45 / 86
本編
捜査 2
しおりを挟む
街を歩けば周囲の人たちは憧れるような目を向けてくる。
騎士の服にはそれだけの効果があるのだろう。
それにミカエルの髪は華やかな黄金色なので、余計に人目を引くのかもしれない。
ルートは俺も把握してきたけれど、ミカエルが先に案内してくれる。
いまは朗らかな雰囲気だけれど、昨日の落差で困惑してしまう。
「こっちの道だな」
「ん……」
「初めて来たなぁ。ずっと暮らしてる街なのにな」
人通りのある道には洒落た喫茶店や何の店かよくわからない小物店、雑貨屋などが並んでいる。
ルートはほとんど表通りばかりだったので、街を観光しているような感覚になりそうだった。裏どおりは憲兵が担当している。
しかし途中で裏どおりを経由することになり、小道の陰にさしかかった。
ひと気がなくなって、俺はつい訊ねた。
「……なあミカエル。昨日は何かあったのか?」
「何かって?」
ミカエルは飄々とした雰囲気で振り返る。
「様子がおかしかったような……」
「そうだっけ」
「……怒っていたのか?」
「まさか。何に怒るの」
ユリウス隊長とのいざこざで不機嫌だったのではないか。
ふがいない俺や、不真面目な態度をするグレイに怒っていたのではないのか。
怒っていないとしたら、どうしてあんなに恐かったのだろう……。
「その、次からやっぱり一人で行くよ」
「すぐにグレイに喰われちまうぜ?」
「鍛えてるし一般人には負けない。それに、ミカエルに何もかも世話をかけられない……。お金も自分でどうにかするから」
「借金でもする気か? 俺が自分でやりたいって思ってるんだよ。親友だろ」
「でも……俺はミカエルに何も返せてないし」
「見返りなんて求めてないって」
「……やっぱりひとりで大丈夫だ」
献身的な言葉をもらうほど、足を引っ張っている状況が浮き彫りになるようだった。
怒っていないと言ってくれたけれど、大切な社交界の時間をあんな状況で毎日台無しにしてしまえば、だんだん付き合いきれなくなってくるかもしれない。
「その、ミカエルに情けないところを見せたくない、から」
「……グレイに喰われてもいいってこと?」
「そういうわけじゃ……。薬を使わずに運動で汗をかいてもらえば、変な空気にもならないだろうし……」
「甘えよ。俺がいなけりゃ絶対に襲われる」
「え」
「俺が目ぇ光らせてなきゃだめなんだよ」
ミカエルはそう信じきっているように低い声音で断言した。
軽蔑されたのではと少し不安だったけれどそうではなさそうだ。
グレイに目を光らせていたから、あんなに恐い雰囲気だったのか。
しかしそう思った瞬間、ミカエルが俺に向けて釘を刺すように言った。
「ロイス、流されかけてなかったか?」
「え」
「俺がいなかったら、アイツに手ぇ貸してただろ」
「それは……」
確かに提案していた。
「俺が見てなきゃだめだろ」
「う、」
ミカエルが目を光らせているのは、グレイの行動だけじゃなく、俺が変なことをしないかどうかも含めてなのか。
行こうぜ、と言われて、羞恥や情けなさに駆られつつ着いていく。
脇道にさしかかると見回り中の憲兵と目が合って、聞かれいたかもと緊迫した。
「――お疲れ様です」
挨拶すると相手は恐縮したようにどもりながら「ぉお疲れ様です」と返してくれた。
性別に関しては話していなかったし、話を聞かれた様子もない。
けれど焦燥に駆られてしまって、逃げるようにミカエルを追った。
騎士の服にはそれだけの効果があるのだろう。
それにミカエルの髪は華やかな黄金色なので、余計に人目を引くのかもしれない。
ルートは俺も把握してきたけれど、ミカエルが先に案内してくれる。
いまは朗らかな雰囲気だけれど、昨日の落差で困惑してしまう。
「こっちの道だな」
「ん……」
「初めて来たなぁ。ずっと暮らしてる街なのにな」
人通りのある道には洒落た喫茶店や何の店かよくわからない小物店、雑貨屋などが並んでいる。
ルートはほとんど表通りばかりだったので、街を観光しているような感覚になりそうだった。裏どおりは憲兵が担当している。
しかし途中で裏どおりを経由することになり、小道の陰にさしかかった。
ひと気がなくなって、俺はつい訊ねた。
「……なあミカエル。昨日は何かあったのか?」
「何かって?」
ミカエルは飄々とした雰囲気で振り返る。
「様子がおかしかったような……」
「そうだっけ」
「……怒っていたのか?」
「まさか。何に怒るの」
ユリウス隊長とのいざこざで不機嫌だったのではないか。
ふがいない俺や、不真面目な態度をするグレイに怒っていたのではないのか。
怒っていないとしたら、どうしてあんなに恐かったのだろう……。
「その、次からやっぱり一人で行くよ」
「すぐにグレイに喰われちまうぜ?」
「鍛えてるし一般人には負けない。それに、ミカエルに何もかも世話をかけられない……。お金も自分でどうにかするから」
「借金でもする気か? 俺が自分でやりたいって思ってるんだよ。親友だろ」
「でも……俺はミカエルに何も返せてないし」
「見返りなんて求めてないって」
「……やっぱりひとりで大丈夫だ」
献身的な言葉をもらうほど、足を引っ張っている状況が浮き彫りになるようだった。
怒っていないと言ってくれたけれど、大切な社交界の時間をあんな状況で毎日台無しにしてしまえば、だんだん付き合いきれなくなってくるかもしれない。
「その、ミカエルに情けないところを見せたくない、から」
「……グレイに喰われてもいいってこと?」
「そういうわけじゃ……。薬を使わずに運動で汗をかいてもらえば、変な空気にもならないだろうし……」
「甘えよ。俺がいなけりゃ絶対に襲われる」
「え」
「俺が目ぇ光らせてなきゃだめなんだよ」
ミカエルはそう信じきっているように低い声音で断言した。
軽蔑されたのではと少し不安だったけれどそうではなさそうだ。
グレイに目を光らせていたから、あんなに恐い雰囲気だったのか。
しかしそう思った瞬間、ミカエルが俺に向けて釘を刺すように言った。
「ロイス、流されかけてなかったか?」
「え」
「俺がいなかったら、アイツに手ぇ貸してただろ」
「それは……」
確かに提案していた。
「俺が見てなきゃだめだろ」
「う、」
ミカエルが目を光らせているのは、グレイの行動だけじゃなく、俺が変なことをしないかどうかも含めてなのか。
行こうぜ、と言われて、羞恥や情けなさに駆られつつ着いていく。
脇道にさしかかると見回り中の憲兵と目が合って、聞かれいたかもと緊迫した。
「――お疲れ様です」
挨拶すると相手は恐縮したようにどもりながら「ぉお疲れ様です」と返してくれた。
性別に関しては話していなかったし、話を聞かれた様子もない。
けれど焦燥に駆られてしまって、逃げるようにミカエルを追った。
13
※第11回BL大賞に参加中です! 投票して貰えると励みになります!!アプリの方は一覧ページに戻って頂きますと、あらすじの下に投票ボタンがあります。ウェブの方も同様ですが、各ページのタイトル上にも投票ボタンがありますので、そちらをポチっとできます。投票以外でも、感想コメントやエール機能で応援して頂くことも、大変励みになります。応援してくださる温かいお気持ちが創作意欲になりますので、どうぞよろしくお願い致します。
お気に入りに追加
437
あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚
貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。
相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。
しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。
アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる