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高身長くんを抱きたい! 第2話

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「よっさんが当てられる訳無いんだよな」
多分、キッチンでコーヒーを啜る人には聞こえてない
爪で弦を弾く。
指の腹で弦を押さえる。
この曲が大好きって訳でもないし、弾きやすいって訳でもない。
なんとなく、自分の心情に合ってる気がして自然とこの曲を弾いていた。
「見える、あなたのいつもの姿が」
小さく口ずさむ
「違う様に見えた日」
まさに今日の笑顔がそうだった
いつも僕に向けてくれる笑顔そのままだったと思う
なにかのマジックにかかってしまったんだろうか
誰かを好きになるとフィルターがかかるなんて聞いたことがあるけれど、僕はイマイチピンとくるようなエピソードに出会ったことが無い。
「いつもの、友達と違うみたい」
よっさんはよっさんだと思うけれど
それでも今日は違う気がする。
心がモヤモヤとする
さっきのはヤキモチだったんだろうか。
この曲弾いてるとモヤモヤするから不自然だけどもう切ってしまおう。
なんとなく収拾がつくようにコードを刻み、左手で弦を押さえると音がピタリと止まる。
「…ふぃー。よっさん分かった?」
キッチンの方に目線を配ると、柔らかく笑うよっさんが居た。
「…分からん。けどいい曲やった。木元この曲好きなんか?」
「んー…好きは好きやな。なんか、今はこの曲な心情やったわ」
素直にそう言うとメガネの奥のよっさんの目がたちまちに丸くなった。
「…そうなんか。」
「え、なんでビックリしてんの?この曲ほんまは知ってた?」
「いや知らん。…なんか寂しそうなメロディだったから」
ズズズ、とコーヒーを啜る。
寂しそう、確かに寂しい曲かもしれん。
僕は今寂しいんだろうか?
どちらかと言えばモヤモヤとする
「別に寂しないよ、なんか歌詞がね僕の心情って感じやったんよ」
教えへんけどな。とニタリと笑って見せると困ったように笑い、はいはい。とまるで子供に言い聞かせる親のように返される。
それがなんだか悔しくて。
膝に置いてあったギターをソファに置き、席を立つ。
キッチンのシンクに手をついて立っている大男の側まですり寄った。
「お?なんや」
質問には返さず背中に回り込み抱きしめる。
「な、なんや?なんやの急に。どないしたんや」
ビックリしたのかあたふたして、早口になる。
肩甲骨の間、背中のど真ん中に顔を押し付け深呼吸するとベッドと同じ柔軟剤であろういい香りとコーヒーの香ばしい香りがした。
「何でもないよ、ただ抱きつきたくなっただけや」
「木元はよう分からんな」
ゴクリとコーヒーを飲み込む音が背中に当てた耳に届く。
僕がよっさんを好き?いや、セックスマジックだ。
昨日があれだけ濃厚だったんだ。そりゃ勘違いもするだろう。
それに、もし好きだったとして振られたら友達ですら居れなくなってしまう可能性だってある。
それだけは嫌。
「木元、そろそろ出るで。はよ離れて着替えてこい」
背中から伝わるよっさんの低音がとても心地良い。
「あと2分だけこうさせてや。したら着替えるから」
すこし黙り込んだ後、分かったと返事が聞こえた。


「すげぇ人や…」
関係者席と書かれた席に座り、頼んだノンアルコールカクテルを1口飲む。
ホラーゲームを題材にしているからか店内は少し暗い。
暖房が効いていてとても暖かい。
ステージ前に用意されている席には所狭しと女の子達がひしめき合う。
彼のイメージカラーが緑なのか、緑の何かを身につけてる子が多かった。
「モテモテですやん…」
つまらん。と素直に思った。
頬杖をついて時計を見やる、みやびが出てくるまであと5分。
トークが40分。
その後このホラーゲームで一時間半ほど遊ぶらしい。
まぁよっさんがあーだこーだ喋ってるのおもろくて好きやしええかぁ。
自己完結をして店内をぐるりと見渡す。
自分が1番愛用している殺人鬼の等身大パネルを見つけてスマホを取り出そうとした所で声をかけられた。
「『太郎』さんですか?」
頭の上から降ってきた声はこれまた低い男の声だった。
声の方を見上げると赤い髪をしたつり目の男が立っていた。
「そうやけど…なんで知ってるんすか?」
「みやっちゃんから聞きました」
みやっちゃん…みやびのあだ名?
つまりよっさんの知り合いか?
「よ…みやびのお知り合いですか?」
危ない危ない。
絶対本名で呼ぶなよ、と店に入る前に釘刺されてたん忘れてた
向かい合った席に座った男は見た目はバンドマンか
耳にはいくつもピアスが付き、派手な髪に大きいつり目、細い眉。
マスクをしているから人相はよく分からない。
「ギター弾かれるんですよね」
やっぱりか。
「そうですよ。何か楽器やられてるんですか?」
その質問が終わったと同時に客席から黄色い歓声が上がった。
ご登場ですか
ステージを見上げるとキリッとしたみやびが小さく手を振っていた。
「ベースをやってるんです。」
目線はステージに釘付けのまま、さっき僕がした質問に返してくれたようだった。
「へぇベース。なんでみやびと知り合いなんです?あなたも実況者?」
僕もステージに目線を戻す。
手持ちマイクを持って雑談をしているようだった。
時々アハハと客やMCが笑う。
「僕『ウスター』って言います。ウスターソースのウスター」
別にそこまで聞いてないけど…ウスター?聞いたことあるな
多分よっさんから聞いたんか、よっさんの配信で聞いたんかどっちか
「一緒によく配信しとる?」
「見てくれてましたか!結構みやっちゃんにはお世話になってて。太郎さんとの配信好きなんですよ、純粋にファンです」
目線を感じウスターの方へ向くと多分笑ってる?笑顔を浮かべてると思う。
「そりゃありがとうやなぁ」
それを聞くと満足そうにまたステージに目線を戻した。
40分のトークの間、ぽつりぽつりとだがウスターと話をした。
で、分かった。
多分彼はよっさんの事が好きだ。
ライクじゃなくて、ラブの方で。

こんな短期間にゲイに出会うことある?
僕はついてるなぁ。



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