっていく。
「想像以上に上手く行ったな。ハハッ、これで私の商会も安泰だ」
「何が上手く行ったって?」
――突然、第三者の声が聞こえた。よく通る、この声は……
「おっ、お前は……! 早く馬車を出せ!」
「無駄ですよ。カディス商会、カディス男爵?」
馬車の中からはほとんど見えないものの、テルル以外にも騎士がいるのか剣戟の音が聞こえてくる。それなりに腕の立つ連中だと思ったが、そう時間もかからず制圧したようだ。
まんまと捕らえられて転がっているだけの僕って、役立たずすぎる……
僕に話しかけてきた人がカディス男爵らしい。「ヒッ」と小さな悲鳴が聞こえて、テルルが剣を突きつけている様子を想像した。最強の男を目の前にして、いち貴族なんかが逃げられるはずもない。
「チェックメイトだ。大人しく裁きを受けてくれ」
はぁ~、よかった。誰が最初に気づいたのかは分からないけど、一人で行動せず仲間を集めて先回りしてくれたようだ。この冷静さは、団長かな?
僕が馬車の床でひとりホッとしていると、扉が外から開けられた。月の光を受けて……輝く男がそこに立っている。
燕尾服を着ていたって、テルルはどこからどう見ても立派な騎士だ。対して僕は、騎士服を着て勤務中だったのにこのありさま……まるで月とスッポンだ。そして僕には、スッポンほどの根性さえなかった。
「……」
「大丈夫か? 遅くなってごめん」
「はぁ、ケホッ。ありがと……」
「心配した。アウローラがボタンを落とさなかったら、いまも気づいていなかったはずだ」
テルルが猿轡を外して、手足の縄を剣で切ってくれる。その手が少しだけ震えていることに気づいて、僕は身体を起こす。未だに痺れる手で、テルルの手を取った。……なんでテルルが震えるんだよ。
なんと、僕が攫われたことに最初に気づいたのはテルルだった。二階から何かが落ちてくるのが見えて、見上げると一瞬だけ僕の背中が見えたらしい。拾ってみれば近衛服のボタンだったため、ダイアナは父に任せてテルルは即座に行動した。同僚に知らせ情報を集めながら、救出へと動いてくれたようだ。
テルルがこんな冷静な判断をできるようになっていただなんて……感心するとともに寂しさが胸に募った。
僕たちがなにも言えずに手を握り合っていると、気まずそうにソル団長が顔を出した。
「ッゴホン。これから奴らを軽く尋問して、他の目的がなければ舞踏会はこのまま最後まで行われる。お前たち、怪我はないな? しばらく控室で待機していてくれ。……まぁ、アウローラだけが目的っぽいな。お前も災難だなぁ」
「……すみませんでした」
「お前が謝る必要ないだろ」
痴話喧嘩でも感動の再会でもいいから、馬車を降りてからにしてくれ! と団長に懇願されて、僕たちは舞踏会でいくつか用意されている控室へと向かった。
テルルが僕を支えようとしたけど、その手を素気なく振り払う。これ以上惨めな気持ちに、させられたくなかった。
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