【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

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本編

薔薇と晴れの日 2

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 俺は隊長を見据えた。

「弟は逃げるわけじゃありません」
「しかし君を守ることを放棄したのだろう」
「それは、事情を考えてのことです」
「現実を見ろ。彼には君を守る力がない。そして守ることを諦めた」
「……!」

 弟は俺を想って身を引こうとしてくれているのだ、と思ったけれど先にユリウス隊長が語気を強めた。

「番を持つなら、今が節目だ。今後いつヒートを起こして襲われるかわからない」
「これまで無事でした……!」
「私といるとフェロモンが溢れてくるのだろう」
「今までみたいに距離を保ってくれたら、溢れません……!」
「――そうだ。ここまで待った」

 声が真実味を帯びて、隊長の雰囲気が変わった。

「君の気持ちを想って尊重してきた。そして今の君は……、私に求められたいと思っているのではないか」
「そんなことは、」
「本心では私を求めているだろう」

 否定できず、喉が狭まった。弟が好きなのに気持ちは浮ついていて、ユリウス隊長がダンスパーティで誰とも踊らなかったとき安堵してしまった。俺のアルファなのだという独占欲すらあったかもしれない。

「ミカエルとは親友でいたいのだろう」
「それは……そう、で」

 ミカエルに好きだと言われるとドキドキするし嬉しいけれど、関係が崩れる恐怖も付きまとう。

「私に求められるのは歓びだろう」

 頭の奥が浸食されるように痺れてくる。出会った頃のような衝動的な引力ではない。彼は俺を好きでいて当然なのだという確信的な幸福感であり、繋ぎ止めなければいけないという焦燥感だった。醜い感情だと思うけれど、体は彼を誘惑しようとしてヒートの準備をしようとしている。ぞわぞわとした疼きが肌や体内に走って、下腹部が甘く痺れてくる。

「許嫁だった彼が自ら出ていくのだ。君もあの家から解放されたらいい」

 気付くと彼は真正面に迫ってきていた。
 清涼なシトラスとムスクの匂いに包まれ、頭が浸食されて朦朧としてしまう。

「ロイス……。私は君を置いていったりしない」
 その言葉に胸が動揺する。

「君は兄でも騎士でもなく、全てをさらけ出して良いんだ」
 理性では断ろうとしているのに、体は蕩けそうだった。

「――すまない、会場だということを忘れていた」

 そこで呆気なく手放され、俺ははっと呼吸を思い出し、よろけながら距離をおいた。
 最近は接近しないようにしてくれていたので忘れていたけれど、今でも向き合えば何も考えられなくなってしまうのだ、と気付いた。

「緊急用の抑制剤は持って来ているな?」
「は、い」
「……悪かった」

 隊長は未練を振りきるように早足で去って行く。
 見送りながら、俺は深呼吸を繰り返した。
 抑制剤を飲もうと内ポケットを探る。しかし何度探っても指先に触れる感触がなく、不審に思って眉が寄った。

「……ない」




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