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本編
捜査 1
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メモの差出人はきっとグレイだろう。
オメガの秘密を使って俺を脅迫するつもりだろうか。
それとももしかすると、性行為に誘われているのろうか……。
先ほどのマーキングの時間は悪夢のようだったから、ミカエルのいないところでマーキングしようという誘いかもしれない。他の悩みも全部ちいさなことに思えてしまうくらい、ミカエルの別人のような姿は恐ろしかった。
ダイニングで朝の日課のコーヒーを一口飲むと、ここが日常の我が家なのだと感じられた。
「兄さん、今日もマーキングに行くの?」
「ああ」
答えると、弟は焦燥混じりの影のある表情になった。
そんな顔をさせたくないけれど、少なくとも”力になれなくてごめん”と言わせるよりはマシだった。周囲にも俺はまだアルファとして見てもらっているようだし、疑惑を晴らすためにもしばらく続けたほうがいい。
朝食に手をつける前に自分宛ての手紙を確認すると、いつも通りに社交サロンの招待やお見合いの誘いが届いている。しかし俺個人に向けた内容ばかりだ。弟のフェロモンが消えてしまったことが原因なのだろう。
弟の手元にある手紙は激減している。届いている手紙は弟のことを想ってくれている人たちなのだと思う。
ついこの前までは弟への見合い話に心を乱して、俺が束縛してるんじゃないかと想像していたのに、今は届いている手紙が有難かった。同時にフェロモンの有無で弟を切り捨てた周囲に疑念を覚えてしまう。
「今日は学校は休むことにするよ」
弟は口元に微笑みを浮かべて言った。
「え。どうして」
「体調がよくないから。少し休もうと思う」
「……そうか。うん、それがいい」
ストレスが原因かもしれないと主治医のマイルズ先生も言っていた。
卒業は来月に迫っており、授業も落ち着いているので、いまこそ治療を優先して療養するときだ。
「――その事件、気を付けてね」
ふと弟が目を向けた先には、オメガ連続殺人事件の新聞記事があった。
例年よりも件数が多いらしい。
「俺はアルファだと思われてるから大丈夫だよ」
「兄さんはうっかりしてるから。例のマーキング相手やフレデリックの件から漏れる可能性もあるし」
「それは……そう、かもしれないが」
「一人きりにならないようにしてね」
「うん……」
グレイのメモの場所へひとりで行くのは危険、だろうか。
*
「おはよう諸君!」
広場で整列した中隊の前で、シド上官が背筋を伸ばして声を上げた。
「集まってもらったのは他でもない! かねてより続くオメガ連続暴行殺害事件についてである! 犯人はいまだ不明、市民の不安は高まっており、我々もこの状況を看過できない! そこで憲兵と協力し、持ち回りで市中警備をすることになった! 君たちの活躍に期待している!」
言い終えると上官は去っていく。
ついに本格的に犯人逮捕に向けて動くのだ。
すると傍らに立っているミカエルが言った。
「侯爵様がもうすぐ結婚だし、治安が乱れたままじゃ祝えないってことだろな」
「……ああ」
犠牲者よりも、侯爵の結婚式のほうが優先なのだ。
補佐官として前に立つと、俺は見回り時の隊員のペア割りを読み上げていく。
「市中警備のペア割りを発表します。■■と■■、■■と■■、――ミカエル・ローデリックとロイス・ウェンダル」
本来なら補佐官は隊長と一緒に中心部に待機するはずだけれど、ヒートの誘発を避けるために別行動になったのだ。いつもならミカエルとペアになれたら嬉しいけれど、今回ばかりは内心で動揺が走っていた。
発表を終えて各員が動き出したとき、隊長が真摯な面持ちで言った。
「君の意向を組んだ」
「……はい」
「治安が悪化している……。ミカエルの側を離れるな」
念を押す声を聞いて、改めて俺の意志と安全を第一にしてくれているのだと痛感する。
近付かないでほしいという頼みを聞いてくれて、さらに事情を知っているミカエルとペアにしてくれたのだ。
ミカエルの姿には今も影があるように見えて、俺は緊迫しながら近づいた。
オメガの秘密を使って俺を脅迫するつもりだろうか。
それとももしかすると、性行為に誘われているのろうか……。
先ほどのマーキングの時間は悪夢のようだったから、ミカエルのいないところでマーキングしようという誘いかもしれない。他の悩みも全部ちいさなことに思えてしまうくらい、ミカエルの別人のような姿は恐ろしかった。
ダイニングで朝の日課のコーヒーを一口飲むと、ここが日常の我が家なのだと感じられた。
「兄さん、今日もマーキングに行くの?」
「ああ」
答えると、弟は焦燥混じりの影のある表情になった。
そんな顔をさせたくないけれど、少なくとも”力になれなくてごめん”と言わせるよりはマシだった。周囲にも俺はまだアルファとして見てもらっているようだし、疑惑を晴らすためにもしばらく続けたほうがいい。
朝食に手をつける前に自分宛ての手紙を確認すると、いつも通りに社交サロンの招待やお見合いの誘いが届いている。しかし俺個人に向けた内容ばかりだ。弟のフェロモンが消えてしまったことが原因なのだろう。
弟の手元にある手紙は激減している。届いている手紙は弟のことを想ってくれている人たちなのだと思う。
ついこの前までは弟への見合い話に心を乱して、俺が束縛してるんじゃないかと想像していたのに、今は届いている手紙が有難かった。同時にフェロモンの有無で弟を切り捨てた周囲に疑念を覚えてしまう。
「今日は学校は休むことにするよ」
弟は口元に微笑みを浮かべて言った。
「え。どうして」
「体調がよくないから。少し休もうと思う」
「……そうか。うん、それがいい」
ストレスが原因かもしれないと主治医のマイルズ先生も言っていた。
卒業は来月に迫っており、授業も落ち着いているので、いまこそ治療を優先して療養するときだ。
「――その事件、気を付けてね」
ふと弟が目を向けた先には、オメガ連続殺人事件の新聞記事があった。
例年よりも件数が多いらしい。
「俺はアルファだと思われてるから大丈夫だよ」
「兄さんはうっかりしてるから。例のマーキング相手やフレデリックの件から漏れる可能性もあるし」
「それは……そう、かもしれないが」
「一人きりにならないようにしてね」
「うん……」
グレイのメモの場所へひとりで行くのは危険、だろうか。
*
「おはよう諸君!」
広場で整列した中隊の前で、シド上官が背筋を伸ばして声を上げた。
「集まってもらったのは他でもない! かねてより続くオメガ連続暴行殺害事件についてである! 犯人はいまだ不明、市民の不安は高まっており、我々もこの状況を看過できない! そこで憲兵と協力し、持ち回りで市中警備をすることになった! 君たちの活躍に期待している!」
言い終えると上官は去っていく。
ついに本格的に犯人逮捕に向けて動くのだ。
すると傍らに立っているミカエルが言った。
「侯爵様がもうすぐ結婚だし、治安が乱れたままじゃ祝えないってことだろな」
「……ああ」
犠牲者よりも、侯爵の結婚式のほうが優先なのだ。
補佐官として前に立つと、俺は見回り時の隊員のペア割りを読み上げていく。
「市中警備のペア割りを発表します。■■と■■、■■と■■、――ミカエル・ローデリックとロイス・ウェンダル」
本来なら補佐官は隊長と一緒に中心部に待機するはずだけれど、ヒートの誘発を避けるために別行動になったのだ。いつもならミカエルとペアになれたら嬉しいけれど、今回ばかりは内心で動揺が走っていた。
発表を終えて各員が動き出したとき、隊長が真摯な面持ちで言った。
「君の意向を組んだ」
「……はい」
「治安が悪化している……。ミカエルの側を離れるな」
念を押す声を聞いて、改めて俺の意志と安全を第一にしてくれているのだと痛感する。
近付かないでほしいという頼みを聞いてくれて、さらに事情を知っているミカエルとペアにしてくれたのだ。
ミカエルの姿には今も影があるように見えて、俺は緊迫しながら近づいた。
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