【完】オメガ騎士は運命の番に愛される《義弟の濃厚マーキングでアルファ偽装中》

市川パナ

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本編

庭園とバニラ 4

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 応接間へ行くと、ミカエルは来客用のソファに座っていた。

「ミカエル、待たせた」
「ん……いいよ。昨日は眠れた?」
「うん……」

 今朝は騎士を辞める決断を話すつもりだったのに、ユリウス隊長の話を聞いてもう迷いが生まれている。
 ミカエルは思い詰めた様子で両手の指を組んだ。

「ロイスの性別の秘密はまだ守れてる。フレデリックの事は黙らせておいたから、アイツから情報が漏れることはねえ」
「え?」
「社交界のツテで弱みを握って脅したんだ。職場にバレたらマズイような内容」

 ミカエルの腕に感心していいのか心配になっていいのかわからず、俺は頷いた。

「昨日のうちに先輩ふたりには家族の職場関連のことで脅しておいた。平民相手だと他に手がなくて」
「……そうか」

 ミカエルの家は幅広く事業を行っているので、関連する取引先も多い。もし圧力をかければ平民の一家はひとたまりもなくなるだろう。
 しかし、ミカエルの手を汚してしまったような気がする……。

「ミカエル。――俺、やっぱり騎士を辞めようと思う」

 やはり辞めるべきだ。
 ミカエルは予感していたように表情を固くした。

「そのことだけど――ひとつ、考えがある」
「前に話してた番契約のことなら……」
「それとは別だよ」

 ミカエルの雰囲気がいつもと違って鬼気迫ったものに見える。

「別って?」
「今用意してる。来てくれたらわかる」

 どこか血走ったような目がこわい。

「あの。騎士をつづける話ならユリウス隊長にも誘ってもらって」
「――は?」
「番契約しようって言ってもらって。いい話、なんだ。でもやっぱり騎士は続けられない。だからもう……」
「いや。番契約って。俺が誘ってたのと同じじゃねえの?」
「いや、隊長は結婚を前提にと言ってくれていて」
「それって、結婚前提なら番契約するってこと?」
「それは……う、ん」

 瞬間、ミカエルが何かを言おうとして、口を薄く開いたまま固まった。
 数秒たっただろうか。

「……ミカエル?」
「ロイスは、ユリウス隊長と結婚したいのか?」
「それは……考えてみようと、思ってる」

 運命の番なんて本能でしかないとずっと拒んでいたけれど、真剣に向き合ってみたら一番冷静な判断だと思う。
 ミカエルからは本能に負けてしまったように見えるだろうか。

「…………ミカエル?」
「……ジョシュアのことはどうすんの? アイツ、お前が辞めたら自分のせいだって背負いこむぜ」
「それは……そうかもしれない、けど」
「ジョシュアのことが大事なら、今は騎士を辞めるタイミングじゃねえだろ」
「……」

 弟はすごく大事だ。けれど辞める準備は早い方が良いのではないか。

「ロイス。俺の案は番とかじゃねえ。今までみたいに騎士を続けられるんだ」
「え」
「今夜迎えに来る。待っててくれ」

 凄みのある笑みをしてて、俺は半ば気圧された状態で頷いた。



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