君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ

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喜悦

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「ッ、放せッ!」

 シュンヤが腕を振り解こうとするけれど、逃がさないようにさらに強く掴む。
 たまらなく彼が欲しい。彼のうなじに噛みつきたい。
 そして、この衝動の中でさすがに確信してしまった。するしかなかった。

「……ヒート、だったんだ?」
「ッ! ちがうッ」

 その声は裏返っている。

「……ずっと、アルファだって思ってた」
「ちがうって言ってる!」
「オメガだったんだ」
「だからッ!」

 予想は当たっていた。こんな風に指摘して、可哀想な事をしていると思う。
 しかし同時に、歓喜に震えている自分もいる。

 ずっと心の隅で、シュンヤがオメガだったらと願っていた。
 けれど隣に並ぶ口実として、アルファ同士という事にしておく方が都合が良かった。
 そして何より、下劣な目をする周囲と、自分は違うのだと思いたかった。

 だけどそんなものは全部上っ面だ。本当は欲しくてたまらなかった。彼の全てを自分のものにしてしまいたい。親友のポジションも、恋人のポジションも自分だけでいい。
 
 逃げようとする彼を引き寄せて両手首を掴むと、正面から伏した頭を見下ろす。

「バレたくないから、部活に入るのがイヤだったの?」
「ッそんなんじゃ」
「オメガだと思われるのが、イヤだったんだよね」

 手首が酷く震えている。
 そして逃げられないと悟ったのか、彼は頭半分低い位置から睨みつけてきた。

「…………その目で、見るなっ…………」

 涙がポロポロと零れていく。

 それが、彼の本心だった。

 いつも、胸の内で抱え込んでいたのだろう。
 入学式のとき、何もかも諦めた目をしていたのは、オメガになって特異な目で見られるようになったからなのだろう。そして、色んなことを諦めてきたからなのだろう。女子にだけ優しく振舞うのは、男の部分を取り繕いたかったからなのかもしれない。


「……オレ、アルファで良かった」

 思わず口にすると、憎しみのこもった眼力で睨まれる。
 酷だと分かっているけれど、やっぱり自分は身勝手な人間だとナオキは思った。言わずにはいれない。

「おまえがオメガだから、アルファで良かった」
「…………は?」
「オレたち、番になれるよね」

 シュンヤが唖然とした表情になる。

「多分、一目惚れだった。オレと出会うために、おまえはオメガに生まれて来たんだよ」

 瞬きする目から、ぽろりと涙が落ちていく。

「…………最悪じゃねーか」
「最高だろ?」
「は……っ」

 動揺しているのか、再び手を振り解こうとするけれど、力が定まっていない。

「ねえ、番になろう。ヒートが穏やかになるかもしれない。少なくとも、フェロモンはオレにしか分からなくなるよね。周りに勘づかれることは減る」
「っオマエ、適当言ってるだろっ……」
「まさか。フェロモンが漏れなくなれば、今よりも確実に自由になれる。シュンヤもそう思うでしょ?」

 自由、という言葉にナオキは内心で嗤う。嘘だ。完全に束縛するつもりでいる。番は永遠に解消してやらないし、自分が噛んだのだと周囲にほのめかすつもりでいる。”ナオキのオメガ”というレッテルを貼られて彼は生きていくことになる。

 シュンヤの潤んだ瞳は揺れている。
 一週間ヒートで苦しんで、冷静な判断力を失っているだろう。追いつめられた状況で甘言をかけられて、何が最良の道なのか分からなくなっているだろう。
 落ち着けば断られるはずだ。けれど、ヒートは三カ月ごとにやってくる。チャンスは何度でもある。

「今すぐに決めなくてもいい。でもオレは諦めないし、シュンヤにもバスケを諦めてほしくない」

 すると、シュンヤが縋るような目で見上げてきた。
 ナオキは喜悦で顔が歪みそうになるのを堪えて、完璧な微笑みを作った。

 気高い狼のような彼だけれど、その本質は可愛い可愛い猫だ。必要なものは見せかけの選択肢。それから、揺るがないと思える居場所を与えてやる事だろう。部活に勧誘したときのように、これから毎日、優しい言葉を溺れるほどに注いでいこう。

「……知ってると思うけれど、オレは相当執念深いから、覚悟しててね」
「っ」

 ヒートがぶり返したように、彼の身体が震えた。


 そのうなじに噛みつきたくて溜まらず、ナオキの歯はうずうずとした。





おわり

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感想 1

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みんなの感想(1件)

たろじろさぶ

執着アルファ、番発見❗
さぁ、頑張れ😄

これからふたりがどう変わっていくのかなぁ。
ぜひ続きが読みたいです。

2023.04.02 市川パナ

番発見!
応援、ありがとうございます!

続くならライバルたちが立ちはだかりそうです……?!
思いついたら書いてみたいと思います。

解除

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