【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

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世界観崩壊注意

IF:メスガキ系主人公☆ロイズくん①《世界観崩壊注意》

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序盤だけシリアスのコメディです

【注意】
主人公が関西弁の論外系クズ男子になっております。関西弁です。
名前がロイス→ロイズになっております。

お口がとても悪いのでご注意ください!ザコが口癖です!
他のキャラクターは一緒ですが、主人公の影響でバタフライエフェクトが起きてます。
♡喘ぎ注意。


***


「みんなザコやなぁ」

 騎士学校で同級生たちを全て転がし、俺はふんと鼻で笑った。
 数年前にオメガやって診断されたけど、こんなに強いねんからオメガなわけあるかい。

 そのとき転がっているひとりが起き上がった。

「ぐ! この……!」

 ――たしかミカエル、とかいう名前のやつだ。
 しかし木剣を構えて睨んでくるが足元はフラフラで、立ってるのがやっとに見える。
 俺はフン、と小気味よく鼻で笑ってやった。

「まだやるん? 無駄やで」
「知るか、俺が勝つまでやるに決まってんだろ……!」

 俺は木剣をくるんと振るって構えた。

「ほなら立つ気なくなるまでやったるわ」

 立ち向かってくるんなら、完膚なきまでに打ちのめすまでや。
 それに、ミカエルの体からはアルファの匂いがぷんぷんしとって気に食わん。
 その匂い自体は嫌いやないやけど、アルファやって主張してるみたいで存在がやかましい。

 わき腹を剣先で突くと、ミカエルは「づっ」と呻いて膝をついた。
 防具着とるのに生ぬるい。
 そもそも弱すぎるわ。
 俺は溜め息をついてみせた。

「はぁー。ザッコ」
「く……!」

 ミカエルは脂汗を滲ませ、悔しさを隠さずに言う。

「すぐに倒してやるからな、ロイズ……!」
「は、楽しみにしとるわ」

 その威勢もプライドもぜんぶへし折ったる。

 






 初めてのヒートが起きたのは、この翌日のことだった。
 全身が熱っぽい。そして肛門がジクジクと疼いとる。
 これまでオメガ性と診断されつつも認めて来んかったけど、こうなれば性別は認めるしかあらへん。せやけど認めるのは性別だけや。何も変わらん。

 しかし祖父は屋敷の使用人をほとんど解雇したあと、冷徹に告げた。

「屋敷から出るな」

 途端に怒りが沸騰した。

「アホ抜かすなや。抑制剤飲んどったら平気や」
「オメガだと確定した今、騎士の道は断たれた。夢を見るのはやめろ」

 会話も無駄、というように祖父は仕事へ出ていった。
 ボケカスが――
 怒りが溢れてきて、握りしめた拳からミシミシと軋んだ音が立つ。

 戦争の英雄とか何とからしいが、老いぼれが偉そうにしおって。
 俺が潰したる――。あのジジイも勝手に決めた退学も潰したる。

 学校に無理やり行ったが自主退学の手続きが済ませられており、「ふざとんちゃうぞ」と教師連中と揉み合う。
 最中に割りこんできたのは、殺伐とした顔のミカエルだ。

「ロイズ……」
「は? きみも文句あるんか?」
「勝ち逃げは許さねえ。テメエの家に行くから首洗って待ってろ」
「――お前が首洗っとけや、ザコが」

 祖父の圧力で退学は取り消せんかった。
 そして屋敷でひとりで研鑽をつむようになってから、ミカエルは宣言通りたびたび訪問してきた。
 執事が毎回追い返そうとするが、不戦敗になってたまるかい。
 その都度引き留めて転がしまくる。
 なんでコイツが騎士学校に通えて、俺が退学やねん――。
 ミカエルの腕が少し上がってきたのもこざかしくて、もどかしさに拍車がかかる。


 さらに約一年後、祖父から爆弾発言を聞いて耳を疑った。

「は? アルファのガキを養子にする……?」
「そうだ。家督もじきに譲る予定だ。良くしなさい」

 怒りで血管がプツッと切れていた。

「ふざけとんちゃうぞ……。俺が次期当主になるに決まっとるやろが」

 祖父は話にならないというように背を向けた。
 そして翌週、汚らしいクソガキを連れてやってきた。

 黒髪はざんばら。目は荒んでいて、貴族どころかまともな平民だったのかも怪しい。
 紫の瞳と顔立ちだけは王族のようで美しかった。

 そして気付いた。
 もしかしたら、このガキって俺の許嫁か……?
 ――無理や。むりむり。
 抵抗感ありすぎて頭が割れそうや。
 せや……、ええこと思いついた。

 俺は薄笑みを浮かべ、ガキを見下ろした。
 跡継ぎ言うんなら、追い出したるまでや……。

「良くするように言われたしなぁ……? 稽古つけたるわ、ガキ」
「ジョシュアです」

 クソガキは顔色ひとつ変えずに真顔で応えた。
 可愛くないガキや。

「さよか。ジョシュアくん。たっぷりしごいたるから感謝しいや」

 いたぶってやればピイピイ泣いて逃げ出すかと思ったが、ジョシュアくんは案外しつこかった。
 防具もつけずにどれだけ打ち付けても、転がしても、真顔で立ち上がってくる。
 全身、青あざと擦り傷だらけだ。

 このままやと結婚させられてまう――
 俺は焦りを隠して、ハン、と鼻で笑った。

「根性だけは認めたるわ。けど、俺の足下にも及ばんな」
「はい。次お願いします」

 表情も変えずにクソ生意気なガキや――
 貴族の養子になったっちゅうのに目つきも荒みきっとる。
 祖父直々に剣技の稽古を受けている時も、この様子のようだった。
 執事のマナー教室を覗けば行儀よく微笑している姿が見えたので、猫かぶりの上手い奴や、と判定する。

 そしてある日、このジョシュアくんからお菓子みたいな香りが漂ってきた。
 ふと尋ねてみる。

「きみ、お菓子食べた?」 
「食べてませんけど」
「やけど、バニラみたいな匂いするで」
「へえ。良い匂いですか?」
「そりゃバニラは良い匂いやろ」

 お菓子は好きやし。
 くんと嗅いでいると頭が痺れてきて、ヒートを起こした時に似た感覚になってきた。
 するとジョシュアくんは淡々と、どこか優越感を滲ませて述べた。

「これ、俺のフェロモンの匂いですよ」
「………………」

 絶句した。十二歳かそこらのクソガキのフェロモンに、俺はあろうことか陶酔して、更にいい匂いと答えてしまったのだ。
 ジョシュアくんは薄っすらと笑む。

「好きならもっと嗅いでもいいですけど」
「死ねや、ザコが」

 腹が立って剣技という名の体罰を食らわせたが、余計にジョシュアくんの汗が濃くなって動揺してしまい、自爆していくようだった。

 何やねん、クソガキが、調子乗んなボケガス――。
 夜、ベッドに入った時、苛立ちが再燃してきた。

 心の中でひたすら罵ったが――、本心では羨ましかった。
 俺もアルファやったら。
 騎士学校で順風満帆に過ごして、皆に腕を認めさせて、祖父のクソジジイも叩き潰して、家督も継いでたのに――。
 そして思った。

「…………アルファに偽装したらええやん?」






つづく
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