12 / 56
12.ことばが足りない※
しおりを挟む
「……」
「…………」
永遠にも思えた一瞬の間、僕はセレスと見つめ合った。正直、頭に血が足りていないからちゃんと状況を理解できない。
なんでおやすみって言ったのにまた来たの? という当然の疑問よりも、あとちょっとでイけたのに……という男としての、生物としての欲求が身体を支配していた。
その間がもう少し長引けば、僕も冷静になって身体も落ち着きいろいろと言い訳を考えだしただろう。だけどセレスの思考回路と決断は早すぎた。
「ウェスタ」
「あっ、」
セレスはすたすたと僕の方へ歩み寄ってきて、名前を呼んだあと、ぶつかるように唇を重ねた。端正な顔がすごい勢いで近づいてきたことに驚いて、咥えていた服がぽろりと口元から落ちる。
なにも言う間を与えられず感じたキスの感触に、昂ぶっていた身体は勝手に歓喜した。一瞬全身が強張ったようにぎゅっと力が入り、その後ふわっと弛緩する。ぶつけて触れるだけの、つたないキスだった。
「んんっ……」
屹立を掴む手に力が入ったせいで、その一瞬で……なんてことだ……僕は達してしまった。甘だるい解放感が全身を包む。
自分の手に生暖かい精液がかかったことで、やっと現実が僕の元へ追いついてきた。さっと冷静になる。いや、冷静じゃない。
ど……ど、どうしよう。やばい!
セレスが顔を離した。至近距離でじっと見つめられているように感じるけど、とてもじゃないが目を合わせられない。顔が熱くて、泣きそうなくらい恥ずかしかった。
目を伏せると、すっかり萎えた僕自身と汚れた下肢が視界に映る。あーあ、結局パジャマも汚れちゃったし。
言い訳しなきゃいけないことは山ほどある。聞きたいこともある。お互いに何かを尋ねるにしても尋ねられるにしても、とにかくこの状態じゃ無理だ。
用意しておいたちり紙で手と下肢を雑に拭って、服も直した。ちょっとベトッとしてるけど致し方ない。その間も刺さるような視線を感じてたんだけど……沈黙が怖すぎるし、なんでもいいから何か言ってほしかった。
よし。そう来るなら、こっちだって何もなかったことにしてみよう。
「セレス、どうしたの? もう寝たんだと思ってた」
「明日は朝から仕事になってしまったから、寝る前に伝えておこうと思って」
「う、あ、そうなんだぁ……」
「ウェスタ」
「は、はい!」
「性欲の解消なら、俺が付き合おう」
なにそれ。
処理を事務的に付き合ってくれるって? しかもキスのサービスつきで?
どういうつもりで言っているのかわからない。けれど僕は、セレスの言葉にカチンと来てしまった。
「別に、もうすぐ結婚する人にお情けで世話してもらわなくでも大丈夫ですぅ」
「……」
「今日はちょっと。偶然、変な気分になっちゃっただけでっ、僕なら相手なんて簡単に見つけられるから! ――へ? うわっ!」
気づけば僕の視界にはセレスと……天井が映っていた。へ、押し倒された?
わけも分からず抵抗しようとしたが、セレスが短く何かを呟いたかと思うと、両手が頭上で、何かに縛られたかのようにまとめて拘束された。えっ、魔法だよね? 魔法ってこんなことできんの!?
あっけに取られている間にセレスは僕の脚に乗り上げ、完全に身動きが取れなくなってしまった。
セレスは……すごく怖い顔をしている。アメシストの瞳も黒に近いくらい色濃く淀み、髪の色と相まって冷酷にさえ見えた。
眩暈を起こしたみたいに、ちょっと景色が揺らいでいるような……というか、本当にセレスの周りだけ透明な靄のような何かがある。薄暗い部屋の中で、ランプに照らされて影が揺らめいた。
「せ……セレス? どうしたの? なんか、それ……」
「……るせない」
「え?」
「俺は、ウェスタが他の誰かに身体を触れさせるなんて、許せない」
一言一言はっきりと告げられたその言葉に、僕は喜べばいいのか怒れば良いのかわからなかった。
セレスからはずっと、ピリピリする圧みたいなものを感じる。あ、物理的な圧ももちろんかけられてるけど。そうじゃなくて……魔力なのかな? 魔力が可視化できるものなのかは知らないけれど、セレスから漏れ出しているような。
ピシ、ミシ、と耳障りな音も周囲から聞こえてくる。陶器にヒビが入ったときみたいな、固いものに強い圧をかけた時のような音。ベッドサイドにある香油の瓶や魔導ランプが音の源になっている気がした。
「あ! ちょっと……やぁ!」
突然、セレスは僕の着ているパジャマの裾から捲くって上にあげ、僕の視界を塞いでしまった。当たり前だが……あっという間に身体は丸見えだ。いや、ほんとに、ちょっと恥ずかしすぎない!? このパジャマ駄目だろ!
なんとか身体をよじって抵抗を試みるけど、腕と脚を拘束された状態じゃ、腰をくねくね動かしているだけにすぎない。薄いパジャマ越しに、僕の上にいるセレスの僅かなシルエットだけが見える。
「…………」
永遠にも思えた一瞬の間、僕はセレスと見つめ合った。正直、頭に血が足りていないからちゃんと状況を理解できない。
なんでおやすみって言ったのにまた来たの? という当然の疑問よりも、あとちょっとでイけたのに……という男としての、生物としての欲求が身体を支配していた。
その間がもう少し長引けば、僕も冷静になって身体も落ち着きいろいろと言い訳を考えだしただろう。だけどセレスの思考回路と決断は早すぎた。
「ウェスタ」
「あっ、」
セレスはすたすたと僕の方へ歩み寄ってきて、名前を呼んだあと、ぶつかるように唇を重ねた。端正な顔がすごい勢いで近づいてきたことに驚いて、咥えていた服がぽろりと口元から落ちる。
なにも言う間を与えられず感じたキスの感触に、昂ぶっていた身体は勝手に歓喜した。一瞬全身が強張ったようにぎゅっと力が入り、その後ふわっと弛緩する。ぶつけて触れるだけの、つたないキスだった。
「んんっ……」
屹立を掴む手に力が入ったせいで、その一瞬で……なんてことだ……僕は達してしまった。甘だるい解放感が全身を包む。
自分の手に生暖かい精液がかかったことで、やっと現実が僕の元へ追いついてきた。さっと冷静になる。いや、冷静じゃない。
ど……ど、どうしよう。やばい!
セレスが顔を離した。至近距離でじっと見つめられているように感じるけど、とてもじゃないが目を合わせられない。顔が熱くて、泣きそうなくらい恥ずかしかった。
目を伏せると、すっかり萎えた僕自身と汚れた下肢が視界に映る。あーあ、結局パジャマも汚れちゃったし。
言い訳しなきゃいけないことは山ほどある。聞きたいこともある。お互いに何かを尋ねるにしても尋ねられるにしても、とにかくこの状態じゃ無理だ。
用意しておいたちり紙で手と下肢を雑に拭って、服も直した。ちょっとベトッとしてるけど致し方ない。その間も刺さるような視線を感じてたんだけど……沈黙が怖すぎるし、なんでもいいから何か言ってほしかった。
よし。そう来るなら、こっちだって何もなかったことにしてみよう。
「セレス、どうしたの? もう寝たんだと思ってた」
「明日は朝から仕事になってしまったから、寝る前に伝えておこうと思って」
「う、あ、そうなんだぁ……」
「ウェスタ」
「は、はい!」
「性欲の解消なら、俺が付き合おう」
なにそれ。
処理を事務的に付き合ってくれるって? しかもキスのサービスつきで?
どういうつもりで言っているのかわからない。けれど僕は、セレスの言葉にカチンと来てしまった。
「別に、もうすぐ結婚する人にお情けで世話してもらわなくでも大丈夫ですぅ」
「……」
「今日はちょっと。偶然、変な気分になっちゃっただけでっ、僕なら相手なんて簡単に見つけられるから! ――へ? うわっ!」
気づけば僕の視界にはセレスと……天井が映っていた。へ、押し倒された?
わけも分からず抵抗しようとしたが、セレスが短く何かを呟いたかと思うと、両手が頭上で、何かに縛られたかのようにまとめて拘束された。えっ、魔法だよね? 魔法ってこんなことできんの!?
あっけに取られている間にセレスは僕の脚に乗り上げ、完全に身動きが取れなくなってしまった。
セレスは……すごく怖い顔をしている。アメシストの瞳も黒に近いくらい色濃く淀み、髪の色と相まって冷酷にさえ見えた。
眩暈を起こしたみたいに、ちょっと景色が揺らいでいるような……というか、本当にセレスの周りだけ透明な靄のような何かがある。薄暗い部屋の中で、ランプに照らされて影が揺らめいた。
「せ……セレス? どうしたの? なんか、それ……」
「……るせない」
「え?」
「俺は、ウェスタが他の誰かに身体を触れさせるなんて、許せない」
一言一言はっきりと告げられたその言葉に、僕は喜べばいいのか怒れば良いのかわからなかった。
セレスからはずっと、ピリピリする圧みたいなものを感じる。あ、物理的な圧ももちろんかけられてるけど。そうじゃなくて……魔力なのかな? 魔力が可視化できるものなのかは知らないけれど、セレスから漏れ出しているような。
ピシ、ミシ、と耳障りな音も周囲から聞こえてくる。陶器にヒビが入ったときみたいな、固いものに強い圧をかけた時のような音。ベッドサイドにある香油の瓶や魔導ランプが音の源になっている気がした。
「あ! ちょっと……やぁ!」
突然、セレスは僕の着ているパジャマの裾から捲くって上にあげ、僕の視界を塞いでしまった。当たり前だが……あっという間に身体は丸見えだ。いや、ほんとに、ちょっと恥ずかしすぎない!? このパジャマ駄目だろ!
なんとか身体をよじって抵抗を試みるけど、腕と脚を拘束された状態じゃ、腰をくねくね動かしているだけにすぎない。薄いパジャマ越しに、僕の上にいるセレスの僅かなシルエットだけが見える。
74
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
強制悪役令息と4人の聖騎士ー乙女ハーレムエンドー
チョコミント
BL
落ちこぼれ魔法使いと4人の聖騎士とのハーレム物語が始まる。
生まれてから病院から出た事がない少年は生涯を終えた。
生まれ変わったら人並みの幸せを夢見て…
そして生前友人にもらってやっていた乙女ゲームの悪役双子の兄に転生していた。
死亡フラグはハーレムエンドだけだし悪い事をしなきゃ大丈夫だと思っていた。
まさか無意識に悪事を誘発してしまう強制悪役の呪いにかかっているなんて…
それになんでヒロインの個性である共魔術が使えるんですか?
魔力階級が全てを決める魔法の世界で4人の攻略キャラクターである最上級魔法使いの聖戦士達にポンコツ魔法使いが愛されています。
「俺なんてほっといてヒロインに構ってあげてください」
執着溺愛騎士達からは逃げられない。
性描写ページには※があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる