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 馬車での移動は尋問の時間だ。

「さてと、説明してくれるよね?」
「俺は……最初から結婚するつもりだった。婚約者と言ったのは、国を跨いで追いかける大義名分として必要だったからだ」
「最初からって……」

 そういえば初めて一緒に食事へ出かけたとき、結婚するという噂に対してほんと? と僕が聞いたら『俺はそのつもりだ』って返されて落ち込んだことを思い出した。
 僕はてっきり王女様との結婚に対して言ってるんだと思ってたけど……こっちだったの!?

「わかるはずないじゃん! セレスのばか!」
「む。馬鹿なんて初めて言われたな……さすがウェスタだ」

 もう、暖簾に腕押しだ。なんなら手を繋いで馬車に乗っている今はずっと幸せそうな顔をしている。
 自然に膝の上へと乗せられそうになったのを拒否して妥協案として受け入れたのが手を繋ぐことだった。
 
 セレスの彫刻のような美貌にふっと甘さが加わり、気づけば見惚れてしまっていてなにもかもどうでも良くなってくる。惚れた弱みだ。もういいか……

「そもそも、僕との結婚なんて、認められないんじゃないの?」
「もう国王陛下直々に認められている」
「え! どうして? 女ならわかるけど、子どもだって産めないのに」
「これは最近の研究で判明したことだが、かつて同性同士でも子どもを作れる魔法があったらしい。古の魔法研究でそれを再現することに成功した。まだその魔法は俺とロディーしか使えないがな。ロディーのパートナーは女性だが、もう妊娠している」

 先回りして話進めすぎじゃない!?
 別に断りたいわけじゃないけど……その余地がなさすぎて笑える。

「僕が嫌だって言ったらどうするの?」
「……嫌か?」

 だからそれ! ずるい……綺麗なアメシストの瞳が切望するように僕を見てくる。
 馬車の窓から差し込んだ真っ直ぐな光で、キラキラと瞳が輝く。複雑な色に分解された光は、混ざりあって僕へと届く。

「僕がしわしわヨボヨボのおじいちゃんになっても愛してくれる?」
「当然だ」
「愛情表現はたくさんしてほしい。セレスは言葉が足りなすぎるから」
「う……善処する」
「僕は子ども好きだから、たくさん欲しいなー」
「……」

 ちょっとふざけてみたら、セレスが手で顔を覆ってしまった。見えてる耳が赤くなっていてかわいい。
 たまにすごいことをするくせに、まだ初心なんだよなー。まぁ、僕が筆おろしして以来最後まではやってないわけだし? 僕から子作りしよって言うのは刺激が強すぎたみたいだ。
 
 というか、子どもって僕が産む流れだよね……? どうやって?
 ……現実的に考えると恐ろしすぎるから、今はまだ考えないでおこう。

「セレスの家族になんて言われるかな……」
「噂話には敏感な家だから、もう知っているだろう。何を言われようととっくに出た家だ。気にしなくていい」
「そんなこと言ったって、気にするよぉ……」
「俺は絶対に諦めない。それをわかって貰えばいいだけだ」

 セレスが格好いいんですけど! 思わず「抱いて!」と叫びたくなった。

 しかし――

 馬車はなかなかの強行日程で進み、眠るときはディルフィー側が付けてくれた随行員が立ててくれた天幕か、道中に宿屋があればそこに宿泊した。

 僕たちはたいてい寄り添って、触れるだけのキスをして眠った。僕は、たぶんセレスも、あの事件がトラウマになっていないか心配だったし、やはりアクロッポリへ戻ってから……という気持ちが強かったからだ。

 そういえば、僕はこれからセレスの家に住むらしい。住んでいた部屋を引き払ってしまったからどうしようとは思っていたのだ。
 あのお屋敷なら探せば空いてる部屋あるよね、というようなことをセレスに告げたら、またもや僕は驚かされてしまった。

 「主人の妻の部屋がある」「当たり前だろう」「……嫌か?」ときた。
 妻か……。正式には夫夫だけど、僕の夫がセレスで、セレスの夫が僕?
 馴染みがなさすぎる称号だ。も、もちろん嫌じゃないですとも! あのお屋敷の人はヒュペリオさんを筆頭に、良い人ばかりだったし。

 生活の変化への不安はある。やっぱり反対する人も少なからずいるだろうし。
 だけど、これからずっとセレスと一緒にいられることを思うと、とにかく嬉しかった。

 変な動悸と期待を胸に抱えそわそわしながらも、僕たちはアクロッポリの王都へと到着したのだった。



――――――――――



いつもお読みいただきありがとうございます。
やっとここまで来ました。
あと一週間で完結します!

感想やエール、動く栞に毎日励まされています。
創作の力であり、生きる糧です。

あともう少し、お付き合いください。
よろしくお願いします!
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