【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

文字の大きさ
上 下
49 / 86
本編

告白 2

しおりを挟む
「さて、今日も行くか」

 夕暮れ、更衣室で私服に着替えたミカエルが言う。
 すると先輩たちが困惑ぎみに声をかけてきた。
 
「お前ら、今日も社交界に行かないのか?」
「今日は侯爵家で中世風の仮面舞踏会をするそうだぞ。お前のところにも招待状が来ていただろう」

 ミカエルは「ちょっと野暮用で」と困った笑顔で答えている。
 この状況が続けば、また関係を怪しまれるかもしれない。社交界での付き合いも悪くなってしまっている。

 馬車の中でミカエルは晴れ晴れとした様子で言った。

「今日のユリウス隊長の怒った顔、面白かったな。アイツはロイスの匂いに敏感だし、俺のマーキングにもまあ気付くか」
「……やっぱり、ミカエルとのマーキングはだめだ」
「なんで。睨まれても気にするような柄じゃねえよ。ユリウス隊長以外には気取られた様子もなかったし」
「……そうじゃないんだ」

 弟が好きだと言ってくれたから。
 自分の本心に気付いたから、ミカエルに期待させるようなことはできない。

「俺は――ジョシュアと結婚、したいと思ってる……」

 馬車が石畳の上をゴロゴロと進んで行く。
 結婚、と言ってしまった。許嫁だし、弟も好きでいてくれるのだからいいはずだ。
 ミカエルは軽い口調で言った。

「ロイスのことだし、ブラコンが行き過ぎたんじゃねーの?」
「……ちがうよ」
「兄弟愛だろ。アイツがいま可哀想な状態だからそう感じるんじゃねえの?」
「ちがうんだ」

 声がふるえた。
 ただの兄弟愛なら良かったのかもしれない。
 いまでも弟だと思っているけれど、好きだとも思うから、ミカエルの気持ちには応えられない。
 ミカエルは真面目な声になっていく。

「ずっとジョシュアにマーキングされてきたから、好きになっただけじゃねえの」
「それは……」
「なあロイス。俺の匂いも好きだろ」

 すごく好きだ。
 頼りがいのある男性的な匂いで、ミカエルがいれば全部が上手くいくような気がする。

「俺がマーキングしつづけたら、今度は俺のこと好きになってくれるかもしれない」
「……」
「親友としてじゃなく、アルファとして好きになってくれるかもしれない」

 否定できないでいると、ミカエルは決意した口調になった。

「今日もグレイと二人でマーキングする」
「ミカエル……だめだ」
「なんで?」

 そこまでしてもらっても、気持ちはきっと返せないと思う。

「……だめだ」
「引き返せないことになると思ってる?」

 漠然とした不安を言葉にされて、俺は頷いた。
 関係が続くほど期待させてしまって、親友だったときとの距離感がくずれていく。
 俺自身もミカエルをアルファとして意識してしまう。
 今なら親友としての関係に戻れるかもしれない。親友に戻りたい。
 ミカエルは達観したように微笑んだ。

「俺はさ。学生時代にロイスの性別に気付いて。ジョシュアはお前の弟じゃなくて許嫁なんだろうなって察してた」
「え」
「それでやけになっちゃって、ロイスに似た子に片っ端から声かけたりもした」
「――あ」

 そういえば、ミカエルは黒髪と青い目の女の子とばかり付き合っていたのだ。

「でも結局ロイスのことあきらめられなくて、付き合ってた子とは全員別れた。そっからは好きになってもらえるように一直線だった。将来の事とか何かあったときのこととか考えて人脈も作った」
「……」
「ジョシュアのフェロモンが出なくなったのは、俺にとってはチャンスなんだ。俺のこと意識してもらうならマーキングできる今なんだ」

 俺は自分のあまりの影響の大きさに衝撃を受けていた。
 学校や社交界でみんなの中心で笑っていたミカエルが、俺のことで自暴自棄になったり奔走していたなんて全く知らなかった。

「ジョシュアはお前の祖父さんが決めた運命の相手なんだろうけど、俺にとっちゃ関係ない。運命の番とかいうポッと出の野郎に奪われる気もない」
「ミカエル……」
「告白の返事は急がなくて良いから。……今は、マーキングさせてくれ」
「だ、めだ」

 そこまで想ってくれているなら、尚更だめだと思う。
 ミカエルは俺の肩を掴んだ。

「俺はお前をあきらめらんねえし、あきらめねえ」

 もう何も言えなかった。
 馬車が目的地で停まって、一緒に下りる。
 グレイとふたりきりになるのも不安で、俺はまたミカエルに頼ってしまう。
 アルファの香りに抱かれて、グレイの濃厚なバニラと、ミカエルの仄かなウッディの香りで脳が浸食されていくようだった。



しおりを挟む
※第11回BL大賞に参加中です! 投票して貰えると励みになります!!アプリの方は一覧ページに戻って頂きますと、あらすじの下に投票ボタンがあります。ウェブの方も同様ですが、各ページのタイトル上にも投票ボタンがありますので、そちらをポチっとできます。投票以外でも、感想コメントやエール機能で応援して頂くことも、大変励みになります。応援してくださる温かいお気持ちが創作意欲になりますので、どうぞよろしくお願い致します。
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚

貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。 相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。 しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。 アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...