【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

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本編

悪魔と警鐘 2

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 朝の更衣室に行き、人が来る前に着替えを済ます。
 基地のみんなには今まで通りアルファとして見てもらえるだろうか……。
 緊張しながら鏡でスカーフを整えていると、ぱらぱらと隊員たちが集まってきた。

「ロイスさん、おはようございまーす」
「ロイス、おはよう」
「おはようございます」

 先輩や後輩たち、そしてミカエルと挨拶していく。
 怪しまれていないか目配せして確認するけれど、特に変わったところはない。
 そのとき離れたロッカーから会話が聞こえてきた。

「フレデリックは休みか?」
「キースとベンジャミンも休むって言ってましたよ。昨日も宿舎でこもってました」
「風邪か?」
「さあ」
 
 三人の名前が出てぎくりとする。
 しかし隣にいるミカエルが平気だ、と言うように頷いてくれて、冷静さを取り戻した。
 ユリウス隊長は三人を僻地へ移動させると言っていたし、近日中に基地を去るだろう。
 危険が遠くへいくのは安心だけれど、改めて大事になってしまった……と思う。
 そのときミカエルが声を潜めてきた。

「俺がへばりついてたらまた関係を怪しまれちゃうから、今日は少し離れとくな」
「――うん」

 覚悟をして、更衣室を出る。
 この後は広場でユリウス隊長と会うことになる。
 隊長は俺の匂いに敏感なようなので、きっとバニラの香りに気付くだろう。しかし俺の気持ちを尊重して騎士を続けていいと言ってくれていたし、きちんと説明すればきっと大丈夫……、そしてなるべく近づかないにしてもらおう……。できるだろうか不安だけれど、やるしかない。

 広場で隊員たちの出勤を確認していく。
 フレデリック、キース、ベンジャミン以外は揃っている。何となく皆の視線を感じるけれど、神経質になっているのか本当に見られているのか判別できない。いまはただアルファとして振舞うだけだ。
 ユリウス隊長おはようございます、と声が聞こえて、隊長が来たことに気付いた。
 おはよう、と返事をする隊長は私服の時とちがって冷涼な雰囲気を纏っている。
 俺も報告するため向かった。

「おはようございます」

 すると隊長の眉が怪訝そうに寄った。
 バニラの匂いに気付いたのだろう。
 報告をしたあと、隊長は言葉を付け足した。

「後で話を聞かせてくれるか?」
「……わかりました」

 頷いてから、訓練へ向かった。





「補佐官の仕事は慣れたか?」

 昼休憩でサンドウィッチを食べているときだった。
 先輩の一人に話しかけられて俺はどきりとした。
 輪になって集まっており、ミカエルも揃っているので慌てることは無い。

「ええ、なんとか」
「ユリウス隊長、俺たちにちょっと当たりがきつい感じがしてさ。ロイスが補佐官してくれて助かるよ」
「ユリウス隊長といえば、ミカエル。おとといの決闘騒ぎはなんだったんだ?」

 触れられたくない話題が出てきて、俺は蒼白した。
 ミカエルはさも困った顔で眉を下げる。

「プライベートでトラブルがあったんすよ。訓練時間だったのにすみません」
「それはいいけど、名家の伯爵に睨まれたらマズイんじゃないのか? 実家の事業とか」
「事業に私情を持ち込むタイプじゃないんでそこは大丈夫です。向こうもデメリットが大きいですし」
「それもそうか」

 話がまとまって安心したときだった。

「おまえってやっぱアルファか」
「え」

 先輩に何気なく言われてどきりとする。

「いや、この前ミカエルの匂いがしてるような気がして……ピッチングでもされたのかと」
「おまえ、ロイスの匂いチェックしてんの? 気持ちわるいぞ」
「鼻が効くんだよ!」
「ピッチングって?」

 別の先輩が言う。

「アルファがアルファを支配してオメガにすることだよ」

 ああー聞いたことあるなあ、と集団がうなずいた。なにそれ、と驚いている者もいる。

「ていうか、ロイスがピッチングされるなんてどういう妄想してるんだ」
「まさか自分がしたいって思ってるんじゃないだろうな」
「ぉ思ってねえよ!」

 騒いでいると、別の先輩がこっそりと聞いてきた。

「ロイスって、アルファ同士の恋愛について考えたことあるか?」
「え?」
「その……アリとかナシとか」
「アリじゃ、ないですか?」
「そ! そうだよな!」

 喜んで言われたけれど実際はよく考えたことはなく、俺はあいまいに頷いた。
 そのときミカエルが声を上げた。

「そろそろ休憩終わりだぜー! 行こうぜロイス」
「う、うん」

 また後で、と先輩に断りをいれて、俺は逃げるようにミカエルの元へ行った。
 多分、アルファだと思われているようだけれど、探りを入れられる空気が心臓に悪い。


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