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本編
恋と二択 4
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「ジョシュア」
ダンスの輪から抜けてきたところで声をかけると、弟は驚いた顔をした。
誰かと踊っていたようで、その頬は少し紅潮している。安堵と嫉妬が混ぜ合わさって、自分の気持ちがわからない。
「兄さん、どうしたの」
「もう帰ろう。ダンスは踊ったから」
「まだ始まったばかりだよ」
「いいんだ」
「……お相手のご令嬢に嫉妬してる?」
「え」
ぎくりと心臓が鳴った。
弟は複雑そうに微笑みながら、ダンスを繰り広げる人々に目を向ける。
「兄さんはどっちが好きなの?」
「どっちって……」
「ミカエルさんと、ユリウス隊長」
弟の視線の先を追うと、ダンスを終えたミカエルと目が合った。俺に声をかけようとした途端、令嬢のほうから声をかけられて、二言三言かわして手を取った。出遅れた令嬢はチャンスを逃して残念そうにしている。
会場に来てから、俺はまだ一度も話せていない。
ユリウス隊長は一切踊る気がないようだ。
ちらりと目が合い、俺は慌てて目を逸らした。俺しか見ていない様子に安堵してしまった。
そして”どっちが好き”という弟の質問を思い出した。
「――どっちもそういう対象じゃない」
「そう」
弟は困った微笑をしており、どうしてこうなるのかと心がよじれてくる。
「シド上官にも挨拶した。もう帰ろう……」
「早すぎるよ。ユリウス隊長のほうが一途かもしれないね。ミカエルさんは大物に化けそうだな」
弟は俺とふたりを交際させたいのか。
俺は何を言えば良いのだろう。
「俺は……ジョシュアも、一途、だと……」
弟に向かって何を言っているんだろう。どうにか事態をばん回させたくて言ったけれど、恥ずかしくて頬が熱を帯びていく。
そして自分自身は一途だと到底言いがたい存在だと感じる。
弟は微笑んだ。
「嬉しいな。少しはアルファとして意識してくれたのかな」
「……してる」
「……兄さんにそんな顔させるくらいなら、告白しなければよかったな」
どんな顔をしているのだろう。俺は告白してくれて嬉しかったのだ。
「兄さん、ご令嬢方が兄さんのことを待ってる」
そうだとしたら、アルファの騎士だと周囲が認めてくれているおかげだ。
「さあ行って。僕は屋敷を出ていく身分だ」
「そんなこと……」
「兄さんの幸せを砕くのが僕になったら、自分が許せないよ」
ここまで幸せな世界を開いてくれて、そう言うのか。
「兄さんはウェンダル伯爵家当主で、アルファの騎士だ」
違うと言えば、弟の献身を砕いてしまうことになる。
「…………ああ」
俺は頷いた。献身への感謝の気持ちだけじゃない。
ウェンダル伯爵の名とアルファの騎士であることは、重荷ではなく誇りだと思った。
そして思いついた。
俺が、誰よりもアルファらしいアルファになれば――。
俺をピッチングしたことにしたとき、そのアルファは誰からも敬服される存在になるんじゃないだろうか。
この状況を打開するために俺ができることはそれじゃないか。
弟は何も知らずに微笑んで、それでいいと言うように頷く。
弟に背を向けて、俺はダンスで盛り上がっている中心へ向かった。
***
10/12幕完結です。
読んで下さりありがとうございます……!
お気に入りや感想で応援してくれると嬉しいです!
執筆のモチベーションになります!
よろしくお願いします!
ダンスの輪から抜けてきたところで声をかけると、弟は驚いた顔をした。
誰かと踊っていたようで、その頬は少し紅潮している。安堵と嫉妬が混ぜ合わさって、自分の気持ちがわからない。
「兄さん、どうしたの」
「もう帰ろう。ダンスは踊ったから」
「まだ始まったばかりだよ」
「いいんだ」
「……お相手のご令嬢に嫉妬してる?」
「え」
ぎくりと心臓が鳴った。
弟は複雑そうに微笑みながら、ダンスを繰り広げる人々に目を向ける。
「兄さんはどっちが好きなの?」
「どっちって……」
「ミカエルさんと、ユリウス隊長」
弟の視線の先を追うと、ダンスを終えたミカエルと目が合った。俺に声をかけようとした途端、令嬢のほうから声をかけられて、二言三言かわして手を取った。出遅れた令嬢はチャンスを逃して残念そうにしている。
会場に来てから、俺はまだ一度も話せていない。
ユリウス隊長は一切踊る気がないようだ。
ちらりと目が合い、俺は慌てて目を逸らした。俺しか見ていない様子に安堵してしまった。
そして”どっちが好き”という弟の質問を思い出した。
「――どっちもそういう対象じゃない」
「そう」
弟は困った微笑をしており、どうしてこうなるのかと心がよじれてくる。
「シド上官にも挨拶した。もう帰ろう……」
「早すぎるよ。ユリウス隊長のほうが一途かもしれないね。ミカエルさんは大物に化けそうだな」
弟は俺とふたりを交際させたいのか。
俺は何を言えば良いのだろう。
「俺は……ジョシュアも、一途、だと……」
弟に向かって何を言っているんだろう。どうにか事態をばん回させたくて言ったけれど、恥ずかしくて頬が熱を帯びていく。
そして自分自身は一途だと到底言いがたい存在だと感じる。
弟は微笑んだ。
「嬉しいな。少しはアルファとして意識してくれたのかな」
「……してる」
「……兄さんにそんな顔させるくらいなら、告白しなければよかったな」
どんな顔をしているのだろう。俺は告白してくれて嬉しかったのだ。
「兄さん、ご令嬢方が兄さんのことを待ってる」
そうだとしたら、アルファの騎士だと周囲が認めてくれているおかげだ。
「さあ行って。僕は屋敷を出ていく身分だ」
「そんなこと……」
「兄さんの幸せを砕くのが僕になったら、自分が許せないよ」
ここまで幸せな世界を開いてくれて、そう言うのか。
「兄さんはウェンダル伯爵家当主で、アルファの騎士だ」
違うと言えば、弟の献身を砕いてしまうことになる。
「…………ああ」
俺は頷いた。献身への感謝の気持ちだけじゃない。
ウェンダル伯爵の名とアルファの騎士であることは、重荷ではなく誇りだと思った。
そして思いついた。
俺が、誰よりもアルファらしいアルファになれば――。
俺をピッチングしたことにしたとき、そのアルファは誰からも敬服される存在になるんじゃないだろうか。
この状況を打開するために俺ができることはそれじゃないか。
弟は何も知らずに微笑んで、それでいいと言うように頷く。
弟に背を向けて、俺はダンスで盛り上がっている中心へ向かった。
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10/12幕完結です。
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